2014安田記念


春の2大種牡馬決戦

 ディープインパクトが日本で先着を許した唯一の馬が1歳年長のハーツクライ。その2005年の有馬記念のあと、2006年はディープインパクトがフランスへ、ハーツクライはドバイからイギリスへと進路を分かち、2頭の再戦はその年の秋のジャパンC-G1の一度だけだった。大外を鮮やかに伸びたディープインパクトとは対照的にハーツクライは直線に入るとすぐに手応えをなくし、大敗して直接対決の決着は曖昧なままに終わり、翌年から揃って種牡馬入りすることになる。種牡馬としての成績はある程度想定通りのもので、ディープインパクトは初年度産駒が3歳を迎えると桜花賞-G1をマルセリーナ、安田記念-G1をリアルインパクトが制し、それらが4歳を迎えた2012年にはサイアーランキングのトップに立った。一方のハーツクライの初年度産駒はオルフェーヴルに迫ったウインバリアシオンやオルフェーヴルに先着したギュスターヴクライなど、相当な底力を示す者が現れたが、G1勝ちは2年目の産駒ジャスタウェイが4歳秋を迎えた昨年まで待たなければならなかった。それでも、ジャスタウェイが天皇賞(秋)-G1でジェンティルドンナを破ったのが口火となったか、春のドバイではジャスタウェイがドバイデューティフリー-G1を圧勝すると、優駿牝馬-G1では圧倒的人気のディープインパクト産駒ハープスターをハーツクライ産駒のヌーヴォレコルトがクビ差退け、続く東京優駿-G1もハーツクライ産駒のワンアンドオンリーが制した。優駿牝馬-G1と東京優駿-G1を同じ年に同じ種牡馬の産駒が制した例は2012年のジェンティルドンナとディープブリランテによるディープインパクトに次ぐものだから、ハーツクライが部分的には年少の大種牡馬に肩を並べるところまできた。


この春の2大種牡馬比較表
ディープインパクト
2002.3.25生 早来産
 ハーツクライ
2001.4.15生 千歳産
競走成績
国内13戦12勝、海外1戦0勝通算国内17戦4勝、海外2戦1勝
1,454,551,000円総賞金917,119,000円
ジャパンC-G1、有馬記念-G1、宝塚記念
-G1、天皇賞q、東京優駿、菊花賞、皐
月賞、凱旋門賞G13位入線失格
主な勝ち鞍

海外成績
ドバイシーマクラシック-G1、有馬記
念、京都新聞杯、キングジョージVI
世&クイーンエリザベスSG13着
種牡馬成績(JBIS発表、2014.6.3現在)
通算 859頭 2011年生 137頭血統登録通算 642頭 2011年生 144頭
通算 523頭 2011年生 127頭出走頭数通算 374頭 2011年生 128頭
通算 362頭 2011年生 66頭勝馬頭数通算 220頭 2011年生 40頭
通算  16,177,209,000円収得賞金通算  6,721,457,500円
今期   2,711,964,000円今期  1,491,866,000円
2011年生 1,591,300,000円2011年生 983,666,000円
ジェンティルドンナ、キズナ、ディ
ープブリランテ、ハープスターほか
主な産駒ジャスタウェイ、ワンアンド
オンリー、ヌーヴォレコルト
産駒の東京での成績(2010〜2014.6.1まで) ( )内の%は単勝回収率
25-23-18-132(68.4%)芝160013-12-4-78(83.7%)
16-18-15-97(93.1%)芝重賞6-8-0-34(109.5%)
9-7-6-42(137.9%)芝GT3-1-0-10(220.7%)

 この春の東京G1シリーズ4戦は種牡馬単位で見るとディープインパクト2勝、ハーツクライ2勝。5戦目のここでハーツクライ産駒の大物にディープインパクト産駒7頭が挑むことになる。7頭のうち唯一重賞勝ちのないフィエロは母ルビーIREがロックオブジブラルタルIREの全妹という良血。ミッキーアイルの母の父でもあるロックオブジブラルタルIREは2歳時のグランクリテリウム-G1から英2000ギニー-G1やセントジェームズパレスS-G1を含め秋のムーランドロンシャン賞-G1までG1・7連勝(当時の世界レコード)を果たしたマイルの名馬。現役時代がこれだけ派手だと種牡馬としてもセンセーショナルな活躍が期待されるので、その期待には応えられなかったとしても、南北両半球で通算8頭のG1勝ち馬を送り出しているのだから、そう悪くはない種牡馬成績ではある。この牝系の最大の大物ロックオブジブラルタルIREを別にしても、半姉プレシャスジェムは愛インターナショナルS-G3に勝っているし、4代母リヴァーレディの産駒には仏2000ギニー-G1勝ちの名種牡馬リヴァーマン、5代母ナイルリリーの孫にはNHK杯のアスワンがいる名門だ。産駒フェアリーキングプローンAUSが2000年のこのレースに勝ったデインヒルUSAは母の父としても底力を伝え、天皇賞(春)-G1連覇のフェノーメノのほか、エイジアンウインズは2008年のヴィクトリアマイルでウオッカを破った。両者はいずれも父がサンデーサイレンスUSA直仔であり、これら1986年生まれの東西の大種牡馬は、たまに協力関係をとるとなかなかいい仕事をする。

 ジャスタウェイは昨年の天皇賞(秋)-G1で既にディープインパクト産駒の最強馬ジェンティルドンナを破り、ともに遠征したドバイでは直接対決がなかったとはいえ、レーティングで130対119と、やはり天皇賞(秋)-G1と同じくらいの差をジェンティルドンナにつけた。トップでさえそうなのだから、それ以外のディープインパクト産駒が何頭かかってこようが意に介さないくらいの力差があって、本当の強さに目覚めたハーツクライ産駒の凄味を見せつける可能性が高い。ただ、一撃で決着をつけられなかった場合には弱みを見せないとも限らない。逃げ先行から追い込みまで多様なディープインパクト産駒が揃っていると、それらが連携するわけではなくても、結果的に波状攻撃をかけられることになって、長い追い比べのすえ何かに屈するという恐れもなくはない。

 ▲ダノンシャークは3代母トゥートシの孫に凱旋門賞馬モンジューIRE、曾孫に愛1000ギニー-G1のアゲイン、5代母アルヴォラーダの産駒にアーリントンミリオン-G1のディアドクターFRがいる。ジャパンC-G1でモンジューIREはスペシャルウィークの4着、ディアドクターFRはトウカイテイオーの3着と、それぞれ切れ味がある程度日本で通用することは示した。そのような牝系にカーリアン、ディープインパクトという配合で切れ味を補強すれば、G1に届くのではないか。カーリアンやネヴァーベンドの持つラトロワンヌとその周辺の血も、サンデーサイレンスUSAの底力を引き出す働きをしそうだ。

 香港にはサイレントウィットネスAUS級の大スターは出なくなったが、それもむしろ全体のレベルアップによって少数が突出することが難しくなったと考えることもできる。実際、この上半期に限っても3月のドバイでスプリントG1を2勝、4月のクイーンエリザベス2世C-G1では遠征馬を撃退して、5月のシンガポール航空国際C-G1はダンエクセル、クリスフライヤー国際スプリント-G1はラッキーナインが制した。3度目の挑戦となるグロリアスデイズAUSは単純なレーティングの比較ではジャスタウェイの次。過去2回との違いは香港マイル-G1を制して国際G1ウイナーとなったことと、より余裕のあるステップを踏んできたこと。速い時計、速い上がりに対応できる見込みが皆無なら、わざわざ3度も挑戦しないでしょう。ヘイローの血が入らない唯一の存在でもある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.6.9
©Keiba Book