2014菊花賞


阿寒湖経由の登頂ルート

 阿寒湖特別は1997年に当時3歳のステイゴールドが勝ったことによって中級条件の特別戦のひとつに過ぎないにもかかわらず高い知名度を獲得した。ステイゴールドの成績が記述される際には天皇賞2着や宝塚記念2着よりも前に「阿寒湖特別」があるためだ。当時の「社台グループ繁殖牝馬名簿」(2000年2月刊)のゴールデンサッシュのページからその繁殖成績を引くと、「94 ステイゴールド(牡 黒鹿 *サンデーサイレンス)3勝、阿寒湖特別、すいれん賞、天皇賞(秋)-G12着(2回)、同(春)-G12着、宝塚記念-G12着、同3着……」とある。この状態は2000年5月、6歳の春まで続いた。有名になるわけだ。1998年から2600mの長距離戦となった阿寒湖特別の3歳の勝ち馬は下表の通り。マンハッタンカフェとファインモーションは勝った年の秋に大きく飛躍し、ホクトスルタンとスマートロビンは翌年の目黒記念(G2)に勝った。堂々たる出世レースといえるが、これが2年ぶりに復活したのは今夏の札幌。雨の稍重馬場で行われた芝2600m戦は3歳のシャンパーニュが1番人気に応えた。4歳勢を一蹴したにはしたが、2着のヤマイチパートナーは昨年の菊花賞-G1 10着馬。その後の2戦は距離不足、4角で動けなかったことなどの敗因があまり関係がないほどの完敗だった。ただ、過去20年を振り返ると、2008年2着のフローテーションは神戸新聞杯12着、2002年2着ファストタテヤマが札幌記念13着、2001年2着マイネルデスポットが1000万条件特別での3着から巻き返した例がある。3000mの距離の特殊性と予測のつきにくい展開がうまく作用すると、持ち時計のなさや決め手不足といった弱点がカバーされる場合があるわけだ。シャンパーニュの父チチカステナンゴFRはリュパン賞-G1、パリ大賞-G1の2000mの3歳限定戦に勝ち、産駒にヴィジオンデタとソノワの2頭のジョッキークラブ賞-G1(仏ダービー)勝ち馬を出した。いずれもジョッキークラブ賞-G1が2100mに短縮されてからの勝ち馬だが、ブレックはモーリスドニュイユ賞-G2(2800m)、バルブヴィル賞-G3(3100m)などに勝って超長距離で活躍している。カルドゥンからカロを経てフォルティノFRに遡る父系なので、切れ味鋭いマイラーからバテないステイヤーまで多様性に富んでいて、どんな馬が出ても驚けないのだ。祖母のファビラスラフインFRは秋華賞勝ち以上にシングスピールIREにハナ差で食い下がったジャパンC2着に価値のある名牝。そしてカルドゥン産駒の3代母メルカルはフランス伝統の超長距離戦カドラン賞-G1(4000m)の勝ち馬。チチカステナンゴFRの祖母の父はファビュラスダンサーなので、チチカステナンゴFRとファビラスラフインFRはいずれもカルドゥンとファビュラスダンサーが柱となる相似配合。そこに日本のG1に欠かせないサンデーサイレンスUSAがくさびのように挟まったパターンとなる。母の父としてのサンデーサイレンスUSAは菊花賞にこれまで24頭出走させて3勝。特に勝率が高いわけではないが、2006年ソングオブウインド、2007年アサクサキングス、2010年ビッグウィークの名前を挙げれば、いずれもサンデーサイレンスUSAのサポートがあればこその勝利だったと実感はできよう。


阿寒湖特別勝ちの3歳馬
年度 馬名性齢 父 重賞勝ち(時系列順)
1997ステイゴールド牡3サンデーサイレンスUSA2000目黒記念、2001日経新春杯、2001ドバイシ
ーマクラシックG2、2001香港ヴァーズG1
2001マンハッタンカフェ牡3サンデーサイレンスUSA2001菊花賞、2001有馬記念、2002天皇賞(春)
2002ファインモーションIRE牝3デインヒルUSA2002ローズS、2002秋華賞、2002エリザベス女
王杯、2003阪神牝馬S、2004札幌記念
2002コマノハイ牡3スペシャルウィーク 
2007ホクトスルタン牡3メジロマックイーン2008目黒記念
2009ポルカマズルカ牝3ティンバーカントリーUSA 
2010シルクオールディー牡3マンハッタンカフェ 
2011スマートロビン牡3ディープインパクト2012目黒記念G2
※1997年は2000m

 ハーツクライ産駒はこの3歳世代で初めて春のクラシックを手に入れた。しかも牡牝揃っての快挙だった。上の世代では昨秋から急上昇を見せたジャスタウェイが春のドバイデューティフリー-G1の6馬身差圧勝でレーティングによる世界ランキングで首位となった。ところが、ジャスタウェイが凱旋門賞-G1で敗れ、ヌーヴォレコルトも秋華賞-G1は2着となってしまった。秋になるとハーツクライに勢いが失われたと言いたいのではない。実際に南半球ではアドマイヤラクティがコーフィールドC-G1で6歳にしてG1初制覇を達成した(向こうは春だけど)。ジャスタウェイ級の高みに上るにしても、その戦歴を見れば分かる通り、どこかで停滞したり急上昇したりといった緩急があるわけで、3歳春のハーツクライ産駒としては早い時期に急上昇したぶん、次の上昇に備える中だるみとも踊り場とも言える局面がどこかに用意されているのではないかという推測だ。ワンアンドオンリーは母がタイキシャトル×ダンチヒ×ミスタープロスペクター。これがハーツクライ産駒としては早く仕上がった元であるし、アメリカ血統の一流のスピードを重ねたことが距離克服の足かせとなるわけではないことも東京優駿で既に証明されている。ただ、2400mと3000mの違い、長距離と超長距離の違いは確かにある。刃物でいうと鋭さの極致まで研がれた名刀より、もうちょっとなまくらの方がいいよということだ。

 ▲ショウナンラグーンの祖母メジロドーベルは桜花賞以外の当時の牝馬の大レースをすべて勝った名牝。直仔に目立つ活躍馬は出なかったが、1代おいて初めて重賞勝ち馬が現れた。このような例は古今東西少なくない。祖母の父は春の天皇賞馬メジロブライトを送り、母の父マンハッタンカフェは2001年の菊花賞馬で、父シンボリクリスエスUSAは昨年の勝ち馬エピファネイアと同じ。メジロ牧場の牝系から出ているのは高松宮記念のショウナンカンプと共通する。長距離に不安のない、しかも一流の血脈を重ねられた安定感では、これが随一といえる。

 ハギノハイブリッドはブライアンズタイムUSA、トニービンIRE、サンデーサイレンスUSAとかつての3代種牡馬を揃えた配合で、ブライアンズタイムUSA直系が勝てばナリタブライアン、マヤノトップガンの連勝した1994、95年以来となる。父はクリスタルパレスFRからカロを経てフォルティノFRへ、母の父はカンパラGBからカラムーンを経てゼダーンGBへとそれぞれグレイソヴリン直仔の大物に至る。それがグレイソブリンらしさにつながるわけでもないだろうが、デザインとしては面白い仕掛け。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.10.26
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