2013オークス


アメリカンファミリーの来航

 阪神競馬場に外回りコースができた2006年の阪神ジュベナイルフィリーズ以降、そこから桜花賞、オークスへと続く牝馬のクラシック路線は視界が良くなったというのか、紛れがなくなったというのか、従来のように舞台が移ったことで様相が一変する傾向はなくなった。桜花賞馬が出走した直近の5年では、(3)(1)(1)(1)(4)(1)着と6割が勝ち、勝てなくても掲示板は外していない。アユサンは桜花賞を別にしても、新馬勝ち、続くアルテミスS2着と東京で2戦続けて33秒台のレース最速の上がりをマークしており、能力の高さは疑いようがない。母の父のストームキャットの血はマイル以下が向くのは確かだが、G1レベルでファレノプシスの例があり、4月の青葉賞ではヒラボクディープが、5月の京都新聞杯ではキズナが勝っているので、ディープインパクトとのコンビネーションによってクラシックディスタンスへの攻勢をかけていると見るのが妥当。アユサンの祖母バイザファームはトップフライトH-米G1など重賞5勝を挙げたほか、タフに重賞戦線で上位を争った名牝で、その父は米三冠馬アファームド。母バイザキャットUSAは米国血脈の塊といえる配合だが、そのネイティヴダンサーの近交をアユサンでノーザンダンサーの近交に発展させた手法はスムーズ。父の持つ欧州血脈とも破綻なく融合しているように見える。強いて弱点を探すと、父のG1実績が、マルセリーナの桜花賞G1、ジョワドヴィーヴルの阪神JFG1、ジェンティルドンナの桜花賞G1、ビューティパーラーの仏1000ギニーG1、アユサンの桜花賞G1、ヴィルシーナのヴィクトリアマイルG1とあまりにも牝馬1600m戦で突出していることだが、これも有能な種牡馬の初期の傾向としてありがちなことなのかもしれない。ただ、このように自身に何ら問題がなくても、ディープインパクト4頭出し、18頭中15頭がサンデーサイレンスUSAの孫といういわば同族の争いが牝馬戦である場合、異系統の抜け駆け的台頭はあり得るのではないだろうか。


オークスでの桜花賞馬
桜花賞馬オークス
着順人気
1993ベガ
1994オグリローマン12
1995ワンダーパヒューム
1996ファイトガリバー
1997キョウエイマーチ11
1998ファレノプシス
1999プリモディーネ
2000チアズグレイス
2001テイエムオーシャン
2002アローキャリー
2003スティルインラブ
2004ダンスインザムード
2005ラインクラフト
2006キストゥヘヴン
2007ダイワスカーレット
2008レジネッタ
2009ブエナビスタ
2010アパパネ
2011マルセリーナ
2012ジェンティルドンナ

 にはディープインパクト系=サンデーサイレンスUSA系の流れを自分で崩せるクロフネサプライズ。この牝系はアメリカンファミリーの名門A4ファニーマリア系。グリーンデザートからヤマニンパラダイスUSAまで近年大きな影響力を発揮しているジュディレイ系とは別の分枝だが、こちらも1950年代には大変な勢いを示していた。6代母アイアンリワードの産駒スワップスは1955年の、7代母の産駒アイアンリージUSAは1957年のケンタッキーダービーの勝ち馬。西海岸の彗星スワップスは東部のライバル・ナシュアとの死闘のほか、8回にわたるレコード駆けを含め25戦19勝の歴史的名馬であり、アイアンリージUSAはボールドルーラー、ラウンドテーブル、ギャラントマンという米国史上最大の3強と同世代に生まれながらケンタッキーダービーを制した強運の持ち主。実は重要なのは遠く離れた偉大な親戚の存在ではなく、そのような牝系にハレド、ノーザンテーストCAN、ニホンピロウイナー、トニービンIREとそれぞれハイペリオンの濃い種牡馬を重ねられてきた点で、多彩な血を重ねながら、ハイペリオン血脈が通奏低音的に重要な役割を果たしている。適切なたとえかどうか分からないが、同じ父で2008年のダービーで3着となったブラックシェルのアメリカンファミリー版にも見える。この先1200mで大活躍しても驚けない血統ではあるが、少なくとも今の時点では2400m克服の可能性は残している。


栄光のアメリカンファミリー〜A4ファニーマリア系アイアンメイドンの分枝
IRON MAIDEN(USA) アイアンメイドン(牝、鹿毛、1941年生、父War Admiral)12勝、デルマーH、2着=
    ヴァニティH、サンディエゴH
  Iron Reward(USA) アイアンリワード(牝、鹿、1946、Beau Perre)
   | SWAPS スワップス(牡、栗、1952、Khaled)19勝、ケンタッキーダービー、ハリウッドゴールドCH、サンタアニ
   |  | タダービー、アメリカンダービー他
   | アイアンエイジUSA(牝、鹿、1962、Khaled)不出走
   |   サニースワップスUSA(牝、鹿、1975、Hawaii)不出走
   |     ダイナスワップス(牝、鹿、1979、ノーザンテーストCAN)未勝利
   |      | パイナップルスター(牝、黒鹿、1988、ニホンピロウイナー)1勝
   |      |  | ティアドロップス(牝、黒鹿毛、1997、サンデーサイレンスUSA)
   |      |  |  | マイネルラクリマ(牡、栗、2008、チーフベアハートCAN)4勝、京都金杯、現役
   |      |  | アイアンブリッジ(牝、鹿、1998、トニービンIRE)佐賀1勝
   |      |  |   クロフネサプライズ(牝、芦、2010、クロフネUSA)3勝、チューリップ賞G3、2着=阪神JFG1
   |      | ダンディコマンド(牡、鹿、1993、ニホンピロウイナー)5勝、北九州記念
   |     サクラサニーオー(牡、鹿、1982、パーソロンIRE)6勝、アルゼンチン共和国杯、京成杯、2着=
   |      | 弥生賞、3着=皐月賞、菊花賞、安田記念
   |     ブルーハワイ(牝、鹿、1989、スリルショーUSA)
   |       シネマスコープ(牝、栗、1993、トニービンIRE)4勝
   |         トランセンド(牡、鹿、2006、ワイルドラッシュUSA)10勝、ジャパンCダートG1×2、フェブラリーS
   |           G1、南部杯、2着=ドバイワールドCG1、JBCクラシック
  アイアンリージUSA(牡、鹿、1954、Bull Lea)11勝、ケンタッキーダービー、ジャージーS他、2着=プリークネス
    S、ワイドナーH他

 ▲セレブリティモデルはマンハッタンカフェの姪で、ブエナビスタとも3代母を共有する。父キングカメハメハはアパパネと同じ。戦時下の名牝シュヴァルツゴルト(6代母)に遡るシュレンダーハン牧場のSラインは1985年の英ダービー馬スリップアンカー以来、ドイツ牝系にあってとりわけドイツ外での成功が華々しいファミリー。サンデーサイレンスUSA、キングカメハメハとまったく色合いの異なる血を載せてもしっかりと支える力がある。忘れな草賞とフローラSで、そう大きなレベル差があるとも思えなのだが、どうだろうか。

 △リラコサージュはレインボーダリアで健在ぶりを見せつけたかと思ったら、この4月に死んでしまった大種牡馬ブライアンズタイムUSAの産駒。祖母トラヴァーズシティと3代母チェリージュビリーはともに米G3勝ち、4代母の産駒に1981年のトラヴァーズS-米G1勝ち馬ウィローアワーがいる牝系にも活気がある。ナシュアの近交が効果を上げてニックスとして定評のあるロベルト×ミスタープロスペクターのパターンは、この父の産駒に限ってもチョウカイキャロル、フリオーソ、ノーリーズンなど多くの成功例があり、父の初年度産駒で1994年の勝ち馬チョウカイキャロルの2010年バージョンという見立てはできなくもない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.5.19
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