2013ジャパンCダート


E.P.テイラーの遺産

 スペシャルウィークがダート種牡馬に転向か?と言われたのが昨年のことで、上半期はゴルトブリッツが3連勝で帝王賞を制した。そのゴルトブリッツが惜しくも8月に死んでしまうと、入れ替わるように登場したローマンレジェンドが条件戦からの6連勝で臨んだこのレースの1番人気となり、そこは4着に敗れたものの、暮れには東京大賞典-G1を制した。今年に入るとそれに続くような勢いのあるものが現れるわけでもなく、たまたま一時期にダートの強豪が続けて出たというだけのことだったようだが、まるで素質のないものがG1レベルまで上り詰めるわけでもないので、配合相手によって秘められたダート適性にスイッチが入ったのは確かだろう。

 ローマンレジェンドはJpn1に格付けされる前のJBCレディスクラシックを連覇した名牝ミラクルレジェンドの半弟。姉はカネヒキリでもダート実績のあったフジキセキ産駒だが、弟はその父スペシャルウィークの母の父がマルゼンスキーという点が配合上の要点となる。マルゼンスキーの父は英三冠馬ニジンスキー。これはノーザンダンサーを生んだカナダの大生産者、E.P.テイラーの手になる名馬。母のパーソナルレジェンドUSAには、デピュティミニスターの父ヴァイスリージェント、祖母の父ストームバードと、やはりノーザンダンサー直仔でE.P.テイラーの生産馬の名が並ぶ。テイラーブランドのノーザンダンサー直仔が後にいかに多くの影響を残しているかは下表に並ぶ名前からも分かるが、特に今年、これらの組み合わせが血統表に潜むものの活躍が目につく。中山牝馬S-G3のマイネイサベルは父がノーザンテーストCANを持ち、祖母の父がマルゼンスキー。チューリップ賞のクロフネサプライズは父系がヴァイスリージェントで3代母の父がノーザンテーストCAN。宝塚記念-G1のゴールドシップは父にノーザンテーストCAN、母にザミンストレルが潜む。函館2歳Sのクリスマスは母がノーザンテーストCANとヴァイスリージェントを持ち、父バゴFRの牝祖がテイラーのレイズザスタンダードだった。ファンタジーS-G3勝ち馬ベルカントはノーザンテーストCANとヴァイスリージェントを経由したノーザンダンサー4×5だ。ここに並べた重賞勝ち馬はそれぞれに個性が違い過ぎるが、テイラーブランドのノーザンダンサーを組み合わせることによって、能力の底上げに成功している。今から20年なり30年なり経ってから「ノーザンファーム産のサンデーサイレンスUSA同士だから相性がいい」と考えるのに似ているが、60年代から80年代のE.P.テイラー全盛期は今の時代よりは類似の血脈に絞り込まれていたので、同系色の組み合わせという程度には統一感のある配合になる。4代母サンタキラは、競走馬としてBCマイル-G1連覇、繁殖牝馬としてキングマンボ以下多くの活躍馬を送ったミエスクの祖母。ミエスク以外の分枝としては、ブルックリンH-G1のシルヴァーシュプリーム、BCマイル-G1のシックスパーフェクションズや阪神3歳牝馬S2着のキュンティア以来の成功となる。


E.P.テイラーが生産した主なノーザンダンサー直仔
NORTHERN DANCER ノーザンダンサー (1961.5.27-1990.11.16、鹿、父Nearctic、
   母Natalma、母の父Native Dancer、エドワード・プランケット・テイラー生産)米最優秀3歳牡馬、
   加年度代表馬、加最優秀2歳馬、ケンタッキーダービー、プリークネスS、クイーンズプレート、
   英愛リーディングサイアー、米リーディングサイアー
 ヴァイスリーガルCAN Viceregal(1966、栗、母Victoria Regina、母の父Menetrier)
     9戦8勝、加年度代表馬
 Nijinsky ニジンスキー(1967、鹿、母Flaming Page、母の父Bull Page)デューハースト
     S、2000ギニー、ダービー、愛ダービー、キングジョージY世&クイーンエリザベスS、
     セントレジャー、英愛リーディングサイアー
 Vice Regent ヴァイスリージェント(1967、栗、母Victoria Regina、母の父Menetrier)
     5戦2勝、加リーディングサイアー
 ミンスキーCAN Minsky(1968、栗、母Flaming Page、母の父Bull Page)レイルウェイS、
     ベレスフォードS
 ノーザンテーストCAN Northern Taste(1971、栗、母Lady Victoria、母の父
     Victoria Park)フォレ賞G1、日リーディングサイアー
 The Minstrel ザミンストレル(1974、栗、母Flaur、母の父Victoria Park)デュー
     ハーストSG1、ダービーG1、愛ダービーG1、キングジョージY世&クイーンエリザベスSG1
 トライマイベストUSA Try My Best(1975、鹿、母Sex Appeal、母の父Buckpasser)
     デューハーストSG1
 Storm Bird ストームバード(1978、鹿、母South Ocean、母の父New Providence)デュ
     ーハーストSG1
 Shareef Dancer シャリーフダンサー(1980、鹿、母Sweet Alliance、母の父
     Sir Ivor)愛ダービーG1
 El Gran Senor エルグランセニョール(1981、鹿、母Sex Appeal、母の父
     Buckpasser)デューハーストSG1、2000ギニーG1、愛ダービーG1
 セクレトUSA Secreto(1981、鹿、母Betty's Secret、母の父Secretariat)ダービーG1

 キングカメハメハはここでも主力の一角を占めるはずだったハタノヴァンクールが引退したが、それでも強力5頭出し。今年産駒を送り込んでいないG1は桜花賞と天皇賞(春)、NHKマイルCだけ、Jpn1はジャパンダートダービーとJBCレディスクラシックだけだから、いかに広範囲で活躍しているかが分かる。そしてダートでは川崎記念、かしわ記念、帝王賞、JBCクラシックの4つに勝っている。そのうち3つの勝者ホッコータルマエは米国色が濃い。母の父はBCスプリント-G1勝ち馬で祖母の父はBCクラシック-G1勝ち馬。母マダムチェロキー自身はダート1700〜1800mで4勝を挙げた。ただ、米国血統でもワイルドリスク5×5の古風な面を備えていて、それが父の母系にある欧州血脈と呼応して奥の深さにつながっている。

 ベルシャザールは父の母の父ラストタイクーンIREがトライマイベストUAS直仔、祖母の父がセクレトUSAというテイラーブランドのノーザンダンサー5×4。母マルカキャンディは府中牝馬S勝ち馬、祖母ジーナロマンティカUSAは米G23着の活躍馬と活気のある牝系で、その起点となるのは牡馬相手のマンノウォーSを含め米G1に4勝した3代母のワヤ。その名牝にノーザンダンサー、サンデーサイレンスUSA、キングマンボと順に重ね、現代的なパワーとスピードを達成した。

 ソリタリーキングは2007年の勝ち馬ヴァーミリアンと父系祖父が共通する半弟。これもトライマイベストUSAとノーザンテーストCANを経由してテイラーのノーザンダンサー血脈を受けており、母の父サンデーサイレンスUSAもベルシャザールと共通。

 ヴァーミリアンといえば、その前年の勝ち馬アロンダイトもエルコンドルパサーUSAの産駒。キングカメハメハの成功を見るにつけ、今さらながらに早世が惜しまれるが、クリソライトの母の父として、そのよすがに触れることができる。母はアロンダイトの全姉だから、ゴールドアリュールとアロンダイトを足して2で割ったような最強ダート配合。大敗から簡単に立ち直る血統でもなさそうだが、大穴ならこれかもしれない。

 この名で行われる最後の年に来てくれたパンツオンファイアUSAはストームキャットの父ストームバードと母の父の祖母カマーがテイラー生産馬。米国の主流血脈を重ねた意匠的な父母相似配合で、日本的な泥臭さに欠けるのが弱み。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.12.1
©Keiba Book