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昨年のこのレースに勝ったロードカナロアは12月に香港スプリント-G1で2着に5馬身差をつけてワールドベストレースホースランキングで128の高いレーティングを得た。スプリント部門では上にブラックキャヴィアがいるだけで、そのレーティング130は多分に名誉点と思えなくもなく、実質的にスプリント部門における2013年の世界最高のパフォーマンスは香港スプリント-G1のロードカナロアだった可能性もあるし、少なくとも北半球では名実ともに他を圧して頂点に立っていた。当時2着のソールパワーは今年になってドバイで2戦して地元に戻ると、5月のパレスハウスS-G3、7月のキングズスタンドS-G1、8月のナンソープS-G1と3連勝。近年の欧州のスプリンターとしては稀な目覚しい活躍だった。それによってロードカナロアの強さの裏付けを着々と積み上げていたとも言える。ロードカナロアの出現まで、香港スプリント-G1に勝つのは凱旋門賞よりも難しいとさえ言われていたし、実際にこのレースでも、サイレントウィットネスAUSやテイクオーバーターゲットAUSといった名馬には手も足も出ないばかりか、ウルトラファンタジーAUSあたりにも逃げ切られているのだから、スプリント戦線が香港やオーストラリアに比べると低い水準で推移していたのは事実だろう。ロードカナロアというケタ外れの天才が去ったことで、元の水準に戻る可能性も高い。しかし、日本調教馬最初の海外G1制覇となったモーリスドギース賞-G1のシーキングザパールUSA、その後のアベイドロンシャン賞-G1とジュライC-G1を制したアグネスワールドUSAなど、海外でも実績を残したスプリンターは10数年前にもいた。当時から育成や調教といった技術面で水準が下がるものではないので、強い個体が現れるかどうか、特にスプリンターはそういった運を天に任さざるを得ない面が強いようにも思える。 サクラバクシンオーがスプリンター種牡馬として多くの活躍馬を送りながら、スプリントでG1レベルに達したのがわずかにショウナンカンプだけだったのも恐らくそういうことで、G3やG2なら血統的に計算できるスピードで何とかなっても、壁を破ってそれより上に至るには別の要素が必要になってくる。たとえば、チャンスブリード的な成功であったり、長距離向きの血統のブレンドであったりといったことだ。◎グランプリボスはこれまで朝日杯FS-G1とNHKマイルC-G1に勝ったほか、マイルチャンピオンシップ-G1で2着1回、安田記念-G1では世界王者を苦しめたこの春を含め2度2着。既にサクラバクシンオー産駒の例外的存在となっているが、1200mは昨年のスプリンターズS-G1(7着)で1度しか経験していない。左回りの平坦ということでは初めてとなる。祖母の父がセクレタリアト、4代母ファーザーズピロウはフェアトライアルやテューダーミンストレルに加えムムタズベガム4×5なので、サクラバクシンオーとの配合ではナスルーラのスピードが強調されることになり、1200mへのスイッチが悪いこととは思えない。母の父サンデーサイレンスUSAに由来する万能性ゆえに1600mでも我慢が利いているが、むしろ1200mで純粋に瞬発力を生かす方が向いている可能性もある。12年前に新潟の1200mで行われたこのレースはサンデーサイレンスUSA産駒のビリーヴが快勝。サンデーサイレンスUSAにとっては種牡馬として初めてのスプリントのタイトルを得た場所ということになる。スプリンターとしての資質が目を覚ますには最適の舞台といえるのではないか。 ビリーヴに始まってデュランダル、アドマイヤマックス、オレハマッテルゼ、スズカフェニックスと続くサンデーサイレンスUSA直仔のスプリンターの流れがあって、デュランダルは産駒に優駿牝馬のエリンコートを出し、スズカフェニックスはNHKマイルC-G1のマイネルホウオウを送った。そうやって成功するのはいいことなのだが、いずれも2400mや1600mといった長い距離。これはサンデーサイレンスUSA系に限らず、代を経て距離をこなすようになったというよりも、スプリンターとしての徹底的スピードを保っていられなくなったと逆の見方をする方がひょっとすると正しいのかもしれない。○ハナズゴールの父オレハマッテルゼは2006年の高松宮記念勝ち馬。北九州記念-G3・2着のメイショウイザヨイもこの父の産駒だし、ハナズゴール自身、オーストラリア遠征では距離が短いほど成績が良かった(負けても着差が小さかった)。これも2度目の1200mがプラスになるかもしれない。母の父シャンハイはヘクタープロテクターの半弟だが、ネヴァーベンドの近交になっているせいもあって、より一本気なスピードに特化している面もあり、オレハマッテルゼの母の父ジャッジアンジェルーチからボールドルーラーのアメリカ的なスピードを強調する働きもしそうだ。マルゼンスキーと同じクイルの牝系、3代母の父がリボー系トムロルフというあたりにもG1向きの長打力が秘められている。 ダイワメジャーはマイルチャンピオンシップ2勝、安田記念、天皇賞(秋)、皐月賞に勝った名馬だが、サンデーサイレンスUSA系の軽い瞬発力よりも重く力強いスピードが身上で、種牡馬としてもその傾向は産駒に伝わっていて、平均的なスピードで押し切れる場合に強く、瞬発力比べでは分が悪く、それならダートが向くかというとダートはそれほど得意ではない。今年の新潟芝での産駒成績も(5.4.9.73)と決してほめられたものではないが、今の荒れてきた馬場で、普通なら粘れなさそうなところを通って粘ってしまうというように、このような難しい個性が意外に合うかもしれない。高松宮記念-G1勝ち馬▲コパノリチャードは4代母が英オークス馬シンティレート。シンティレートのきょうだいには英オークス馬ジュリエットマーニーや英セントレジャー馬ジュリオマリナーのいる名門ファミリーで、そこにブラッシンググルーム、カーリアン、トニービンと配合されてきた母なら2400m向きの産駒が出ても不思議ではないが、そういった不思議を超えたところにG1スプリンターへの道があるという一例ではあるかもしれない。 △ストレイトガールは高松宮記念-G1が良馬場なら勝っていたかもしれないし、ヴィクトリアマイル-G1もきれいに進路が開いていたら勝っていたかもしれないので、巡り合わせ次第では今ごろ大変な名牝と呼ばれていた可能性がある。父がフジキセキで、サンデーサイレンスUSA系種牡馬×タイキシャトル牝馬という配合は春の牡馬クラシックのトレンドを抑えていて、祖母の父はG1御用達血脈デインヒルUSA、シャダイカグラと同じ牝系と上半期にタイトルに届かなかったのが不思議なくらいの血統背景。 グランプリボスは古馬G1を3度惜敗しているが、ひとつがストロングリターンにクビ差届かなかった安田記念。レッドオーヴァルはそのストロングリターンの半妹。血統的には強気に出られる立場。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.10.5
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