2014ヴィクトリアマイル


奇跡を信じてまっすぐ進め

 昨年のこのレースは勝ったヴィルシーナから17着のメーデイアまで、完走した全馬が1秒以内に収まるという近年の芝1600m戦に顕著な傾向を極める結果になった。最速の上がり3F33秒2を使ったアロマティコが10着だから、瞬発力勝負というより位置取りゲームとのそしりが免れないところではあるが、ホエールキャプチャのように差す馬はちゃんと2着に差してきているのだから、ことは単純なスローペースの前残りということでもない。いつも何人かは一流の外国人騎手がいて、海外遠征が特別なことではなくなり、調教師にも厩舎スタッフにも馬術の世界から入ってきた人が増えた。これがここ20年の日本の競馬の変化。サンデーサイレンスUSA血脈の導入もこの時期だ。それらが噛み合った結果がこのような究極の瞬発力勝負につながっているとすると、これは良い方への変化であると考えるのが自然だ。馬の走りたいように伸びのびと走らせて、速い者、体力のある者が勝つという素朴な競馬から、より洗練された競馬への変化であり、その成果はドバイのジャスタウェイやジェンティルドンナはもちろんだが、それ以上にオーストラリアの重馬場で後方から進んで直線ズドン!を決めたハナズゴールにこそ現れている。

 イスラボニータの皐月賞制覇によって初めて国内のクラシックを得たフジキセキは、このレースで過去2勝、ダノンシャンティがNHKマイルC-G1に、サダムパテックがマイルチャンピオンシップ-G1に勝っていて、ダートも含めればフェブラリーSのカネヒキリもいるように、本領は1600m戦にある。スプリンターのキンシャサノキセキはオープン特別なら1600mで勝っているし、1400mなら阪神C-G2 2回とスワンS-G2に勝っている。2006年のNHKマイルCではもう1頭のフジキセキの代表的スプリンター・ファイングレイン2着に続く3着となっているから、乱暴な言い方をすれば、折り合い面などの課題をクリアすればフジキセキ産駒のスプリンターは1600mでも十分通用する。そこで◎ストレイトガールに期待した。道悪で大外を回ったことを考えれば強い内容で、自身生涯最遅の上がり37秒0で苦しみながら3着を確保した点は今後生きてくる。母の父タイキシャトルUSAは安田記念、マイルチャンピオンシップ(2回)、ジャックルマロワ賞-G1、スプリンターズSに勝った名マイラーで、母の父としてはこの春のクラシック戦線にワンアンドオンリー(弥生賞-G2 2着、皐月賞-G1 4着)を送り込んでいる。フジキセキとの配合では、サンデーサイレンスUSAとデヴィルズバッグのヘイロー直仔新旧の名馬のクロスとなる。これはダノンシャンティやヴィルシーナがデヴィルズバッグの全姉グローリアスソングを経由したヘイローの近交で成功している例に似て、優れた瞬発力につながる可能性が高い。祖母の父デインヒルUSAはフェノーメノやミッキーアイルの母系に潜んで大レースでのタフなスピード勝負をサポートする面を改めて示しているし、08年の勝ち馬エイジアンウインズはフジキセキ×デインヒルUSAのパターンだった。3代母タイセイカグラは桜花賞馬シャダイカグラの半妹。現役時はダートで2勝を挙げたのみでも、産駒に神戸新聞杯のオースミブライト、関屋記念のオースミコスモを得て繁殖牝馬として成功した。後者の父はフジキセキだから、父のこの牝系との相性の良さは10年以上前に証明されていたことになる。


過去8回の種牡馬別成績
順位種牡馬名1着2着3着着外勝率連対率3着率勝ち馬
1フジキセキ20050.2850.2850.285コイウタ(07)
エイジアンウインズ(08)
2クロフネ12070.1000.3000.300ホエールキャプチャ(12)
3サンデーサイレンスUSA112100.0710.1420.285ダンスインザムード(06)
4ディープインパクト11120.2000.4000.600ヴィルシーナ(13)
5タニノギムレット11120.2000.4000.600ウオッカ(09)
6スペシャルウィーク11010.3330.6660.666ブエナビスタ(10)
7キングカメハメハ10170.1110.1110.222アパパネ(11)
8ロイヤルタッチ01000.0001.0001.000 
9アグネスタキオン01070.0000.1250.125 
10テレグノシス00110.0000.0000.500 
11アドマイヤベガ00120.0000.0000.333 
12フレンチデピュティ00130.0000.0000.250 

 エイジアンウインズの半妹エバーブロッサムは7頭出し!のディープインパクト産駒の中では人気がなさそうだが、ここ3戦には目をつむって東京1600mでの変身に期待する手はある。3代母バウンドはエイコーンS-G1 3着のほか何度も重賞で入着を果たした活躍馬。産駒アーキペンコは香港クイーンエリザベス2世C-G1に勝ち、孫のブレームは2010年のブリーダーズCクラシック-G1で名牝ゼニヤッタの20連勝を阻んだ。4代母はヌレエフやサドラーズウェルズの祖スペシャルだから、そのような歴史的大駆けがいつあっても驚けない名門ファミリーだ。本馬も母の父デインヒルUSA、母サクラサクIIに眠るヒズマジェスティとトムロルフの2本のリボー血脈から大駆けの匂いがプンプンしている。

 前のクロフネサプライズ、後ろのホエールキャプチャからなるクロフネUSA船団もディープインパクト産駒が多いからこそ機動力を生かすチャンスを自ら作れる。▲クロフネサプライズは母の父がトニービンIREだからスプリンターズS-G1と高松宮記念-G1に勝った名牝カレンチャンと同じパターン。祖母の父ニホンピロウイナーは安田記念、マイルチャンピオンシップ(2回)に勝った名馬で、祖母の全弟ダンディコマンドは北九州記念など5勝を挙げた。4代母サニースワップスUSAはアルゼンチン共和国杯のサクラサニーオーを生み、曾孫トランセンドはJCダート-G1、フェブラリーS-G1に勝ち、ドバイワールドC-G1で2着となった。その名の由来であるケンタッキーダービー馬スワップスは5代母アイアンエイジUSAの全兄。今年のケンタッキーダービー馬カリフォルニアクロームは1922年モーヴィック、1955年スワップス、1962年ディサイディドリー以来4頭目のカリフォルニア州産馬として話題になったが、管理する77歳のA.シャーマン調教師はスワップスの攻馬手だったというから、太平洋を挟んでこの牝系に光が当たっても驚けないところ。牝系には代々ハイペリオンの強い種牡馬を配合されてきているので、ちょっとやそっとでは止まらないだろう。

 ホエールキャプチャはこのレースの主のようなものだが、若い子がいっぱいいるし、6歳の連対例はないし、南極海の捕鯨が禁止されたし、3、4番人気あたりに落ち着くのだろうか。しかし、クロフネUSA産駒らしい見かけとは別に32秒台の上がりを使えるのは牝馬であり、母の父がサンデーサイレンスUSAであるからこそだろう。3代母タレンティドガールはエリザベス女王杯勝ち馬で、その半兄ニッポーテイオーはこのコースで安田記念と天皇賞(秋)に勝った。牝馬限定戦だけに牝系の格を重視すれば、このビューチフルドリーマーGB系は一段上といえる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.5.18
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