2016ジャパンC


男子の反攻は鉄の意志

 過去7年でエピファネイアの2014年以外6回は牝馬が勝つか1位入線している。オルフェーヴルを押しのけて勝つような男勝りのジェンティルドンナは別格としても、牝馬の特質が生きるレースになりがちなのは確かだろう。特に昨年などは1着から15着が1秒以内に収まっていて、こうなると短時間に加速して前へ出られる素早さの勝負になる。そういった軽い切れ味はディープインパクト産駒の特質でもあるので、牝馬かつディープインパクト産駒という条件を満たせば、デニムアンドルビーやショウナンパンドラといった比較的人気のない存在でも勝ち負けに加わることになる。
 今年この条件に当てはまるのは3歳のビッシュ。デビュー戦を5馬身差で圧勝して次の条件戦も連勝したその2戦だけでも天才少女の片鱗が窺え、その後急速に相手が強くなっても対応していったあたりにはこれから伸びる余地の大きさが示されている。母のバランセラFRは3歳3月にフランスで初勝利を挙げ、5月のクレオパトル賞-G3で3着となると、ゲイリー・タナカ氏の目に留まって秋には米国へ移籍し、6歳まで堅実に活躍した。勝ち鞍こそオプショナルクレーミングとステークスの2勝にとどまったが、クイーンエリザベス2世チャレンジカップS-G1、E.P.テイラーS-G1、ガーデンシティBCS-G1など重要な芝の牝馬戦で2着を重ねている。その父アカテナンゴは独ダービー馬でドイツのリーディングサイアー。産駒ランドGERは1995年のこのレースに勝っている。祖母バランシアガは仏3勝。3代母の産駒にクリテリウムドサンクルー-G2のマジストロスがいる。5代母マーリアは産駒に仏1000ギニー-G1のマタハリ、独ダービー-G1やバーデン大賞-G1に勝ったマードゥクがいる。祖母の父ベーリングは仏ダービー馬だから、上質な牝系に仏独日のダービー馬を重ねた2400m型血統といえるが、その本格的な欧州2400m志向が瞬発力の点で足枷とならないかという疑いは残る。初めての関西圏での大敗となった前走には目をつむるとしても、にとどめておきたい。

 瞬発力重視ならマイラー傾向のある血統をとる手もある。にはリアルスティール。ディープインパクトとストームキャットの組み合わせは下表の通り豪華な顔ぶれが並ぶが、エイシンヒカリの出現など、単に相性の良さを超えて世界レベルのニックスといえるところに来ている。母のラヴズオンリーミーUSAは不出走ながら、そのストームキャット×ミスタープロスペクターの組み合わせは米国の王者同士の配合。このパターンからは種牡馬として成功したテールオブザキャットのほか、エイコーンS-G1など米G12勝のファインダーズフィー、愛ナショナルS-G1勝ち馬ワンクールキャット、マルセルブサック賞-G1勝ち馬デネボラUSAなどが出ている。祖母モネヴァッシアの産駒にはマルセルブサック賞-G1のランプルスティルツキン、孫にヨークシャーオークス-G1のタペストリーがいる。3代母ミエスクはブリーダーズCマイル-G1連覇のほかジャックルマロワ賞-G1、イスパーン賞-G1、英1000ギニー-G1など仏英米でG1・10勝を挙げた名牝。ミエスクの名牝たるゆえんはその卓越した競走成績にとどまらず、ムーランドロンシャン賞-G1のキングマンボから2014年のBCマイル-G1勝ち馬カラコンティーまで子孫に多くの活躍馬が出たことと、一大父系の祖となりつつあるキングマンボを通じて少なくとも北半球の大部分に大きな影響力を及ぼしていることにある。祖母はキングマンボの全妹に当たるので、リアルスティールの配合はディープインパクトとストームキャットとキングマンボを力ずくで束ねたという印象もある。このようにビッグネームばかりを集めると個性の強さが互いの良さを損なう場合もあってギャンブル性が高いが、ドバイターフ-G1でG1勝ちにまで至っているのだから、賭けには勝ったと見ていい。ジャパンカップ-G1勝ち馬でいうと、個人の好みだけですが、シングスピールIRE以来の豪華さと高級感を備えている。こういう血統の馬が勝つのを海外の人が知れば、ジャパンカップもちゃんとこのような良い血統の馬が勝つのだなと、いくらかは古参国際レースとしての権威回復につながるかもしれない。


ディープインパクト×ストームキャットの成功
馬名生年毛色重賞勝ち鞍または入着
エイシンヒカリ2011イスパーン賞-G1、香港カップ-G1、毎日王冠-G2、エプソムC-G3
キズナ2010青鹿東京優駿-G1、大阪杯-G2、ニエル賞-G2、京都新聞杯-G2、毎日杯-G3
リアルスティール2012鹿ドバイターフ-G1、共同通信杯-G3
アユサン2010鹿桜花賞-G1
ラキシス2010鹿エリザベス女王杯-G1、大阪杯-G2
サトノアラジン2011鹿京王杯スプリングC-G2、スワンS-G2
ヒラボクディープ2010黒鹿青葉賞-G2
フローレスマジック2014鹿2着:アルテミスS-G3
プロディガルサン2013鹿2着:東スポ杯2歳S-G3

 ▲キタサンブラックの父ブラックタイドはディープインパクトの1歳上の全兄で、弟より2年あとに種牡馬となった。大種牡馬となった弟の産駒がまだ勝っていない菊花賞-G1と天皇賞(春)-G1に先に勝った自信を胸に今回は弟の縄張りに侵攻することになる。母の父サクラバクシンオーの父サクラユタカオーは毎日王冠と天皇賞(秋)を連続レコード勝ちのあとジャパンカップに挑んでジュピターアイランドの6着。その半兄サクラシンゲキは1981年の第1回ジャパンカップで果敢に逃げて直線途中まで先頭を守った。遠い親戚のおじさんではあるが、そうやって35年前のよすがを伝えるのはこの馬だけ。

 外国馬が来てくれるお陰で近年の中長距離G1にありがちなサンデーサイレンスUSA一色に陥らずにすむわけだが、ナイトフラワーIREはイラプトIREとともに昨年に続いての来日。昨年は直線終盤でイラプトIREの後ろで詰まって追えず、あれがなければイラプトIREを交わして6着くらいはあったのではないかと思えるが、あれから1年、同じようにバーデン大賞-G1・2着→オイロパ賞-G1・1着からここに臨む。昨年はオイロパ賞-G1・55キロ→ジャパンカップ-G1・53キロだった負担重量が古馬となった今年はオイロパ賞-G1・58.5キロ→ジャパンカップ-G1・55キロ。あら、軽いわねと感じるのではないだろうか。ともかく、同じNラインの牝系から出たノヴェリストが4歳でキングジョージ6世&クイーンエリザベスSに勝ったようにドイツ血統らしい成長力は期待できるはずだし、愛ダービー馬ディラントーマスを経てデインヒルUSAに遡る父系。マイルチャンピオンシップ-G1はサンデーサイレンスUSAとデインヒルUSAの協力が成功してミッキーアイルが逃げ切ったが、今回はサンデーサイレンスUSA軍団に切り込んでひっくり返すデインヒルUSAという構図もあり得るだろう。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.11.27
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