2013安田記念


猫の手を借りて2階級制圧

 愛国のサドラーズウェルズ、米国のストームキャットといった一流血統は舶来の高級品としての価値は認められても、さて日本において実用的かというとそうではなかった。直仔で重賞勝ちに至ったのはサドラーズウェルズがサージュウェルズIRE1頭、ストームキャットもシーキングザダイヤUSAだけ。母の父としては強い個性が緩和されるせいか多くの重賞勝ち馬を送って、高級品としての価値を示す場合は格段に増えたが、それでもG1となると何年かに1回の頻度にとどまっていた。それが昨年来、特に今年に入ってからの母の父としてのストームキャットの躍進ぶりはどうだろう。ロードカナロアの快進撃は昨年からの延長線上にあったとしても、アユサンが桜花賞G1に勝ち、キズナが東京優駿G1で頂点に立つなど、ファレノプシス以来となる芝のクラシックまで制してしまった。今年になってからの重賞勝ち7は、頭数でほぼ8倍程度の戦力を持つブルードメアサイアーランキング首位のサンデーサイレンスUSAと同じ数。ストームキャットの本場である米国でも、娘の産駒によるG1勝ちは去る5月27日のサハラスカイによるメトロポリタンHG1が今年最初だから、日本での突然の成功には驚くほかない。このような流れには素直に乗るべきで、ロードカナロア。スプリンター・ハッピープログレスが制したグレード制導入初回の1984年以来、伝統的に越境挑戦が実りやすい傾向があるが、成功例が多いのは長い方からの転戦。ただ、これだけの大物スプリンターの挑戦は2005年に3着となった香港のサイレントウィットネスAUS以来となるし、昨年10F路線への挑戦を成功させたマイル王フランケルに似たワクワク感もある。母レディブラッサムは勝ち鞍すべてを1400mまでで挙げたスプリンターだが、祖母サラトガデューUSAはベルデームS、ガゼルHとダート9FのG1で2勝している。4代母アラダは米G2・2勝、5代母シリアンシーは2歳時にセリマS、アスタリタS、コリーンSに勝った活躍馬で、その5歳下の全弟に1973年の三冠馬セクレタリアトがいる。セクレタリアトはストームキャットの母の父としてその成功に貢献している存在であり、母に秘められたパワーはこの全きょうだい3×4の近交によるところが大きい。キングカメハメハとの配合ではセクレタリアトに似た血統構成の英ダービー馬ミルリーフの血が意味を持ってくることにもなるだろう。3代母の父インリアリティも父系のミスタープロスペクターと組み合わされることで米国クラシック的なタフさにつながる貴重な血脈。ほかにもグロースタークとヒズマジェスティの全兄弟が父と母に潜んでいたり、全体的に見て破壊力のある血脈を詰め込んた結果がスプリントでの成功につながった可能性もあるが、単純に考えてキングマンボなら1600mでも押し切ってしまうのではないかというのが結論。


母の父としてのストームキャット
馬名生年重賞勝ち
ファレノプシス1995ブライアンズタイムUSA桜花賞(1998)、秋華賞(1998)、エリザベス女王杯(2000)、ローズS(1998)
ブラックタキシード1996サンデーサイレンスUSAセントライト記念(1999)
グラスワールド1996Rahyダービー卿CT(2002)
ベルグチケット1997ウイニングチケットフェアリーS(1999)
シンコールビー2000サクラローレルフローラS(2003)
メイショウボーラー2001タイキシャトルUSAフェブラリーS(2005)、デイリー杯2歳S(2003)、根岸S(2005)、ガーネットS(2005)、小倉2歳S(2003)
オースミダイドウ2004スペシャルウィークデイリー杯2歳S(2006)
レッドスパーダ2006タイキシャトルUSA東京新聞杯G3(2010)
タガノエリザベート2007スペシャルウィークファンタジーS(2009)
ロードカナロア2008キングカメハメハ高松宮記念G1(2013)、スプリンターズSG1(2012)、香港スプリントG1(2012)、阪急杯G3(2013)、シルクロードSG3(2012)、京阪杯G3
ショウナンマイティ2008マンハッタンカフェ大阪杯G2(2012)
キズナ2010ディープインパクト東京優駿G1(2013)、京都新聞杯G2(2013)、毎日杯G3(2013)
アユサン2010ディープインパクト桜花賞G1(2013)
ヒラボクディープ2010ディープインパクト青葉賞G2(2013)

 もう1頭の母の父ストームキャットであるショウナンマイティは3代母の産駒に愛ダービーG1に勝った男勝りの名牝バランシーンがいる。凱旋門賞G1連覇のアレッジド4×3の近交というストームキャット以外の部分も強烈な個性を感じさせる配合。父のマンハッタンカフェはレッドディザイア世代の大活躍の印象が薄くなってきた今年、フェブラリーSG1のグレープブランデーを送ってG1戦線へのカムバックを果たした。サンデーサイレンスUSA、ノーザンダンサー、クリムゾンサタンという要素を抽出すると、2007年の勝ち馬ダイワメジャーに通じる部分もある。

 カレンブラックヒルにはダイワメジャーとの父仔制覇の期待がかかる。ダート挑戦で表面的にはリズムが狂ってしまったようにも見えるが、父は喉の手術によって3歳後半の不振から立ち直って一線級に復帰し、その後何度も凡走と復活を繰り返した。そのあたりはサンデーサイレンスUSA×ノーザンテーストCANの配合、特に後者が支えた部分が大きそうだし、フラムドグロワールなどの成績を見ていると、そういった面は産駒にもしっかりと伝わっているようだ。カレンブラックヒルには祖母の父からストームキャットが入って、3代母が仏オークス、ヴェルメーユ賞に勝った名牝。スカーレットブーケ≒ストームキャットの組み合わせを柱に、日米欧の多様な血脈を集めているので懐が深く、もうひと皮むける余地を残している。

 エーシントップUSAは父系祖父がストームキャット。この父系はフェブラリーSのサンライズバッカス、朝日杯FSのゴスホークケンUSA、マイルチャンピオンシップのエーシンフォワードUSA、エイシンアポロンUSAなど、日本のG1レベルではピンポイントで1600m限定で活躍する。その能力がうまく時と場所を得ると、エーシンフォワードの13番人気でのレコード駆けのようなことが起こるわけだ。父母ともにノーザンダンサー、ミスタープロスペクター、ボールドルーラーを組み合わせた正調米国血統というべき配合。特に祖母の父ダンチヒの存在に食指が動く。

 香港からの遠征馬は延べ31頭が出走して(2.2.2.25)。率でいえば見送るべきだが、少なくとも5年に1度は馬券になっている。話題に上ることも少ない今回あたり、好走の周期ではないか。ヘレンスピリットIREは父系曽祖父がストームキャット。3代母ミステリアスは1973年の英国2冠牝馬。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.6.2
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