2014高松宮記念


オペラ座の妖女

 昨年の年度代表馬の座にはめでたくロードカナロアが就いたものの、スプリンターは異端とは言わないまでも短い方の端に位置するカテゴリなので、クラシックからずっとメインストリームで戦った中長距離馬のような人気は得にくい。ロードカナロアでも2年越しでスプリントのG1を3つ勝って、安田記念-G1も勝って、香港スプリント-G1も連覇して、それでも満票での選出とならなかったのだから、スプリンターにとって厳しい現実は消えてなくなったわけではない。過去5年の世界ランキングから短距離のS部門でレーティング120以上を抽出したのが下表。ロードカナロアのレーティングは昨年の香港スプリント-G1でのものだが、オーストラリアの女王ブラックキャヴィアに次ぐ2位。3位以下には3ポイントの差を付けているのだから堂々たるものだ。もちろん、米国勢が過小評価されがちな傾向と、名誉最高位的に高いレーティングを維持したブラックキャヴィアに引っ張られた豪州勢に若干の過大評価ありとの疑いなきにしもあらずといった点での補正は必要だが、ロケットマンAUSやジェイジェイザジェットプレーン、セークリッドキングダムといった各地を代表する歴史的スプリンターを上回る評価を受けた事実は揺るがない。サクラバクシンオー亡きあと、ロードカナロアを起点に日本の新しいスプリンター血統が育つかと思うとわくわくするが、それも数年先の話なので、とりあえずは空いた王位を埋める存在を探さなくてはならない。


過去5年の世界のトップスプリンター
レーテ
ィング
 馬 名産地競走
生年成績
年度
 父
132ブラックキャヴィア20062011Bel Esprit
128ロードカナロア20082013キングカメハメハ
125ヘイリスト2005セン2012スタチューオブリバティUSA
125ロケットマンAUS2005セン2011Viscount
124クリプトンファクター2008セン2012Kyllachy
123セポイ20082011Elusive Quality
122アトランティックジュエル20082012Fastnet Rock
122ジェイジェイザジェットプレーン南ア2004セン2011Jet Master
122シーニックブラストAUS豪/英2004セン2009Scenic
122セークリッドキングダム2003セン2009Encosta de Lago
122ピエロ20092013Lonhro
121グルーピードール20082012Bowman's Band
121スタースパングルドバナー20062010Choisir
121フォックスウェッジ20082012Fastnet Rock
121ムーンライトクラウド20082012Invincible Spirit
121メンタル2008セン2012Lonhro
121リーサルフォース20092013Dark Angel
120アマゾンビ2006セン2012Northern Afleet
120エポレット20092013コマンズAUS
120コディアックカウボーイ20052009Posse
120ディーコンブルーズ2007セン2011Compton Place
120ファビュラスストライク2003セン2009Smart Strike
120ホワットアウィンター南ア南ア20072013Western Winter
120ラッキーナインIRE2007セン2013Dubawi
2008〜2013年のワールドベストレースホースランキング(2012年までワールドサラブレッドランキング)のS部門
120以上を抜粋。太字は日本出走馬

 過去の血統的な流れをざっくりと振り返ると、ビリーヴ、アドマイヤマックス、オレハマッテルゼ、スズカフェニックスのサンデーサイレンスUSA時代、ファイングレイン、キンシャサノキセキAUS連覇のフジキセキ時代と大きな波があった。クロフネUSAのカレンチャン、キングカメハメハのロードカナロアというコース改修後のここ2年の結果を見る限り、サンデーサイレンスUSA的な瞬発力よりもデピュティミニスターやキングマンボの馬力にシフトしてきたかとの印象は受ける。馬場はともかく、旧コースより底力が問われるのは確かなので、その見立てが大きな間違いとはならないだろう。レディオブオペラは父系がサドラーズウェルズ直系で母の父がキングマンボ。ジャパンC勝ち馬シングスピールIREは産駒に安田記念-G1のアサクサデンエンを送り、孫に皐月賞馬ロゴタイプが出て、オペラハウス系以外では日本で唯一G1レベルでの成功を示すサドラーズウェルズ系。米国でエルプラド〜メダーリアドーロ系だけが大成功しているように、サドラーズウェルズ系には特殊な条件に徹底的に適性を示す面があるのかもしれない。サドラーズウェルズとキングマンボの相性の良さはエルコンドルパサー以来、欧州でも多くの成功例が出たことで分かるが、母の父がキングマンボ、父がサドラーズウェルズ系のパターンでも2012年のキャメロット、昨年のルーラーオブザワールドと2年連続英ダービー馬が出ている。祖母の父がサンデーサイレンスUSAなので、父系祖父シングスピールIRE、母の父サンデーサイレンスUSAのロゴタイプにも似て、特に名牝グローリアスソング(またはその全きょうだい)とサンデーサイレンスUSAを経由したヘイローの近交はダノンシャンティにヴィルシーナ、マーティンボロにワンアンドオンリーと近年とみにその勢力を増している。4代母ファミリースタイルは1985年の米国最優秀2歳牝馬。BCジュヴェナイル-G1は2着に敗れたものの、その年10戦4勝うちG13つという大活躍が評価されたもの。4歳秋の引退まで一線級で休まず走って35戦10勝の成績を残したのを見るだけでも、いかにタフな牝馬か分かる。そこに重ねられたサンデーサイレンスUSA、グローリアスソングの血によって4代母のタフさもよみがえるものと思う。

 ストレイトガールは父系祖父サンデーサイレンスUSA、母の父の父デヴィルズバッグがグローリアスソングの全弟だからレディオブオペラに共通する部分が多い。牝系は懐かしいシャダイカグラのミリーバード系で、3代母が桜花賞馬の半妹ということになる。父フジキセキは今年、実質的な最終世代からイスラボニータ、ロサギガンティアと2頭のクラシック候補を送っており、産駒の活力にはまだまだ陰りがない。流れが過去3勝のフジキセキ時代のリバイバルという方向なら、こちらの出番になる。

 また、ロードカナロアという異能を挟んで、サンデーサイレンスUSA→フジキセキ→ディープインパクトという正統的な世代交代が起きるケースも考えられる。ディープインパクトは今のところ1600mか2400mが主戦場だが、父のサンデーサイレンスUSAが中距離からやがて1200mへと勢力を拡大したように、この部門の制圧も時間の問題と考えるのが自然。▲レッドオーヴァルは安田記念-G1勝ち馬ストロングリターンの半妹で、母は2歳時にマザリンBCS-G1で2着。母の父は2007年に産駒のカーリンがBCクラシック-G1に、イングリッシュチャネルがBCターフ-G1に勝った米チャンピオンサイアー。見た目によらず血統は骨太で力強い。

 スマートオリオンは同じ厩舎のグラスワンダーUSA産駒、スクリーンヒーローがジャパンC-G1に勝ったときに似た勢いを感じさせる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.3.30
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