2015NHKマイルC


アルマームード繁栄の半世紀

 1996年に行われた第1回NHKマイルCは18頭のうち米国産馬が9頭、英国産馬2頭、仏国産馬2頭、愛国産1頭、内国産4頭という構成で、勝ったタイキフォーチュンUSAをはじめ掲示板は米英英米米と外国産馬が占め、日本産の最先着はプラウドマンの9着だった。それから時を経て今年で第20回。その中身は随分と変わった。1〜10回を前期、11〜19回を後期とすると、外国産馬の出走数は前期が8.9頭、後期が2.3頭と大きな違いがあって、2008年第13回に6頭の外国産馬が出たあとは今回まで、おおむね平均1頭が続いている。これは内国産馬が力で外国産馬を押さえ込んでいるというわけでもなくて、前期のこのレースの勝ち馬10頭は、そのうち5頭がその後もG1級に勝ち、シーキングザパールUSA、エルコンドルパサーUSA、クロフネUSAといった大物が並んでいたのに対し、後期には東京優駿も連勝したディープスカイ1頭のみ。これだけでレースのレベル低下とは決め付けられないが、強い外国産馬群がいなくなったぶんだけ、この部門の層は薄くなった。

 ただ、そうなったらなったで多様な血統に台頭するチャンスが生まれるのも事実。過去10年の勝ち馬の父はアグネスタキオンが2勝している以外は全部違う。仮にディープインパクト産駒の有力馬がみな全力でこのレースを狙ってくれば毎年ディープインパクト産駒に勝たれるだろうが、実際にはそのようなことにはなっていないということだ。今年、その隙間を埋めそうな存在ということでバゴFRに注目した。バゴFRはタップダンスシチーUSAの出走した凱旋門賞-G1の勝ち馬で、2歳時には1600mでクリテリウムアンテルナシオナル-G1を含め4戦4勝。その戦績以上にニアルコス家の名門牝系に1980年代最後の欧州競馬のスター・ナシュワンという血統が魅力的だ。初年度産駒から桜花賞2着馬オウケンサクラ、菊花賞馬ビッグウィークと活躍馬が相次いだため、その結果を受けたこの2012年生まれは前年の倍以上にあたる112頭の血統登録があった。それに比例……するほどの活躍馬の出現はまだ見ていないが、ブラックバゴFRがホープフルS3着、京成杯-G3・2着と重賞入着を果たし、タガノアザガルはファルコンS-G3を制した。バゴFRにとってはクリスマスの函館2歳S-G3以来1年半ぶりの重賞制覇だった。バゴFRの特徴は母の父ヌレエフがニアルコス家の代表的名馬、祖母クドジェニもやはり名牝でサラマンドル賞、モルニ賞と牡馬相手の2歳G1に2勝した。クドジェニの母クドフォリはオマール賞-G3に勝ち、下表では省略してあるが、サラマンドル賞-G1のマキアヴェリアン、ジャックルマロワ賞-G1のイグジットトゥノーウェア、アスタルテ賞-G2のハイドロカリドの母となり、孫には仏グランクリテリウム-G1のウェイオブライトUSAが出た。ここで改めて下表に触れると、タガノアザガル自身、バゴFR、ヌレエフとベガを経由して入るノーザンダンサー、バゴFRの3代母の父でサンデーサイレンスUSAの父でもあるヘイロー、これらの牝祖はすべてアルマームードに辿りつくことが分かる。アルマームードは米国の大富豪コーネリアス・ヴァンダービルト・ホイットニーの生産馬で、主にノーザンダンサーとヘイローといった大種牡馬によってその血が拡散しているわけだが、マキアヴェリアンやバゴFRのほかにもデインヒルUSAがその牝系から現れていて、牝馬としては現代でもっとも影響力が大きい。タガノアザガルが出た分枝は祖母の孫に兵庫チャンピオンシップ2着のタイセイシュヴァリエ、3代母の産駒にフラワーC2着のレディボナンザ、孫にシンザン記念のアントニオバローズが出る程度だが、4代母ナタルマにテンタム(その牝祖はやはりC.V.ホイットニー生産の名牝トゥーボブ)、三冠馬シアトルスルー、そしてサンデーサイレンスUSA直仔の日本ダービー馬アドマイヤベガという並びは隙のないもので、ホイットニー家、フィップス家、吉田家、ハンコック家、ニアルコス家、英王家、アガ・ハーンIV世、マクトゥーム家といった古今東西の名馬産家がオーバーラップする豪華さも圧倒的。母の父としてのアドマイヤベガは今のところJCダート-G1のニホンピロアワーズが唯一のG1勝ち馬だが、いずれ東京の芝で大きな成果を上げることと思う。


現代でもっとも影響力の大きな牝馬アルマームード
ALMAHMOUD(USA) アルマームード(牝、父Mahmoud、1947-1971)北米11戦4勝、コリーンS、ヴァイン
    ランドH
 Cosmah(USA) コスマー(牝、1953)北米30戦9勝、アスタルテS
 |HALO(USA) ヘイロー(牡、1969)北米31戦9勝、ユナイティドネーションズHG1、タイダルHG2、ローレン
 |   スリアライゼーションH
 Natalma(USA) ナタルマ(牝、1957)北米7戦3勝、3着:スピナウェイS
  NORTHERN DANCER(CAN) ノーザンダンサー(牡、1961)北米18戦14勝、ケンタッキーダービー、
  |  プリークネスS、フラミンゴS、フロリダダービー、クイーンズプレート他
  Raise the Standard(CAN) レイズザスタンダード(牝、1978)不出走
  |Coup de Folie(USA) クドフォリ(牝、1982)仏米7戦4勝、オマール賞G3
  | COUP DE GENIE(USA) クドジェニ(牝、1991)仏英米9戦4勝、サラマンドル賞G1、モルニ賞G1、
  |     カブール賞G3
  |  Moonlight's Box(USA) ムーンライツボックス(牝、1996)不出走
  |   バゴFR BAGO(FR) (牡、2001)仏英米日16戦8勝、凱旋門賞G1、ガネー賞G1、パリ大賞G1、ジ
  |      ャンプラ賞G1、クリテリウムアンテルナシオナルG1他
  Born a Lady(USA) ボーンアレディ(牝、1981)北米12戦4勝
   ランバダレディUSA Lambada Lady(USA) (牝、1990)北米3戦1勝
    ライアメロディー (牝、2003)JRA3戦0勝
     タガノアザガル (牡、2012)本馬

 アルビアーノUSAはアメリカンファミリーの名門ジュディレイ系。祖母の産駒にはスーパーダービー-G1勝ち馬で種牡馬として成功しているアーチや、スピンスターS-G1勝ち馬アコマがいて、3代母アルセアは牡馬相手のアーカンソーダービーなどG1に3勝。その産駒ヤマニンパラダイスUSAは阪神3歳牝馬Sに勝った。先週行われたG1ケンタッキーオークスに勝ったラヴリーマリアの父マジェスティックパーフェクションはハーランズホリデイ産駒。世代交代の早さがストームキャット父系の勢いを物語っているし、1600m部門はこの父系が日本攻略の基点としている。

 ▲アヴニールマルシェは祖母キョウエイマーチが1997年の桜花賞馬。父ディープインパクトと母の父フレンチデピュティUSAの組み合わせは秋華賞のショウナンパンドラをはじめ、カミノタサハラ、ウリウリ、ボレアスと4頭の重賞勝ち馬が出ている。リファール4×4の近交である点はジェンティルドンナなどと同じでディープインパクト産駒の成功パターンのひとつ。4月25日には祖母のライバルであったメジロドーベルの直仔レーヌドブリエが京都で、孫のマッサビエルが東京で勝っていて、それに触発された快走があるかもしれない。

 マテンロウハピネスは祖母が優駿牝馬勝ち馬。母はモンジューIRE×トニービンIREの凱旋門賞配合。父は安田記念-G1勝ち馬で産駒カレンブラックヒルがこのレースに勝った。東京1600mが悪いはずがない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.5.10
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