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モンテファストとミサキネバアーの昭和59年、クシロキングとメジロトーマスの昭和61年などの万馬券決着はあるにせよ、概ね堅く、崩れても両雄並び立たずとヒモが狂う形の多かった春の天皇賞が本格的に荒れる様相を呈してきたのはサンデーサイレンスUSA血脈がこのレースにも大きな影響力を示しはじめた平成10年以降のことだ。この年、サンデーサイレンスUSA直仔として初めて連勝に絡んだステイゴールドは11番人気。これを契機に大雑把に言って人気でコケるのがサンデーサイレンスUSAなら、人気薄で台頭するのもサンデーサイレンスUSAという厄介なこととなった。この荒れ模様をより複雑にしたのが平成15年勝ち馬ヒシミラクルの父で平成21年勝ち馬マイネルキッツの母の父であるサッカーボーイだった。ステイゴールドは父がサンデーサイレンスUSA、母ゴールデンサッシュがサッカーボーイの全妹という血統なので、一昨年のオルフェーヴルや昨年のゴールドシップは派手に人気を裏切ったかと思うと代わってフェノーメノが勝ったりしている。ステイゴールドが京都3200mに合わないとは言えないし、フェノーメノの場合は母の父がデインヒルUSAだから高速決着に対応できたというのも都合のいい論だと思う。サンデーサイレンスUSA系の激しい気性を考えれば、基本的には京都3200mが少なくとも向いているわけではなくて、そこで人気を背負う程度に追い詰められるとより悪い方に転がり、逆に人気薄で臨めるくらいにガス抜きができていれば良い方に転がって予想以上の好走があり得るということではないだろうか。 そのように荒れる近年の争いが低レベルなものだったかというとそうでもなくて、レーティングで見るとG1の基準となる115を概ねクリアしている。過去3年の平均117.42はジャパンC(121.42)、宝塚記念(120.83)、有馬記念(120.58)、天皇賞(秋)(120.50)に次ぐ第5位。スプリンターズS(116.50)やマイルチャンピオンシップ(116.42)、安田記念(116.33)を凌いでいるあたり、何だかんだ言っても日本が長距離に資源の豊富なことの裏付けとなるだろう。そして、このように荒れてもハイレベルという戦いでは、意表を突いて、予想の裏をかき、人気の盲点から抜けて、終わってみればサンデーサイレンスUSA新御三家ステイゴールド、ディープインパクト、ハーツクライの組み合わせだったという結果になるのではないだろうか。そう想像する。 |
| 天皇賞(春)過去10年の最終レースレーティング | |||||||||
| 年度 | 1着 | FR | 2着 | FR | 3着 | FR | 4着 | FR | FRR |
| 2004 | イングランディーレ | 115 | ゼンノロブロイ | 122 | シルクフェイマス | 116 | チャクラ | 108 | 115.25 |
| 2005 | スズカマンボ | 113 | ビッグゴールド | 110 | アイポッパー | 112 | トウショウナイト | 111 | 111.50 |
| 2006 | ディープインパクト | 127 | リンカーン | 117 | ストラタジェム | 112 | アイポッパー | 112 | 117.00 |
| 2007 | メイショウサムソン | 122 | エリモエクスパイア | 115 | トウカイトリック | 115 | アイポッパー | 114 | 116.50 |
| 2008 | アドマイヤジュピタ | 118 | メイショウサムソン | 118 | アサクサキングス | 115 | ホクトスルタン | 114 | 116.25 |
| 2009 | マイネルキッツ | 117 | アルナスライン | 116 | ドリームジャーニー | 122 | サンライズマックス | 114 | 117.25 |
| 2010 | ジャガーメイル | 118 | マイネルキッツ | 117 | メイショウドンタク | 112 | ナムラクレセント | 110 | 114.25 |
| 2011 | ヒルノダムール | 120 | エイシンフラッシュ | 120 | ナムラクレセント | 114 | マカニビスティー | 113 | 116.75 |
| 2012 | ビートブラック | 117 | トーセンジョーダン | 117 | ウインバリアシオン | 116 | ジャガーメイル | 115 | 116.25 |
| 2013 | フェノーメノ | 121 | トーセンラー | 119 | レッドカドーGB | 120 | ゴールドシップ | 117 | 119.25 |
| 各馬のシーズン末のレーティングを集計。FRRは4頭の平均 | |||||||||
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新御三家でも新三大SSでも何でもいいが、ここ2、3年で阪神・中山ならステイゴールド、京都・東京ならディープインパクト、まとめて負かせばハーツクライという役割分担が確立しつつある。今回はそこをひねって、あえて◎ゴールドシップ。昨年の迷走は同じステイゴールド×メジロマックイーンのオルフェーヴル以上の難しい馬になってきた印象を抱かせるが、そこから立ち直りつつあるのは前走のレースぶりからも分かる。時計とか馬場状態云々よりも、走る気さえ出せばそれを支える能力に陰りはないということ。母の父はこのレースの連覇を最初に達成した名馬であり、京都大賞典-G2では2400mを2:22.7のレコード勝ちも収めているのだから、マイラー的な切れには欠けても高速決着での足枷とはならない。 ○キズナの父ディープインパクトは平成18年のこのレースで単勝1.1倍の1番人気に応え、イトコのビワハヤヒデは平成6年に同じく1.3倍で勝った。イトコのナリタブライアンは1.7倍でサクラローレルに負けたという不都合な真実がないではないが、屈折した面のあるステイゴールド系に対して、こちらは父母両系とも日の当たる道の真ん中を歩いていくようになっているのだろう。問題になるとすれば母の父ストームキャット、絞り込めばその祖母の父クリムゾンサタンの存在だろうが、この強力なアメリカのスプリント血脈はマイネルキッツの祖母の父でもあった。これもむしろサンデーサイレンスUSAに対するスパイスとしての効果大と見るのが正しいようだ。サンデーサイレンスUSAは直仔の天皇賞(春)初参戦が平成8年サマーサスピションの14着。翌年マーベラスサンデーが3着となり、続いてステイゴールドが2着、平成11年スペシャルウィークまで攻略に4年、延べ11頭が挑んで達成されたが、昨年2着のトーセンラーがこのレース初挑戦だったディープインパクトは、意外にあっさり2年目での制覇となるのかもしれない。 有馬記念でディープインパクトを破ったハーツクライは、種牡馬となっても息子のジャスタウェイがジェンティルドンナを破ったりして、変わらぬディープ・キラーぶりを示している。ジャスタウェイは世界ランキングでトップになるほどだから、本格化すると止まるところを知らない。▲ウインバリアシオンは打倒オルフェーヴルの目標が失われながらこれまでにない強さを見せた前走の内容も頼もしい。ハーツクライの3代母の父ビューパーズと、祖母の父タイムフォーアチェインジ、米国の名門フィップス家の名血が父母をつないでいるのがこの配合の美点。 ディープインパクト産駒のラストインパクトとサトノノブレス、ハーツクライ産駒のフェイムゲーム、実績不足だが底も見せていないこれら4歳馬に穴の資格がありそうだが、サンデーサイレンスUSAと無関係なところで不気味さが漂うのが△アスカクリチャン。父がJBCスプリントの勝ち馬で、札幌記念に勝った母の父は平成元年の最優秀ダート馬。一見ダート、それも短距離で活躍していそうなのにそうならなかった。このようなあべこべの妙は名スプリンター・カドージェネルーの産駒であるレッドカドーGBが体現しているものでもある。アスカクリチャンのミスタープロスペクターとノーザンダンサーを組み合わせた配合の骨組は11番人気でメイショウサムソンの2着になったエリモエクスパイアを思い出させるもので、アフリート、ミスタープロスペクターと遡る父系の多様な発展性、ダイナレターに潜在していたステイヤーとしての可能性を考えると、あながち無理な狙いでもないだろう。アルゼンチン共和国杯-G2のような立ち回りができればチャンスあり。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.5.4
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