2016ヴィクトリアマイル


サンデー×ロベルトのマジック

 5月1日に行われた香港のチャンピオンズマイル-G1を楽勝したモーリスは昨年の安田記念-G1からのG1連勝を4に伸ばした。ヨーロッパであれば、たとえばミエスクの昔からロックオブジブラルタルIREやフランケルに至るまで、英仏(米)のマイルG1だけを転戦してキャンペーンができ、力があったり相手に恵まれたりすれば連戦連勝で大スターとなれるわけだが、アジアでもようやくマイル専業の名馬誕生に対しての地理的な制約がなくなりつつある。モーリスは父のスクリーンヒーローがグラスワンダーUSA×サンデーサイレンスUSA、母のメジロフランシスがメジロ牝系にサドラーズウェルズ系のカーネギーIRE×リファール系のモガミFRという構成だから、ロベルト+サンデーサイレンスUSA+ノーザンダンサーと単純化することができる。特にロベルトとサンデーサイレンスUSAの協力は、出走馬中サンデーサイレンスUSAの血を持たないものが1頭という今回のようなケースが当たり前になってくるこれからの時代の大きなテーマ。ダンチヒとミスタープロスペクター、サドラーズウェルズとデインヒルUSAというふうに、かつては競争していた血統が、やがて1頭の馬の血統表に並んで協力するのは歴史の自然な流れで、その流れの進む先を見越すことができれば中期的には勝者になれる。そして、短期的に馬券にするにはどうすればいいかということで、先週はロベルト系の代表であるブライアンズタイムUSA直仔に目をつけたが、そのダンツプリウスは昨年のこのレース5着のカフェブリリアント以来1年ぶりのブライアンズタイムUSA産駒G1掲示板確保というささやかな記録を達成するだけに終わった。
 そこで、少し角度を変えて母の父としてのブライアンズタイムUSAがサンデーサイレンスUSA系種牡馬とどれだけ協力できているかを下表に示した。最新のディーマジェスティに典型的に現れているように強烈なジャイアントキラーが少なくない。マジックタイムは母タイムウィルテルがフローラS2着の活躍馬。祖母フサイチカツラは4勝を挙げ、メイS2着、万葉S3着、ダイヤモンドS4着などサドラーズウェルズ産駒らしく長距離で活躍した。母のブライアンズタイムUSA×サドラーズウェルズという配合はディーマジェスティの母エルメスティアラと同じ。父がディープインパクトかハーツクライかという点では大きな違いが出る可能性があるが、前者であれば3歳クラシック向き、後者は古馬G1向きといえる面もあるだろう。3代母の産駒クリスザブレイヴは富士Sに勝ち、孫のオースミスパークは小倉大賞典に勝った。4代母アズリナはリディアテシオ賞-伊G1、伊1000ギニーに勝ち-G2、伊ダービー-G1でも3着と健闘している。2400m向きの血を積み上げたマイラーといえるが、モーリスにしてもアルゼンチン共和国杯勝ちのメジロモントレーに凱旋門賞馬カーネギーIRE、ジャパンC勝ち馬スクリーンヒーローを重ねているから、長距離血統のマイラーは強い相手の揃ったG1でこそ底力を発揮する可能性が高い。


サンデーサイレンスUSA系種牡馬×ブライアンズタイムUSA牝馬の重賞勝ち
馬名生年主な成績
ディーマジェスティ2013ディープインパクト皐月賞-G1
ビートブラック2007ミスキャスト天皇賞(春)-G1
スリーロールス2006ダンスインザダーク菊花賞-G1
エスポワールシチー2005ゴールドアリュールJCダート-G1、フェブラリーS-G1ほか
クロスクリーガー2012アドマイヤオーラ兵庫Chp.、レパードS-G3
サンライズペガサス1998サンデーサイレンスUSA大阪杯-G2、毎日王冠-G2
マジックタイム2011ハーツクライダービー卿チャレンジT-G3
メイケイペガスター2010フジキセキ共同通信杯-G3
サクラプレジール2010サクラプレジデントフラワーC-G3
トレンドハンター2008マンハッタンカフェフラワーC-G3
スティールパス2007ネオユニヴァーススパーキングレディーC

 ディープインパクト産駒のG1勝ち馬は23頭いて、現代日本最大のエリート閥だが、その中でも複数のG1に勝っているのはリアルインパクト、ジェンティルドンナ、ヴィルシーナなどわずかに5頭。その超エリートクラブのうちの2頭、ショウナンパンドラとミッキークイーンが昨年のジャパンC-G1以来の直接対決となる。ショウナンパンドラは皐月賞-G1 2着馬マカヒキなど多くの活躍馬がいるディープインパクト×フレンチデピュティ。母キューティゴールドはステイゴールドの半妹、祖母ゴールデンサッシュはサッカーボーイの全妹にあたる。サッカーボーイの活躍は30年近く前だからもはやいにしえの名馬と呼ぶべきかもしれないが、直線であっという間にホクトヘリオスを4馬身ち切り捨てた1988年マイルチャンピオンシップの一戦だけでも史上屈指の名マイラーといえる。サッカーボーイ、ステイゴールド、ディープインパクトとそれぞれ個性の違う瞬発力の混合はうまく噛み合えば大変な力になるはずで、5歳の今年は昨年以上の成果を上げる可能性もある。

 日本的に筋の通った牝系であるショウナンパンドラに比べると、▲ミッキークイーンはジェンティルドンナ型というか、母が突如活躍したマイナー血統の欧州馬。母ミュージカルウェイFRはドラール賞-仏G2など重賞に3勝し、2007年の香港カップ-G1では最低人気ながらシャドウゲイトに先着して3着に健闘した。その父はミュゲ賞-仏G2などG2やG3には4勝したが、名前のせいかG1では2、3着止まりだった。その父ゴールドネエフも仏2000ギニー-G1 2着などG1には足りなかったが、ヌレエフ×ゴールドリヴァーの良血が買われて種牡馬となった。ヴェルテメール家の自家用血統なのでG1の2着なら派手なタイトルがなくても十分高い能力が証明されていると考えていいのかもしれない。牝系は5代母まで遡るとその孫に英2000ギニー馬ノノアルコUSAが出ているが、それより近い代の重賞勝ち馬は4代母の孫に南アフリカのG3に勝ったフィロニコンがいるのみ。このように地味な牝系から突如現れた活躍牝馬の産駒にはサンデーサイレンスUSA、シンボリクリスエスUSA、そしてジェンティルドンナなど堂々たるチャンピオンに育った例がある。

 エルコンドルパサーUSAはキングマンボ×サドラーズウェルズという世界的ニックスの先駆けとなり、そして父としても母の父としてもやはり良駒にはキングマンボとサドラーズウェルズの良さをしっかりと伝えた点で代わる者がいない。サンデーサイレンスUSA系との組み合わせではゴールドアリュールを父としてクリソライト、ディープインパクトを父としてエリザベス女王杯-G1のマリアライトとそのうちG1勝ちを果たしそうなアンビシャスを出している。シュンドルボンはハーツクライとの組み合わせだからいかにも底力がありそうで、大物食いの期待がかけられる。3代目に並ぶトニービンIREとリヴァーマンといった欧州型ナスルーラの血も、サンデーサイレンスUSA的な瞬発力に奥行きを与えそうだ。3代母ウォータールーは1972年の英1000ギニー-G1、前年のチェヴァリーパークS-G1勝ち馬で、子孫にも活躍馬が多い。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.5.15
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