2016東京優駿


巨大勢力の隙を突け

 サンデーサイレンスUSAが生まれて30周年に当たる今年は、東京優駿-G1出走全馬が何らかの経路でその血を受けているということになった。多くは直系の孫だが、もっとも遠いアグネスフォルテは祖母の父がダンスインザダークだから、サンデーサイレンスUSAの血は4代前まで遠ざかっている。このような形で出走全馬がサンデーサイレンスUSAの血を受けているのは2011年に次いで史上2度目。当時の勝ち馬はオルフェーヴルで、ビッグネーム揃いのこのレースにあってもひときわ大きな存在ではあった。また、サンデーサイレンスUSA血脈の海外進出を担っているのは主にディープインパクトで、3月にはリアルスティールがドバイターフ-G1に勝ち、今月24日には欧州大陸に乗り込んだエイシンヒカリがイスパーン賞-G1に勝った。そして、香港で2つ目のG1勝ちを収めてアジア最強マイラーとなったモーリスは、父スクリーンヒーローの母の父がサンデーサイレンスUSAであり、血統中におけるその位置や役割も実に多様になってきたといえるだろう。
 2011年の勝ち馬がオルフェーヴルだから今回どうということは何もいえないのだが、その年はヴィクトワールピサがドバイワールドC-G1にも勝っていて、当時を契機としてサンデーサイレンスUSAの血の充満とともに海外進出が勢いを増していることは確実で、今や日本の馬の質が国内のG1や重賞の数だけでは受け止められない程度にまで膨れ上がっていると見ることもできるだろう。2009年生まれからディープブリランテ、2010年生まれからキズナと2年続けてダービー馬を得たディープインパクトは、ここ2年ダービーのタイトルから離れる代わりに2011年生まれのエイシンヒカリが香港カップ-G1と先のイスパーン賞-G1、2012年生まれのリアルスティールはドバイターフ-G1とそれぞれ海外でG1勝ちを果たしており、対外的には日本のトップに立っていて、国内は他の系統に任せるという形に結果的になっている。たとえば今回の出走馬のうち5月11日に締め切られた凱旋門賞-G1の登録があるのはヴァンキッシュラン、サトノダイヤモンド、ディーマジェスティ、マウントロブソン、マカヒキの5頭。全部ディープインパクト産駒ではありませんか。海外への野望満々ですわ、ダービーも通過点ですわとは思っていないだろうが、そういうところに付け入る隙がなくはないのではないだろうか。
 実績があるのは既に大種牡馬の地位にあって昨年ドゥラメンテを送り出したキングカメハメハであり、新鋭としては初年度産駒からこの春の桜花賞馬ジュエラーを出したヴィクトワールピサが挙げられるが、ここはもう一歩踏み込んだ先物買いとしてダノンシャンティに白羽の矢を立てた。歴代のNHKマイルC勝ち馬はA級とそうでない者の差が大きいが、クラシックサイアーとなったのはエルコンドルパサーUSAとキングカメハメハ、G1/Jpn1サイアーとなったのはクロフネUSAとディープスカイがおり、どれもNHKマイルC以外にもタイトルのある馬ばかりという不都合な事実はあるものの、1600mの大レース勝ち馬が優れた種牡馬になる(べき)という考え方は伝統的にある。実際、ダノンシャンティの父フジキセキがそうだし、母の父マークオブエスティームも英2000ギニー-G1勝ち馬で種牡馬として英ダービー馬サーパーシーを出した。ダノンシャンティ産駒の初年度産駒で今のところ唯一の重賞勝ち馬でもあるスマートオーディンは母レディアップステージIREの父がディープインパクトと同じアルザオ。祖母シーズザトップスの父シャーナザーは英ダービー-G1を10馬身差で制したシャーガーの半弟で、その父はバステッド。バステッドはディープインパクトの祖母の父でもある。3代母トロイトップスの父トロイはシャーガーの2年前に英ダービー-G1を7馬身差で制した名馬で、こちらもシャーガーと同じくその後、愛ダービー-G1、キングジョージVI世&クイーンエリザベスS-G1に勝った。トロイはペティンゴを経てペティションに遡るが、ディープインパクトの3代母の父クイーンズハザーもペティションの孫だ。4代母トプシーの産駒には英ダービー-G1・2着のモストウェルカムがいて、5代母フュリオーソの産駒には1983年の英ダービー馬ティーノーソがいる。こうして見ると、ダービーに縁のある牝系の上に、アルザオを軸としてディープインパクトの再現を図った配合とさえ言える。

 そのような新勢力の台頭が起きなかった場合、ディープインパクト軍団とキングカメハメハ勢の同属相打つ乱戦からどれが抜け出してくるかという、組み合わせの問題になる。リオンディーズは母シーザリオが優駿牝馬とアメリカンオークス-G1に勝った名牝で、2013年2着のエピファネイアの半弟。父が日本ダービー2着のシンボリクリスエスUSAから勝ち馬キングカメハメハに替わったことでの前進が見込めるという単純なものでもないが、3代目にミエスクとサドラーズウェルズが並んだ配合は美しい。アメリカンオークス-G1でシーザリオの3着に敗れたシンハリーズGBは、その後、デルマーオークスでG1勝ちを果たし、繁殖入りするとアダムスピークやリラヴァティ、アダムスブリッジなどの良駒を生み続け、現3歳のシンハライトがついにクラシック勝ちを果たした。ほかにもエアスピネルや早世のラインクラフトがいた2002年生まれの牝馬は他世代との戦いでG1勝ちはなかったが、ライフステージ全体を見渡せば豊作世代だったのだ。

 牡馬の2002年生まれといえば1強ディープインパクト。▲マカヒキは京都牝馬S、CBC賞など6勝を挙げているウリウリの全弟。ディープインパクト×フレンチデピュティUSAの配合はダートや芝、短距離から長距離と活躍の場が多彩だが、ジャパンC-G1を制したショウナンパンドラの出現でトップクラスの万能血統となった。祖母リアルナンバーARGはアルゼンチンでダート1600mのフィルベルトレレナ大賞-G1など5勝を挙げ、3代母ヌメラリアは亜1000ギニー-G1勝ち馬。祖母の父はレインボークエスト直仔のレインボーコーナー、3代母の父はサザンヘイローUSAと北米血統が重ねられているが、いずれもアルゼンチンの名門ケブラーダ牧場の生産所有馬。1974年生まれの5代母ナットの両親が英国産、自身がアルゼンチン生まれという比較的若いアルゼンチン牝系。40年をアルゼンチンで過ごしたあと日本に渡るという地理的な変遷もあって、結果、サンデーサイレンスUSAとサザンヘイローUSAを経由したヘイロー3×5の近交となった。ディアデラノビア以来、ノーザンファームが得意とするところのサンデーサイレンスUSAとアルゼンチン血統の組み合わせとなる。

 大穴としてプロディガルサン。昨年4着のリアルスティールの全弟で、今のところ兄以上の能力を示しているわけでもないが、ディープインパクト×ストームキャットの組み合わせは兄のドバイターフ-G1、エイシンヒカリの香港C-G1とイスパーン賞-G1と、この半年あまりで海外G13勝。国内G1勝ち馬もアユサン、キズナ、ラキシスがいる最高級配合。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.5.29
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