2016高松宮記念


怪盗紳士は豹変す

 今週25日に14回目の誕生日を迎えたディープインパクト。その産駒は先週まで7週連続重賞勝ちを果たし、今年に入ってから下表の通り既に10の重賞に勝った。毎年の年明けから阪神大賞典-G2が終わるまでの期間の重賞勝ちを数えてみると、産駒が3歳に達した2011年は東日本大震災による開催中止の影響もあってトーセンラーのきさらぎ賞-G3ひとつ。2012年はジェンティルドンナのシンザン記念-G3など5。2013年はダノンバラードのアメリカJCC-G2など4、2014年はミッキーアイルやハープスターなどの活躍で9に達したが、2015年はリアルスティールの共同通信杯-G3を含む3にとどまった。まだ冬の続きともいえるこの季節に、3歳、古馬、牡馬、牝馬が満遍なく勝っているのは珍しく、今年はよほど勢いがあるのだろうと判断できる。1200m重賞でのディープインパクト産駒は2歳戦を除くとウリウリのCBC賞-G3とサトノルパンの京阪杯-G3の2つしか勝ち鞍がなく、1200mのG1にはこれまで延べ8回挑んで(0.0.2.6)。2014年スプリンターズS-G1のレッドオーヴァルと昨年のこのレースのミッキーアイルの2度の3着があるのみだ。このような未開拓分野へ分け入るには今のこの勢いが必要不可欠だとも言えるだろう。先代のサンデーサイレンスUSAもスプリントG1の攻略には時間がかかったというか、それほど本格的に戦力を回さなかったせいもあるが、初めて1200mでG1級のレースを制したのは第7世代1998年生まれのビリーヴによる2002年のスプリンターズS。初年度産駒デビューから9年目のことだった。ディープインパクト産駒は今年でまだ7年目だが、何事につけ先代より早く達成することを旨としているだけに、機は熟したと見ることもできる。


重賞勝ちを続ける今年のディープインパクト産駒
日付競馬場レース距離馬場勝ち馬性齢人気オッズ
1月24日中山アメリカJCC-G2芝2200mディサイファ牡75.0
2月7日京都きさらぎ賞-G3芝1800mサトノダイヤモンド牡31.2
2月7日東京東京新聞杯-G3芝1600mスマートレイアー牝69.6
2月14日東京共同通信杯-G3芝1800mディーマジェスティ牡322.6
2月21日小倉小倉大賞典-G3芝1800mアルバートドック牡45.7
2月28日阪神阪急杯-G3芝1400mミッキーアイル牡53.8
3月5日阪神チューリップ賞-G3芝1600mシンハライト牝35.6
3月6日中山弥生賞-G2芝2000mマカヒキ牡32.6
3月12日中京中日新聞杯-G3芝2000mサトノノブレス牡65.6
3月20日中山スプリングS-G2芝1800mマウントロブソン牡38.0

 サトノルパンは名牝エリモピクシーの4番仔。えりも農場の預託を受けた川上悦夫牧場で生まれたエリモピクシーはオープンの芝1600mファイナルSを含め芝1200〜1800mで7勝。重賞勝ちには届かなかったが、京都牝馬S、愛知杯、福島牝馬Sで3着がある。産駒は初仔リディルがスワンS-G2とデイリー杯2歳Sに勝ち、1年開いた2番仔クラレントはデイリー杯2歳S-G2、富士S-G3など重賞6勝、3番仔レッドアリオンはマイラーズC-G2と関屋記念-G3に勝っている。京阪杯-G3勝ちの本馬まで産駒4頭が連続して重賞勝ち馬となる優秀な繁殖成績は、5歳上でエリザベス女王杯に勝った全姉エリモシックを凌ぐもので、ノースヒルズマネジメント、実家のエクセルマネジメントと続いた流浪ののちに今はノーザンファームに落ち着いており、名牝としての地位を確固たるものにしていきそうだ。祖母のエリモシューテングはテスコボーイGBの娘で忘れな草賞に勝った活躍馬。15頭の産駒が馬名登録されたが、オープン勝ちを果たしたのはダンシングブレーヴUSAとの配合によるエリモシックとエリモピクシーの2頭だけで、プリンシパルSで3着となったディーエスハリアーの父もダンシングブレーヴUSA直仔のコマンダーインチーフGBだった。3代母デプグリーフUSAの子孫には菊花賞2着のパッシングサイアー(父ゲイサンFR)、金鯱賞のパッシングパワー(ゼダーンGB)、日経新春杯のエリモダンディー(ブライアンズタイムUSA)、函館記念3連覇のエリモハリアー(ジェネラスIRE)など多様な種牡馬から活躍馬が出ているが、エリモシューテングの系統だけは特にダンシングブレーヴUSA系との相性が良かった。ごく大雑把ながら、リファールとナスルーラの組み合わせによるメジロラモーヌ的な成功とは言えるだろう。ディープインパクトとの組み合わせではリファールの近交となって、これもジェンティルドンナやトーセンラーなどとも共通するディープインパクトの配合の定石のひとつだが、リファール血脈の片方がダンシングブレーヴUSAを経由している点で、ほかと一線を画す希少性とか高級感を漂わせている。

 ウリウリは全弟マカヒキが弥生賞-G2に勝っているので、父系のみならず母の側にも大変な勢いがある。ディープインパクト×フレンチデピュティUSAの組み合わせからは、ジャパンC-G1のショウナンパンドラを頂点に、クロウキャニオン産駒のきょうだいとしてレパードS-G3のボレアス、毎日杯-G3・2着のマウントシャスタ、弥生賞-G2のカミノタサハラ、プリンシパルSのベルキャニオン、現3歳でチューリップ賞-G3・3着のラベンダーヴァレイなど多様な活躍馬が出ている。このような万能ぶりを支えるのが母ウィキウィキの父フレンチデピュティUSAであるのは間違いのないところで、スプリント路線の新規開拓は適任ではある。祖母リアルンバーARGはダート1600mのフィルベルトレレナ大賞-G1、3代母ヌメラリアは同じくダート1600mの亜1000ギニー-G1といずれもアルゼンチンのG1に勝った名門ケブラーダ牧場の生産所有馬。3代母の父サザンヘイローUSAを経由してのヘイローの近交はきさらぎ賞-G3のサトノダイヤモンドにも通じるもので、グローリアスソングの一族やマキアヴェリアンを経由したこれまでのヘイローの近交とは違う新勢力となりつつある。余談ながら、勝負服とか血統を考えると今回のこの一戦はサトノダイヤモンドとマカヒキがぶつかるであろう皐月賞-G1の前哨的代理戦とも言える。

 第三のディープインパクトというか、これが実際には1番人気かもしれませんが、▲ミッキーアイルは連勝王ロックオブジブラルタルIREが母の父。器用さよりも力で勝負するデインヒルUSA系だけに前走は久しぶりに逃げたのが良く、それまで抑える競馬を教えてきた浜中騎手の努力は何だったのかという不条理な結果ではあったが、それが競馬というものでもあるのかもしれない。3歳春のG1勝ちから長い雌伏を経て復活のG12勝目を挙げたディープインパクト牡駒には昨年7歳でジョージライダーS-G1を制したリアルインパクトの例があり、勝てばそれに続き、その勝利間隔を縮めることになる。

 もう1頭の隠れディープインパクト血統がウキヨノカゼ。父オンファイアはディープインパクトのひとつ下の全弟で、3戦1勝、東スポ杯2歳Sの3着を最後に引退した。全兄ブラックタイドが菊花賞馬を出すのであれば、こちらはスプリントG1馬を出して見せようじゃないかと馬が思うわけもないが、恐らく中京の馬場は合う。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.3.27
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