2016優駿牝馬


うらやむべき名門

 イギリスの実業家ワインストック男爵のバリマコルスタッドに発するサニーヴァリー系の流れが日本に至って名門牝系の名門たるゆえんを示したのが、今から20年前の東京優駿、フサイチコンコルドによる勝利だった。その後、この牝系の重賞勝ちは昨年の3月28日、エリンバードの孫ミュゼエイリアンによる毎日杯-G3とアドマイヤラピスの孫アドマイヤデウスによる日経賞-G2の同門同日制覇が最新ということになるが、この牝系の40年をコンパクトにまとめるには下表の通りG1勝ちのみに絞らなければならない。日当たりの良い谷=サニーヴァリーがバレエの女王=バレークイーンIREへと変化したのは、この牝系に大種牡馬サドラーズウェルズが配合されることが多かったからだが、ヘヴンリーロマンスからシンハライトまで、今や大成功しているサンデーサイレンスUSAとサドラーズウェルズの組み合わせの土台作りをしてきたファミリーのひとつがサニーヴァリー系であることは間違いない。ネオユニヴァース×サドラーズウェルズの配合による皐月賞馬アンライバルドはその成果といえる。

 サニーヴァリーの5代孫にあたるジェラシーは4代母サンプリンセスが名牝。オークス勝ちのあとキングジョージVI世&クイーンエリザベスS-G1に挑んで3着、夏にヨークシャーオークス-G1とセントレジャー-G1を連勝して臨んだ凱旋門賞-G1では2着となった。引退後にサドラーズウェルズを配合されて生まれた初仔プリンスオブダンスはデューハーストS-英G1に勝ち(同着)、その全妹がのちの名繁殖牝馬となるバレークイーンIREだ。バレークイーンIREの子孫には下表のほか産駒に京成杯のボーンキング、孫に阪神大賞典のリンカーン、函館2歳Sのアンブロワーズが出ており、フサイチコンコルドの東京優駿の13年後にその半弟アンライバルドが皐月賞馬となったことでも話題となった。トニービンIRE産駒の祖母グレースアドマイヤは芝1600〜2500mで5勝を挙げたほか、府中牝馬S2着、4歳牝特(東)3着がある活躍馬。メジロドーベルとキョウエイマーチが揃った世代でよく健闘したといえよう。母グローリアスデイズはそこにサンデーサイレンスUSAを配されたが、こちらもダンスインザムードやスイープトウショウのいる強い世代に生まれてしまい、フローラS2着、ローズS2着と重賞勝ちのタイトルには手が届かなかった。配合上はバレークイーンIREの欧州的重厚さを脱して日本的な瞬発力へとその傾向を移してきたわけだが、ハービンジャーGBを配合されたことで、また欧州2400m型への回帰が志向されたようには見える。ただ、キングジョージVI世&クイーンエリザベスS-G1を11馬身差で圧勝したハービンジャーGBはダンシリを経てデインヒルUSAへと遡る父系。90年代型のサドラーズウェルズの後を襲ってより広い領域で活躍するデインヒルUSAは21世紀型ということはでき、欧州的ステイヤーといっても近代化は果たされている。特にサンデーサイレンスUSAの血が浸透拡散した今では、大きな可能性を持っている。ただ、可能性を持っていながら事実としてこれまでの2世代で重賞勝ちはベルーフとプロフェットの京成杯-G3、ドレッドノータスの京都2歳S-G3の3つ。G1では掲示板すらない。見た目の印象で言えば、ハービンジャーGBの母の父ベーリングの影響が強いように思える。ベーリングはジョッキークラブ賞-G1(仏ダービー)をレコードで制した名馬だが、生まれた時代が悪かったというべきか、凱旋門賞-G1ではダンシングブレーヴの豪脚に屈して2着に終わった。早目先頭に立ったハービンジャーGB産駒が切れ味に優れたディープインパクト産駒に負けるなかば定型的なシーンは、1986年凱旋門賞-G1のビデオを見ているようだ。そのように短所のはっきりしているハービンジャーGB産駒だが、長距離戦には強い。恐らくこの世代の牝馬で一番強いメジャーエンブレムも、桜花賞馬ジュエラーもいないのであれば、(シンハライトはいるけれど)その強みを生かす芽が出てくるのではないか。


日当たりの良い谷に大繁栄した名馬群
Sunny Valley(IRE) サニーヴァリー 鹿毛 1972年生 父Val de Loir(FR) 生産:バリマ
  コルスタッド
 Dansing Shadow(IRE) 1977
 |Maid of Erin(USA) 1982
 ||エリンバードFR Erin Bird 1991
 || エリンコート 2008 優駿牝馬G1
 |River Dancer(IRE) 1983
 ||Well Head(IRE) 1989
 |||Spring Symphony(IRE) 1998
 ||||GLASS HARMONIUM(IRE) グラスハーモニウム 牡 2006 マッキノンSG1
 |||コンデュイットIRE Conduit 牡 2005 セントレジャーG1、キングジョージVI世&
 |||  クイーンエリザベスSG1、BCターフG1×2
 ||Ballet Shoes(IRE) 1990
 |||PETRUSHKA(IRE) ペトルーシュカ 1997 愛オークスG1、ヨークシャーオーク
 |||  スG1、オペラ賞G1
 ||SPECTRUM(IRE) スペクトラム 牡 1992 愛2000ギニー、英チャンピオンSG1
 |Ballerina(IRE) 1991
 | MILLENARY(GB) ミレナリー 牡 1997 セントレジャーG1
 SUN PRINCESS(GB) サンプリンセス 1980 オークスG1、ヨークシャーオークスG1、
 |    セントレジャーG1
 |PRINCE OF DANCE(IRE) プリンスオブダンス 牡 1986 デューハーストSG1
 |バレークイーンIRE Vallet Queen 1988
 | フサイチコンコルド 牡 1993 東京優駿
 | グレースアドマイヤ 1994 2着:府中牝馬S
 | |グローリアスデイズ 2001 2着:ローズS、2着:フローラS
 | | ジェラシー 2013
 | |ヴィクトリー 牡 2004 皐月賞
 | アンライバルド 牡 2006 皐月賞
 Elevate(IRE) 1985
 |アドマイヤラピスIRE 1992
 | アドマイヤホープ 牡 2001 全日本2歳優駿
 SADDLERS' HALL(IRE) サドラーズホール 牡 1988 コロネーションCG1

 シンハライトはハービンジャーGB産駒の天敵ともいえるディープインパクト産駒で、母の父はジャパンC-G1勝ち馬シングスピールIRE。シングスピールIREはサドラーズウェルズの血を導入しつつ、サンデーサイレンスUSA系種牡馬との組み合わせでは、ヘイローの近交にもなる。母のシンハリーズGBは現役時、英国から米国に渡って3戦目のアメリカンオークス-G1で3着となり、一般線1着のあとデルマーオークス-G1でG1のタイトルを得た。2002年生まれだから、アメリカンオークスの勝ち馬はシーザリオということになる。同じレースの勝ち馬の産駒が東京優駿-G1の、3着馬の産駒が優駿牝馬-G1の勝ち馬となるようなら奇縁というほかない。

 ▲デンコウアンジュは2冠馬メイショウサムソンと凱旋門賞馬マリエンバードIREの組み合わせ。上がり3F35秒の脚しか使えなさそうな字面の血統でありながら、33秒台の脚でメジャーエンブレムを差し切った事実がある。3代目に並ぶカーリアン、サドラーズウェルズ、ダンシングブレーヴUSAはそれぞれ80年代を代表するノーザンダンサー系の大御所であり、同じ列にサンデーサイレンスUSAが並んでいるのもスパイスとしての効果が大きそうではある。3代母の父パーソロンIREはカネヒムロ、タケフブキ、ナスノチグサ、トウコウエルザで1971年から1974年まで優駿牝馬4連勝を果たした(昔の)オークス血統でもある。1930年輸入のステファニアGBに遡る牝系で、天皇賞(秋)のフジノパーシアとスリージャイアンツが出たヒガシヒメの分枝。

 レッドアヴァンセはリディル、クラレント、レッドアリオン、サトノルパンと上4頭が重賞勝ち馬で、伯母エリモシックはエリザベス女王杯勝ち馬。3代母の子孫には“エリモ”の名馬多数。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.5.22
©Keiba Book