2013エリザベス女王杯


ダイアンケーの60年

 日本の近代競馬の土台を作ったのは1907(明治40)年に輸入された小岩井農場の基礎牝馬群であり、1926(大正15)年から1932(昭和7)年にかけて輸入された下総御料牧場の基礎牝馬群だった。今年も小岩井牝系からはヘレンサーフGBの子孫にNHKマイルC-G1のマイネルホウオウが現れ、宝塚記念-G1に勝ったゴールドシップの8代母は1931(昭和6)年に下総御料牧場に輸入された星旗USAだった。それ以外の多くはキズナのように母が輸入馬だったり、エピファネイアのように祖母が輸入馬だったりするわけだが、その中間あたりに位置するのが、戦後の一時期、競走馬資源補充のためにオーストラリア、ニュージーランドやアメリカから輸入された牝馬の子孫となる。

 スプリンターズS-G1・2着のハクサンムーンは6代母が1952年、ニュージーランドで生まれたミスブゼンNZ。メイショウマンボは7代母が1950年生まれの米国産馬ダイアンケーUSAだ。
 ダイアンケーUSAについて「名牝の系譜〜第三巻」(岡田光一郎著、中央競馬サービスセンター刊、昭和41年)には
 「初出走 三才二小、二連勝。四才五戦三勝。五才四戦三勝。通算十一戦八勝。二七年二小三才優勝戦。四才春一阪、二戦一勝のほか全部小倉での出走。地方競馬との交流馬(両方へ出られた小倉出走馬への特別の扱い)で、地方でもおおいに活躍したようである。九州方面では七五キロで勝つたといわれる。母系の祖は遠く二十代母がコンキユバインの十九代母になる」
 とある。判じ物のようだが、要するに2歳で輸入された年にさっそく夏の小倉で連勝している。
 デビュー戦は7月19日の第5競走。8頭立ての芝1000m良馬場、鞍上は田之上(勲)51キロ、単勝3番人気だった。当時の「昭和二十七年前期 國營競馬成績書」(前夜通信社刊)から引く。
 「クマゲザクラ出遅れ。ダイアンケー、テツノチカラ、ダイオホマレ等が発馬良く飛出し、半哩をダイアンケー、テツノチカラ、ダイオホマレ放れてポーライトレデイ、カドムス、ミスフラワーの順に通過。その儘直線に入り二位のテツノチカラ懸命に叩き出すもダイアンケー樂に逃切る」
 勝ち時計は1:00.2のレコードだった。
 2戦目は8月10日の小倉第7競走の優勝戦。芝1200m11頭立て良馬場。引き続き田之上騎手。再び同誌から引く。
 「一齋に発馬。ダイアンケー、スタートダツシユ良く直ぐ先頭となり、ミスハイペリオン、テツノチカラ、タツサクラ、ハヤカゼ、クマバチの順に向正面を進み(中略)三分三厘すぎより二位のテツノチカラ差し四角手前で先行のダイアンケーに並びハヤカゼ、ミスハイペリオン後接近して四角廻つたが、直線に入りダイアンケー樂に逃切る」
 勝ち時計1:14.3はともかく、素晴らしい快足ですね。ちなみにこのレースで6着になったミスハイペリオンUSAはやはり米国産の輸入競走馬。同じ7月19日の第2競走で勝ち上がっていて、孫に1974(昭和49)年のダービー馬コーネルランサーが出た。
 長々と引用を続けたのは51年前のダイアンケーUSAの華々しいデビュー当時の様子が、メイショウマンボの祖母メイショウアヤメの16年前に重なるから。メイショウアヤメは1997年7月20日に小倉芝1000mの新馬戦を逃げ切り、8月16日に2戦目のフェニックス賞を出遅れから先頭に立って逃げ切った。時計は初戦が58.0、2戦目が1:08.6のレコードだった。45年を経た6代目で見事な先祖返りを果たしたわけだ。これは勿論よく出来た偶然の一致に過ぎないが、サラブレッドが種として固定されておよそ300年、もちろん改良はされているとしても、それは軽くなったり重くなったり、あるいは鋭くなったり鈍くなったりといった様々な座標を上がったり下がったりしながらぐるぐると循環しているのではないか。その間に人間が能力を引き出す術が進歩しているので、昔の馬より今の馬の方が強いと、そういうことではないだろうか。ノーザンダンサーやサンデーサイレンスの導入によってもたらされたのは、速さであり強さであるのは確かだが、ここまで鍛えられる、ここまで速く走らせられるという限界が従来より先にあることを日本の競馬に教えてくれたという見方もできる。

 さて、現代のメイショウマンボに戻ると、菊花賞馬ダイコーター以降は大物の現れていなかったダイアンケーUSA系に、ミスタープロスペクターとノーザンダンサーを重ねたのがメイショウアヤメ。これが新しい起点になった。グラスワンダーUSA、スズカマンボと重ねることで現代的なノーザンダンサーとヘイルトゥリーズンの近交とし、更にミスタープロスペクターと名牝スペシャルの血を共有するキングマンボとジェイドロバリーUSAを3代目に並べることで、鮮やかな父母相似形となった。ノーザンダンサーの母の父にしてミスタープロスペクターの父系祖父ネイティヴダンサーも、ダイアンケーUSAと同じ1950年生まれ。同じ米国に発して60年あまり別々にあった流れが、ここで1本にまとまり、大河小説のひとつのクライマックスに至ったと言えるだろうか。

 相手にはデニムアンドルビー、以下、アロマティコ、大穴でエディン


突如目覚めたダイアンケー系
ダイアンケーUSA Dianne K.(USA)(牝、鹿、1950、父Lillolkid)1952年2月輸入 8勝
  ユキロウ(牡、鹿、1958、ヒンドスタンGB)(公)2勝 スプリングS、全日本3歳優駿、ニューイヤーH、
   |   大井記念
  ダイコージ(牡、鹿、1959、ヒンドスタンGB)4勝(公) 東海桜花賞
  ダイユウ(牝、鹿、1960、ライジングフレームGB)
   | オウジャ(牡、黒鹿、1967、ヒンドスタンGB)6勝 CBC賞、愛知杯
   | マルイチジョウオー(牝、栗、1972、シンザン)2勝
   |   ダイアンベンチャ(牝、鹿、1978、ヴェンチアGB)
   |     ウイルムーン(牝、鹿、1987、ミルジョージUSA)1勝
   |      | メイショウアヤメ(牝、鹿、1995、ジェイドロバリーUSA)3勝 2着:4歳牝馬特別(西)
   |      |   メイショウモモカ(牝、栗、2002、グラスワンダーUSA)
   |      |     メイショウマンボ(牝、鹿、2010、スズカマンボ)現役 優駿牝馬G1、秋華賞G1、
   |      |         フィリーズレビューG2
   |     ダイアナスキー(牝、鹿、1991、マルゼンスキー)
   |       ケイアイベール(牝、栗、1996、サクラユタカオー)
   |         マイネレーツェル(牝、鹿、2005、ステイゴールド)フィリーズレビュー、ローズS
  ヒヤク(牝、鹿、1961、トサミドリ)
   | シンダイアンケー(牝、鹿、1967、シンザン)3勝
   |   ハシラベンダー(牝、鹿、1975、シャローゲイUSA)3勝
   |     メモリーバイス(牡、栗、1985、パーソナリティUSA)5勝 新潟大賞典
  ダイコーター(牡、鹿、ヒンドスタンGB)12勝 菊花賞、スプリングS、NHK杯、きさらぎ賞、神戸杯、
   |   2着:皐月賞、東京優駿
  セカイイチオー(牝、鹿、1963、ティエポロITY)[競]セカイイチ 6勝(公) 2着:毎日杯
   | ウラカワチェリー(牝、黒鹿、1972、シンザン)9勝 北九州記念、阪神牝馬特別
  ダイセイ(牝、鹿、1970、シンザン)
   | ハシクランツ(牡、栗、1976、ネヴァービートGB)8勝(公) 大阪杯、鳴尾記念、2着:菊花賞
  ハシダイアン(牝、栗、1971、シンザン)2勝
    ハシローディー(牡、鹿、1979、ボールドリックUSA)5勝 鳴尾記念、中京記念、京都4歳特別

競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.11.10
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