2013スプリンターズS


再び香り立つゲラン

 ダービー馬キズナ、桜花賞馬アユサンがいずれも父ディープインパクト、母の父ストームキャットという配合。本年の上半期はこの最新最強のニックスが発見されたという点で意義深いものだった。一方、ヘレンサーフGB系にはNHKマイルCG1のマイネルホウオウ、ダイアンケーUSAの子孫にオークス馬メイショウマンボが出て、星旗USA系のゴールドシップは宝塚記念G1を制した。いずれも古い牝系に新しいサンデーサイレンスUSA系種牡馬を配することで才能が引き出されたパターン。このように新旧いずれの血脈とも協力体制を築けるサンデーサイレンスUSAの遺伝子は着実に浸透と拡散を繰り返していくことになる。また、サンデーサイレンスUSAに限らず外から来た新しい血脈が引き金となって休眠状態を脱した在来牝系にも改めて目を向ける必要がある。伊達に数世代数十年にわたって日本の草を食ってませんよという繁殖牝馬には、風土に馴染んで漫然と過ごしている面と、逆に新しいものに出会ってこれまで表に出なかった資質があらわになる可能性の両方があるからだ。

 80年代末から90年代初めにかけて立て続けに活躍馬が現れたゲランの牝系は、ニュージーランド産の輸入馬ミスブゼンNZに遡る。平地で京都牝馬特別や小倉記念(いずれも当時は特別)など12勝を挙げたミスブゼンNZは阪神の障碍特別など障害でも5勝を挙げ、京都大障害(秋)で3着となった活躍馬。戦後間もない1950年代はオーストラリアや米国から中央競馬会や、大井や園田の馬主会が団体購買して抽選馬として資源の不足を補ったので、この時期には輸入競走馬が多かった。ダイアンケーUSAは米国から、ハイセイコーの祖母ダルモーガンAUSやタケシバオーの祖母クニビキAUSはオーストラリアから輸入されていて、後に日本競馬の大きな財産となった。下表の通り活躍馬を送り出したゲランもその後は鳴りを潜め、姉の孫にナリタブライアン世代の菊花賞2着馬ヤシマソブリンが現れた程度だった。エリザベス女王杯2着のヤマフリアルの妹モガミゲランは不出走。そこから出たメガミゲラン、チリエージェはいずれも短距離で活躍こそしたが、かつて華やかな時代に比べると先細りの感は否めなかった。そこに現れたのがハクサンムーン。父のアドマイヤムーンは当たり前のようにドバイデューティフリーG1を勝つと、香港のクイーンエリザベス2世CG1・3着から帰国して当たり前のように宝塚記念G1とジャパンCG1に勝って引退、種牡馬となった。ヒシアマゾンの姉ケイティーズファーストUSAにサンデーサイレンスUSAとエンドスウィープUSAを重ねた血統は、ノーザンダンサーとナスルーラが主体の日高の牝馬には効果的で、特に平均的サクラバクシンオー像を体現したかのような母に、現代的なパワーとスピードを与える役を果たした。このレースは国内G1格を与えられた最初の年に種正GBから出たバンブーメモリーが勝ったのを初めとして、ダイタクヤマト、トロットスター、カルストンライトオ、ローレルゲレイロなど、在来牝系から出た和風血統が意外な健闘を見せる傾向が強い。前哨戦に続いての金星はあり得る。



目を覚ました名門ミスブゼン系
ミスブゼンNZ Miss Buzen(NZ)(牝、1952年生、栗毛、父Summertime)1954年4月輸入、
    12勝、障害5勝、3着:京都大障害(秋)(57)
  ハマトヨ(牝、1960、黒鹿、ライジングフレームGB)
   | マウントブゼン(牝、1965、黒鹿、エイトラックスFR)中山大障害(秋)(69)
  ゴールデンリズ(牝、1962、栗、トサミドリ)
   | エゾミドリ(牝、1974、鹿、ヴィミーFR)
   |   ヤシマソブリン(牡、1991、鹿、ミルジョージUSA)ラジオたんぱ賞(94)、2着:菊花賞(94)、
   |     3着:東京優駿(94)
  ゲラン(牝、1964、栗、ソロナウェーIRE)
    スイートゲラン(牝、1971、鹿、ファラモンドFR)
     | プリティゲラン(牝、1979、栗、ネヴァービートGB)
     |   ラッキーゲラン(牡、1986、栗、ラッキーソブリンUSA)阪神3歳S(88)、毎日王冠(90)、
     |     函館記念(90)
    シルクスキー(牝、1976、栗、ミンスキーCAN)最優秀2歳牝馬(78)、京都大賞典(80)、4歳
     | 牝馬特別(東、79)、函館3歳S、阪神牝馬特別(79)
    スイートドリーム(牝、1979、鹿、ラッキーソブリンUSA)
     | コスモドリーム(牝、1985、鹿、ブゼンダイオー)優駿牝馬(88)
    カスタネット(牝、1980、栗、ミルジョージUSA)
     | オースミシャダイ(牡、1986、鹿、リアルシャダイUSA)阪神大賞典(90)、日経賞(90)、3着:
     |   天皇賞(春、91)
    ミスゲラン(牝、1981、鹿、マルゼンスキー)
      ヤマフリアル(牝、1986、鹿、リアルシャダイUSA)2着エリザベス女王杯(89)
      モガミゲラン(牝、1988、鹿、モガミFR)
        メガミゲラン(牝、1992、鹿、シェイディハイツGB)3着:北九州記念(97)
          チリエージェ(牝、2001、栗、サクラバクシンオー)
            ハクサンムーン(牡、2009、栗、アドマイヤムーン)セントウルSG2(13)、アイビ
              スサマーダッシュG3(13)、京阪杯G3(12)、3着:高松宮記念G1(13)

 ロードカナロアは春のストームキャット祭りを牽引した。アユサン、キズナと続く「母の父ストームキャット」の成功が呼び水となったか、夏以降の2歳戦ではヨハネスブルグUSA産駒が大活躍して、これまで日本ではなかなか成功しなかったストームキャット直系のイメージを覆しつつある。ただ、そのパワーをストームキャットに頼るところ大だとすると、それほど長くピークが続かないのではないかという危惧がなきにしもあらず。あえて死角を探すなら、そのあたりではないだろうか。

 自身スプリンターズSを93、94年と連覇して、日本のスプリント血統の代名詞ともなっているサクラバクシンオーは、産駒の高松宮記念とスプリンターズSの成績を通算すると(1.0.3.40)。ショウナンカンプが高松宮記念に勝ってスプリンターズS3着、シーイズトウショウが高松宮記念3着、カノヤザクラがスプリンターズS3着。馬券に絡んだのはこの4回だけだ。ただ、グランプリボスは父の産駒として唯一のG1・2勝馬。それも1600mでのものだから、例外的サクラバクシンオー産駒と考えるべき。

 スギノエンデバーはG3・1勝の標準的サクラバクシンオー産駒だが、こちらは母の父がこの春亡くなったブライアンズタイムUSA。母の父としては秋華賞のティコティコタックから天皇賞(春)G1のビートブラックまで多くの大駆け馬を送り出していて、それが母の父ブライアンズタイムUSAの属性と決め付けられるどうかかは疑問ながら、大舞台に強い特性はある程度見込んでおいてもいいのではないか。テイクオーバーターゲットAUSが勝った06年に16番人気で3着となったタガノバスティーユがブライアンズタイムUSA直仔で、北九州記念9着からここに臨んでいた。不発後の大駆けは父の産駒にもよくある。

 大穴でサドンストーム。2年連続このレースで5着に終わった香港の半兄ラッキーナインIREは、今季、矛先を南に向けてシンガポールでクリスフライヤー国際スプリントG1に快勝。一族の運は上昇中だ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.9.29
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