2014NHKマイルC


テスコボーイGBが残した轍

 80年代には誰もがテスコボーイGBの父系を継ぐのはトウショウボーイだと思っていただろう。ところが最も華やかなミスターシービー〜ヤマニングローバルのラインは絶え、重賞勝ちのないサクラロータリーの直仔マイネルスマイルが種牡馬として毎年1頭送り出した仔が現役では3頭(プニプニヨークン、スベスベヨークン、フワフワヨークン)走っているに過ぎない。父系継続はもはや風前の灯となった。トウショウボーイの9年後、テスコボーイGBが晩年を迎えた時期に生まれたサクラユタカオーは代表産駒サクラバクシンオーが大成功しただけでなく、エアジハードがショウワモダンを出して安田記念父仔制覇を達成した。ショウワモダンの乗馬転向と事故死という不幸はあったものの、エアジハード自身は現役種牡馬であり、可能性は失われたわけではない。しかし、今のところ最も有望なのはやはりサクラバクシンオーで、最初の大レース勝ち馬であるショウナンカンプが7年目の産駒によって大躍進を遂げた。ショウナンアチーヴとショウナンワダチはどちらの母も国本哲秀氏の持ち馬で、特にショウナンアチーヴは母ショウナンパントルが阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち馬のショウナンパントルだからオーナー冥利に尽きる夢の配合といえる。昨年の米国ではラムゼイ夫妻が生産して種牡馬にしたキトゥンズジョイがほとんど自家生産の産駒ばかりで次々と大レースに勝って、全米リーディングサイアーの座に就いた。米国でさえこういう例があるのだから、量的にリーディングは無理としても、ちょっとした旋風を巻き起こすくらいの成功は望めるだろう。ショウナンアチーヴの母が最優秀2歳牝馬で一族にザッツザプレンティ、ディープブリランテ、バブルガムフェローと並ぶ豪華なボトムラインなのに対して、ショウナンワダチは母ショウナンマライアも祖母ショウナンマライアも未勝利で伯母のショウナンバーキンがクイーンCで3着となった程度の地味さだが、4代母シャダイコスモスは中山牝馬Sに勝ち、5代母の孫には皐月賞馬ダイナコスモスがいて、牝祖ナイトライトGBの名にふさわしい鈍い輝きを感じさせる。しかし、ここで注目すべきは母の父クロフネUSAの存在。2001年のこのレースを大本命で制したクロフネUSAの父であるフレンチデピュティは、最大の穴馬ピンクカメオの父でもある。フレンチデピュティ〜クロフネUSA血脈のこのレースでの活躍は下表の通り。昨年は勝ち馬の母の父として、また、2着馬の父系祖父として変則ワンツーを果たし、今もこのレースの重要血脈であることを改めて印象付けた。ショウナンワダチの配合はノーザンテーストCAN4×5、ニジンスキー4×5というカナダの大生産者E.P.テイラーの手になるノーザンダンサーの傑作を重ねている点が特徴的で、フレンチデピュティ〜デピュティミニスターと遡ると、やはりテイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔ヴァイスリージェントに至る。国本さんのホームブレッドを奥で支えていたのはテイラーのノーザンダンサーだったという構図だ。このようにノーザンダンサーの力強いスピードに支えられたサクラバクシンオー〜サクラユタカオー〜テスコボーイGBの軽快さは、サンデーサイレンスUSA的な瞬発力とは異質なだけに、その切れを封じつつ、自身が生きる道を開く可能性がある。


フレンチデピュティ血脈の活躍
馬場着順馬名人気単勝母の父
200018ノボジャックUSA1338.6 フレンチデピュティUSAアフリートCAN
20011クロフネUSA11.2 フレンチデピュティUSAClassic Go Go
20012グラスエイコウオー13150.6 フレンチデピュティUSAExplodent
20066フサイチリシャール12.6 クロフネUSAサンデーサイレンスUSA
20071ピンクカメオ1776.0 フレンチデピュティUSASilver Hawk
20077ハイソサエティー1025.3 フレンチデピュティUSAAkarad
20082ブラックシェル39.2 クロフネUSAウイニングチケット
20099ブレイクランアウト13.3 Smart StrikeフレンチデピュティUSA
200914ティアップゴールド722.2 クロフネUSAMachiavellian
201014トシギャングスター1185.8 クロフネUSAサンデーサイレンスUSA
201110アイヴィーリーグ612.4 リンカーンフレンチデピュティUSA
201212ネオヴァンクル18139.3 フレンチデピュティUSAティンバーカントリーUSA
2012マウントシャスタ23.7 ディープインパクトフレンチデピュティUSA
2012シゲルスダチ1673.8 クロフネUSAブライアンズタイムUSA
20131マイネルホウオウ1034.3 スズカフェニックスフレンチデピュティUSA
20132インパルスヒーロー614.2 クロフネUSAサンデーサイレンスUSA
20135ガイヤースヴェルト25.2 ダイワメジャーフレンチデピュティUSA
201314モグモグパクパク1492.3 メイショウボーラーフレンチデピュティUSA

 ディープインパクトにとってのミッキーアイルがサンデーサイレンスUSAにとってのサイレンススズカとなるのかどうか、現時点では何とも言えないが、連戦連勝のイメージは母の父から投影された部分も大きいだろう。2歳4月にデビューしたロックオブジブラルタルIREは5戦3勝でフランスに遠征してグランクリテリウム-G1を制すると、デューハーストS-G1に勝ってシーズンを終え、3歳時は英2000ギニー-G1、愛2000ギニー-G1、セントジェームズパレスS-G1、サセックスS-G1、ムーランドロンシャン賞-G1と勝ち進み、G1・7連勝という当時の記録を作った。最後は米国の小回りアーリントンパークでのBCマイル-G1で2着に負けて引退した。今にして思うと鮮やかだったのは最後の1Fで後続をあっという間に置き去りにした2歳時のグランクリテリウム-G1だけだった気もするが、そういったセンスや身体能力は孫の非凡なスタートダッシュに形を変えて現れているようにも見える。こちらもリファール、ダンチヒ、ヌレエフ、ビーマイゲストとノーザンダンサーを4本持っていて、ハイペリオンの濃い後2者の名前から受ける印象では、将来的には距離延長にも耐えられると思う。

 ▲ホウライアキコの桜花賞-G1はディープインパクト、ステイゴールド、ハーツクライという新三大種牡馬の産駒に次いでの4着。巷間言われる通りに3歳牝馬が超ハイレベルだとすれば、騎乗の、いや、机上の計算ではここであっさり突き抜けてもおかしくない。父ヨハネスブルグUSAは2歳で神童、3歳でただの馬というよくありがちな早熟の天才だったが、それに比べれば娘はよく奮闘していて、相手が楽になれば即巻き返せる内容。3代母が英ダービー馬セクレトUSAの全妹で、ユアホステスを経てブドワールに遡る優良牝系。そこに重ねたストームキャットとサンデーサイレンスUSAの組み合わせも現代的だ。

 マイネルディアベルは祖母ネクストムービーが天皇賞(秋)2着のムービースターの全姉。ディクタスFR×ノーザンテーストCANのサッカーボーイ配合ながら、この系統は瞬発力よりも長く持続できる脚に特徴があったので、それが母の父トニービンIREによって、より東京向きに、より長所を伸ばす方向にチューンされている可能性がある。父ナイキアディライトがダートの名馬でどうなのかというところだが、デヴィルズバッグにノーザンダンサー、ボールドルーラー、ギャラントマンを組み合わせたと考えれば、欧州的な母ムービースクリーンにないスピードをもたらすことになるかもしれない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.5.11
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