2015天皇賞(秋)


光と嵐の静寂世界

 サンデーサイレンスUSA産駒がこのレースに登場したのは今から20年前。皐月賞馬ジェニュインの挑戦はサクラチトセオーの2着となることでそれなりの成果を上げた。翌年には朝日杯の勝ち馬バブルガムフェローがやはり3歳で挑み、マヤノトップガンとサクラローレルを下した。G1級レースの中でも最も早くサンデーサイレンスUSAが大きな成功を収めたレースといえるだろう。その後、産駒7頭が出走した2004年にはゼンノロブロイ、ダンスインザムード、アドマイヤグルーヴが1〜3着を占め、続く2005年には10頭出しでヘヴンリーロマンス、ゼンノロブロイ、ダンスインザムードが1〜3着、2006年も6頭が出走しダイワメジャーとスウィフトカレントのワンツーで決まった。このあたりはサンデーサイレンスUSAの没後に訪れたピークといえるだろう。
 ディープインパクトは2013年に産駒2頭が出走しジェンティルドンナが2着。勢力を6頭まで増やした昨年はスピルバーグとジェンティルドンナの1、2着独占となった。今年は出走馬の半分となる9頭を送り出す。サンデーサイレンスUSAの跡をたどる流れは特にこのレースで顕著なものとなった。エイシンヒカリは母の父がストームキャット。この組み合わせは2013年の桜花賞馬アユサン、同年の東京優駿-G1を制したキズナ、昨年のエリザベス女王杯馬ラキシスと2010年生まれから3頭のG1勝ち馬を送り出した(下表)。出走頭数は母の父トニービンIREやフレンチデピュティUSAと首位を争い、未デビューを含む登録頭数49(JBISによる、10月27日現在)は最多なので、好成績はある程度当然といえる部分もあるが、出走頭数の10%近くがG1ウイナーとなり、2012年生まれからもクラシック2着2回のリアルスティールが現れている実績は出色のものだ。エイシンヒカリの母キャタリナは平井氏の勝負服で米国の北カリフォルニアを主戦場とし、ダートの6Fで2勝、5.5Fで1勝の計3勝を挙げた。それらはすべて逃げ切りだから、脚質がどの程度遺伝に左右されるのかは不明ながら、この馬にもレディスプレリュード3着の半姉エーシンクールディにも、それは確かに伝わっているようだ。祖母カロライナサガの産駒には90年代の初めにサンタアニタH-G1など西海岸で長きにわたって活躍した芦毛馬サーボーフォートのほか、ダートの短距離でJRA3勝を挙げたエリオットシチーがいる。3代母キートゥザサガは米G3勝ち馬で、4代母シーサガの孫に名種牡馬サザンヘイローUSA、曾孫にサンタアニタH-G1のジェネラルチャレンジ、オークリーフS-G1のノータブルキャリアなど多くの活躍馬が出た。6代母リーラークの子孫にはブリーダーズフューチュリティのデュールUSAや大阪杯のメイショウオウドウがいて、7代母の曾孫にエクリプス賞のターゴワイスUSAがいる。そのあたりを見れば80年代から日本に縁のある牝系であったとはいえる。祖母の父カロのグレイソヴリン的スピードと、3代母の父キートゥザミントの底力は大レースでこそ物をいうブースターとしての役割を担っていて、G1で必要とされるもう一段階上の強さを支える切り札となる。


ディープインパクト×ストームキャットの活躍
年月日レース名距離・馬場着順馬名性齢人気単オッズ
2012/12/09阪神ジュベナイルFG1阪神16007アユサン牝247.4
2013/04/07桜花賞G1阪神16001アユサン牝3718.0
2013/04/14皐月賞G1中山200010インパラトール牡3926.1
2013/05/19優駿牝馬G1東京24004アユサン牝336.5
2013/04/07東京優駿G1東京24001キズナ牡312.9
2013/05/26東京優駿G1東京240013ヒラボクディープ牡3520.7
2013/10/20菊花賞G1京都300014インパラトール牡31357.5
2013/10/20菊花賞G1京都300017ヒラボクディープ牡31782.8
2013/11/10エ女王杯G1京都22002ラキシス牝3616.7
2014/05/04天皇賞(春)G1京都32004キズナ牡411.7
2014/05/18ヴィクトリアマイルG1東京160015ラキシス牝4924.0
2014/10/26菊花賞G1京都30006サトノアラジン牡3926.2
2013/04/07エリザベス女王杯G1京都22001ラキシス牝436.8
2014/12/28有馬記念G1中山25006ラキシス牝41136.3
2015/04/19皐月賞G1中山20002リアルスティール牡323.8
2015/05/03天皇賞(春)G1京都32007キズナ牡513.3
2015/05/31東京優駿G1東京24004リアルスティール牡323.8
2015/06/28宝塚記念G1阪神22008ラキシス牝525.1
2015/10/25菊花賞G1京都30002リアルスティール牡324.3

 サンデーサイレンスUSA系大繁栄の象徴ともいえるレースではありながら、サクラチトセオー、エアグルーヴ、オフサイドトラップなどトニービンIREが強いのも特徴のひとつ。そこにノーザンテーストCANの血が添えられていれば穴としてなお良い。2011年にはジャングルポケット×ノーザンテーストCANのトーセンジョーダンが7番人気で勝った。そうやって血統表を眺めると両方備えているのはラブリーデイ。祖母の父がトニービンIRE、4代母の父がノーザンテーストCAN。一番強い馬が穴馬の要素まで押さえているのだから鬼に金棒だ。キングカメハメハはレッツゴードンキの桜花賞-G1、ドゥラメンテの皐月賞-G1と東京優駿-G1、そして本馬の宝塚記念-G1とG1では本年4勝を挙げ、ディープインパクト、フジキセキの各2勝を引き離している。母の父としてのダンスインザダークにとってG1勝ち馬は本馬1頭だけだが、その母系にあるニジンスキーやキートゥザミントは力の争いとなれば生きてくる。母ポップコーンジャズは2戦目の新馬を勝って3戦目のスイートピーSで2着となった素質馬。祖母グレイスルーマーの産駒にはローズS3着のクーデグレイスがいて、4代母が小倉記念のシャダイチャッター。ペルースポートを経て1959年英国産のレディチャッターGBに遡るこの牝系にとってG1は東京優駿2着のインティライミが再接近であって、長く手が届かずにいたが、その壁を超えたのが本馬だった。

 ▲ショウナンパンドラは伯父のステイゴールドが1998年と翌1999年の2度2着となった。ステイゴールド産駒もフェノーメノが2012年に2着となった。勝てなかったレースに勝つというのがステイゴールド家というかステイゴールド系の家訓となっているようなところもあるし、イトコのベルーフの奮起を促すシッカリ者の牝馬という立場を理解しているかもしれない。また母の父フレンチデピュティUSAの隠れ東京巧者というべき点も見直しておきたい。

 ダービーフィズの父は東京優駿とジャパンC-G1に勝ち、産駒トーセンジョーダンが2011年のこのレースに勝った。母の全兄マンハッタンカフェはジャングルポケットと同世代の菊花賞馬にして有馬記念の覇者。1+1が2以上と思える豪華な擬似同世代スター配合だ。2010年の勝ち馬ブエナビスタと3代母を共有するドイツの名門シュヴァルツゴルト系だけに、トニービンIRE系の一発の力を支えるに十分なボトムライン。

 ステファノスは母ココシュニックがデピュティミニスター系×ミスタープロスペクター系の米国最新様式。そろそろ歯車が噛み合う4歳秋。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.11.1
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