2015菊花賞


超長距離のプロフェッショナル

 今年の毎日王冠は出走馬13頭中10頭をディープインパクト産駒が占めた。来週の天皇賞(秋)には10頭のディープインパクト産駒が登録していて9頭が出走可能圏内にあり、これまでのG1での多頭出走記録(7)を更新するのは確実だ。G1出走馬の過半数がディープインパクト産駒で9割がサンデーサイレンスUSA直系という時代はもうすぐそこまで来ている。そんな中にあって、ディープインパクト産駒3頭、ゼンノロブロイ、ブラックタイドが各2頭というサンデーサイレンスUSA直系のほかに、ハービンジャーGB3頭、メイショウサムソン2頭とノーザンダンサー直父系が一定の勢力を保ち得たのは、このレースの存在意義のひとつではあるだろう。
 ハービンジャーGB産駒は昨年夏にデビューして丸1年以上経過し、持続力のある脚は使えるが瞬発力に欠ける面が明らかになってきた。映像的に抽象化すると3〜4角から動いて直線で早目に抜け出し、ゴール前で瞬発力に優れたディープインパクトやステイゴールドの産駒に差されるというもので、これは30年近く昔、1986年の凱旋門賞-G1でベーリングがダンシングブレーヴUSAに差し切られたシーンに重なる。仏ダービー馬ベーリングの影響が良くも悪しくも強いのだろう。瞬発力でサンデーサイレンスUSA直系に劣る弱点をどうすれば補えるかといえば、下表に示した2勝以上を挙げた産駒のリストに明らかなように、サンデーサイレンスUSA系の母の父から瞬発力を補強してもらうというもので、唯一の例外であるポトマックリバーも祖母の父がサンデーサイレンスUSAだから、その血は今のところハービンジャーGB産駒が一流になるための必要条件となっている。ベルーフは母レクレドールがステイゴールドの全妹でローズS、クイーンSに勝ち、札幌記念で2着となった活躍馬。ステイゴールド産駒のオルフェーヴルとゴールドシップが菊花賞馬となっているほか、イトコには菊花賞2着のドリームパスポート、秋華賞-G1のショウナンパンドラがいて、牝系の成長曲線と父系のそれがうまくピークで重なるのが3歳秋である可能性は高い。3代母ダイナサッシュの子孫にはマイルチャンピオンシップのサッカーボーイ、中山記念など重賞7勝のバランスオブゲーム、アルゼンチン共和国杯-G2勝ち馬でオーストラリア遠征中のフェイムゲームなど、1980年代から多くの活躍馬が現れて21世紀の今もますます盛んなファミリー。


ハービンジャーGB産駒のエリートたち (JRA2勝以上の初年度産駒)
馬名母の父主な勝ち鞍
ベルーフサンデーサイレンスUSA京成杯G3(中山、芝2000m)、エリカ賞500万
(阪神、芝2000m)
スティーグリッツアグネスタキオン九十九里特別1000万(中山、芝2500m)、渥美
特別500万(中京、芝2200m)
マッサビエルサンデーサイレンスUSA芦ノ湖特別1000万(東京、芝2400m)、新緑賞
500万(東京、芝2300m)
スワーヴジョージサンデーサイレンスUSA北斗特別1000万(函館、芝1800m)、500万
(京都、芝2000m)
ワーキングプライドフジキセキ粟島特別500万(新潟、芝2000m)
テルメディカラカラダンスインザダーク十勝岳特別500万(札幌、芝1800m)
ゼンノブレーメンダンスインザダーク国東特別500万(小倉、芝2000m)
トーセンバジルフジキセキ葉牡丹賞500万(中山、芝2000m)
ショウボートダンスインザダーク500万(阪神、芝1600m)
ダイワミランダアグネスタキオン500万(中山、芝1800m)
ジャズファンクサンデーサイレンスUSA500万(阪神、芝2000m)
カービングパスサンデーサイレンスUSA500万(札幌、芝1200m)
サンクボヌールバブルガムフェロー500万(小倉、芝1800m)
エトランドルサンデーサイレンスUSA500万(中京、芝2000m)
ポトマックリバースウェプトオーヴァーボードUSA500万(東京、芝2400m)

 同じハービンジャーGBとサンデーサイレンスUSAの配合のマッサビエルは祖母が阪神3歳牝馬S、優駿牝馬、秋華賞、エリザベス女王杯(2回)に勝ち、4年にわたって最優秀牝馬のタイトルを得た名牝メジロドーベル。直仔は7頭が競走年齢に達し、メジロオードリー、レーヌドブリエ(現役)が2勝、メジロシャレード、メジロダイボサツが1勝したのみだが、孫には昨年の青葉賞-G2に勝ったショウナンラグーンが出た。名牝から1代おいて活躍馬が現れるスキップ現象の例のひとつだ。3代母メジロビューティーの孫にはメジロマントル、4代母でオールカマー3着となったメジロナガサキの子孫には阪神大賞典2着のメジロヘンリー、中山グランドジャンプのメジロファラオなどがおり、5代母メジロボサツは朝日杯と4歳牝特(東)、函館記念に勝ち、桜花賞で3着、優駿牝馬で2着となった名牝で、その子孫にはスプリングSのメジロゲッコウ、阪神大賞典のメジロボアール、アメリカJCCのメジロモントレーがいる。これもベルーフ同様母系にノーザンテーストCANが潜んでいるのがミソで、サンデーサイレンスUSAの血の展開の影にノーザンテーストCANありというひとつの仮説は成り立つかもしれない。

 メイショウサムソン産駒の活躍が目立つので世代ごとのJRAでの勝ち鞍を数えてみると、先週までで2010年生まれが32勝、2011年生まれが29勝、現3歳の2012年生まれは29勝を挙げて早くもそれらに並んでいる。仕上げのノウハウが確立したこととJRAの馬場管理が軟らかい馬場への志向を強めていることの相乗効果ではあるだろう。サドラーズウェルズ系でダンシングブレーヴUSAも持つ欧州系ノーザンダンサーの最良の組み合わせであり、これも当然サンデーサイレンスUSA血脈の助けがあれば、ディープインパクト系への対抗勢力として十分にやっていけるわけだ。▲マサハヤドリームは母ランペイアが仏G1・2勝のチチカステナンゴFRの半妹。チチカステナンゴFRはリュパン賞-G1とパリ大賞典-G1の、母の父アグネスタキオンは皐月賞の勝ち馬だから2000mに特化した構成ともいえるが、4代母の父としてドッシリとヴェイグリーノーブルの血が鎮座している効果は小さくないと思う。

 ワンダーアツレッタは半兄にワンダーマッハー、ワンダースティーヴ、ワンダームシャといった準オープン級が並ぶが、祖母ワンダーヒロインは3歳時に忘れな草賞、4歳1月には万葉Sに勝った。その後、金鯱賞や阪神牝特で2着となったが、古馬牝馬の長距離重賞があればタイトルを得ていたのではないだろうか。3代母アチーブスターは1972年の桜花賞とビクトリアCに勝った名牝で、この牝系は40年以上ずっと同じ勝負服をまとってきたことになる。しばらく鳴りを潜めているファミリーながら、キンググローリアスUSA、エンパイアメーカーUSAと日本最古に近いのと最新のミスタープロスペクター系種牡馬を重ねた近交がその覚醒を促すかもしれない。

 ブライトエンブレムの母ブラックエンブレムは、種牡馬を引退して帰国したウォーエンブレムUSAの代表産駒であり、11番人気で2008年の秋華賞に勝った。ヴェイグリーノーブル産駒の3代母の孫に京都大賞典-G2と京都記念に勝ち、京都での宝塚記念-G1で2着となったナリタセンチュリー、エンプレス杯勝ちのほか秋華賞で3着のニシノナースコールがいる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.10.25
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