2013ヴィクトリアマイル


猫一族の野望

 一般に距離が長くなるほど着差はつきやすい。ハイペースになるほど、道悪になるほど、消耗戦になるほど、やはり着差はつきやすい。このような当たり前の話を検証しようと、過去10年の芝のG1級レースについて先頭から1秒以内で何頭が入線しているかを数えてみた(下表)。2003年から2012年までの10年間を平均すると、高松宮記念が最大の14.2頭、スプリンターズSでは12.7頭。対して菊花賞では8.1頭、天皇賞(春)が最少の6.1頭となった。距離が延びれば1秒間に固まって入線する頭数は減るし、同じ距離なら牝馬限定戦の方が固まって入る頭数は多い。スローペースから上がりの決め手比べになる場合が多いせいもあるだろう。全体としてこのように極めて当たり前の傾向が示される中、よく分からないことになっているのが1600mのカテゴリ。歴史的に競馬の基準とされてきて、種牡馬選択の物差しとしても信頼性が高いはずのこの部門だけが乱調を示している。2歳、3歳限定戦はまだいいでしょう。マイルチャンピオンシップが高松宮記念並みの決め手だけの勝負になっていること、東京1600mの安田記念までもがそれに準じた数値となっていることを見ると、これでいいのかと思わざるを得ない。それらに比べるとこのレース(過去7年だが)は、牝馬限定戦ながら意外なことに瞬発力のみの勝負になっていないように見える。ウオッカが7馬身ち切った2009年のデータを除いても、まだ安田記念より平均値は下回っている。そう考えると、サンデーサイレンスUSA的な瞬間的なスピードよりもノーザンダンサーやミスタープロスペクターの平均的なスピードと馬力が勝る場合があり、その実例がブエナビスタを抑えたアパパネ、ドナウブルーを捉えたホエールキャプチャということになるのかもしれない。


芝G1で先頭から1秒間に入着した頭数 (過去10年)
レース名距離2003200420052006200720082009201020112012平均
高松宮記念12001515131711121517111614.2
スプリンターズS1200107141413151514111412.7
桜花賞1600116876128149149.5
NHKマイルC1600122681031061197.7
ヴィクトリアマイル1600   131210111101310.0
安田記念16001312159158812121311.7
マイルチャンピオンシップ1600188151113161616131514.1
阪神ジュベナイルフィリーズ16001613981451213121111.3
朝日杯フューチュリティ16006127154891210129.5
皐月賞2000868911105117118.6
秋華賞2000136691416111481411.1
天皇賞(秋)2000961781112867119.5
宝塚記念22007553781010756.7
エリザベス女王杯22001114999854898.6
優駿牝馬2400116129910571148.4
東京優駿24006627785122116.6
ジャパンカップ2400171089139121299.0
有馬記念25001111010584101167.6
菊花賞300081046107813698.1
天皇賞(春)32008110211693836.1

 米国の大種牡馬ストームキャットが永眠したのは先月24日のこと。北米のみならず、欧州にも父系を拡大して30歳での大往生だった。日本では特に今年に入って母の父としての成果が相次いでおり、ロードカナロア、アユサン、ヒラボクディープ、キズナで2つのG1を含む重賞6勝を挙げている。父系としては直仔テールオブザキャット産駒のエーシントップUSAがNHKマイルCで1番人気を裏切ったように、信頼度は今イチ。父系直系でG1レベルに達したのはフェブラリーSのサンライズバッカス、朝日杯フューチュリティSのゴスホークケンUSA、マイルチャンピオンシップG1のエーシンフォワードUSA、同じくエイシンアポロンUSAの4頭のみ。ただ、これらはどれも1600mで、ここまで狭い範囲に実績が集中するのも珍しい。逆にいえば、1600mなら何とかなる可能性が残されているということだ。ゴールデングローブはストームキャットの直系曾孫に当たるが、昨年のBCスプリントG1に勝ったトリニバーグなど、もう4代孫のG1勝ち馬も現れ始めている。父のシャマーダルは仏2000ギニーG1、2100mになってからの仏ダービーG1、英国でのセントジェームズパレスSG1に勝った名馬。祖父ジャイアンツコーズウェイも“鉄の馬”と呼ばれたG1・6勝の名馬。一方の母ゴールドサンライズUSAはゴールデンロッドS米G3勝ち馬で、孫にパークヒルS英G2勝ち馬イースタンアリアを送っている。祖母シアトルドーンもデラウェアH米G2などに勝ち、産駒プレミアムサンダーUSAはトパーズSの京都ダート1800mを1.48.4のレコードで駆けた。4代母コートリーディーの子孫には名種牡馬グリーンデザートや、ヤマニンパラダイスUSA、ノーリーズンなど多くの名馬名牝が並ぶアメリカンファミリーの名門だ。マキアヴェリアンとフォーティナイナーという主流同士のミスタープロスペクター4×3、セクレタリアトとシアトルスルーとリヴァーマンの組み合わせなど爆発力を秘めた仕掛けも数々施された配合。

 3頭出しのディープインパクト産駒ではドナウブルーに魅力あり。ジェンティルドンナの全姉で、母ドナブリーニGBは2歳時に6FのG1チーヴァリーパークSに勝った。こちらの示す距離適性の方が理解しやすい。リファールの近交となる点は全妹はもちろん、天皇賞(春)2着のトーセンラーや先週の新潟大賞典に勝ったパッションダンスとも共通する父の産駒の成功パターン。ちなみにディープインパクト産駒に重賞でウィリアムズ騎手が乗ると(3.1.3.2)の3着内率0.777という数字が出ております。

 オールザットジャズの父はウオッカだけでなく、2010年3着のニシノブルームーンも送っている。サンデーサイレンスUSAの孫の時代になっても、いつでも反攻の用意があるのはさすがブライアンズタイムUSA系だ。もっとも母の父がサンデーサイレンスUSAというパターンは父にとっては最も成功例が多いので、血統表中では同じヘイルトゥリーズン系の日本での成功者として両雄並び立っているわけだ。伯母フラエンジェルは愛1000ギニー勝ち馬、3代母の産駒にケンタッキーダービー馬スペンドアバックがいて、偉大な名牝ラトロワンヌの妹から発展した系統。無闇に派手でなく、しかも高級品だけで血統表を埋めた市川氏らしい配合。

 テレグノシスはタニノギムレットを破ってNHKマイルに勝ち、同期ローエングリンとは一緒にフランスに遠征、緒戦のジャックルマロワ賞ではこちらが先着して3着に健闘した。トニービンからゼダーンに遡る系統には一子相伝的なところもあるので、この系統はジャングルポケット系が背負うということなのかもしれないが、意地を見せればマイネイサベルの一撃があるかもしれない。ジャパンCに勝ったレガシーワールドと同じプロポンチス系。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.5.12
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