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昨年の朝日杯フューチュリティSG1に勝ったローエングリン産駒のロゴタイプは、父祖サドラーズウェルズから数えると4代目にあたる。今から20年前にサドラーズウェルズ系が日本で朝日杯を勝つことがあると考えた人がどれほどいただろうか。サドラーズウェルズ生誕から30年以上を経過し、4代目の先祖の1頭となると単純に血統表の上では16分の1の影響力を持つだけになる。代を経て影響力が薄まり、風土に順応することで特性が変化し、気がつけばもともとのイメージからは随分と変わっている。それが歳月による洗練というものだろう。 サドラーズウェルズが欧州血統の代表とするなら、米国血統の典型ミスタープロスペクターはそれより11年早く生まれていて、直系子孫の日本での最初の重賞勝ちは輸入競走馬ケイエスミラクルUSAの91年スワンSだった。父はミスタープロスペクター直仔のB級種牡馬シュツゥッツブラックホーク。その後、90年代初めに輸入されたジェイドロバリーUSAは大成功、スキャンUSAは成功、リズムUSAは期待外れだった。いずれの直仔も良血で競走成績も優れていたにもかかわらず、大きく明暗を分けることになったのは当たり外れの大きいミスタープロスペクター系特有のギャンブル性の高さではあるが、その後、アフリートCANやフォーティナイナーUSAといった大物が輸入され、クラフティプロスペクター産駒のアグネスデジタルUSAがオールマイティの大活躍、キングマンボ系がスケールの大きな中長距離チャンピオンを出すようになると、もはや一口にミスタープロスペクター系とくくれないことになった。 ブラッドホース誌発行の2013年版スタリオンレジスターに掲載されたミスタープロスペクター系の種牡馬は日本で供用されるアイルハヴアナザーUSAとストリートセンスUSAを含めて151頭。最大勢力ファピアノ系は43頭(うちアンブライドルド系31頭)で、ゴーンウエスト系27頭、フォーティナイナーUSA系16頭と続く。このように、量的にも質の多彩さにおいても、米国において他を圧するのがミスタープロスペクター血脈で、それと相関があるのかないのか、このレースにもミスタープロスペクターの血が様々なルートで進出している(下表)。これまでこのレースで直系が勝ったのはアグネスデジタルUSAとアドマイヤドン、ヴァーミリアンの3例のみだから意外に少ないが、これは力とスピードの血統であるミスタープロスペクターが日本に浸透し、なじむまでに時間がかかったせいもあるだろう。 |
| 深く広く掘り進むミスタープロスペクター系 |
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Mr. Prospector ミスタープロスペクター 1970-1999、14戦7勝、カーターH G2-2着、ファイアクラッカーHG3-2着、ポーモノクHG3-3着、米チャンピオンサイアー (1987、1988年) Fappiano ファピアノ 1977-1990 メトロポリタンHG1 | Unbridled アンブライドルド 1987-2001 米最優秀3歳牡馬 | Grindstone グラインドストーン 1993 ケンタッキーダービーG1 | | (カレンブラックヒルの母の父) | エンパイアメーカーUSA Empire Maker 2000 ベルモントSG1 | (イジゲンUSAの父) Conquistador Cielo コンキスタドールシエロ 1979-2002 米年度代表馬 | (ガンジスの3代母の父) Crafty Prospector クラフティプロスペクター 1979-2010 ガルフストリームパークHG1-2着 | アグネスデジタルUSA 1997 香港カップG1 | (ヤマニンキングリーの父) アフリートCAN Afleet 1984 ジェロームHG1 | (ナムタライタンの母の父) フォーティナイナーUSA Forty Niner 1985 米最優秀2歳牡馬 | エンドスウィープUSA End Sweep 1991-2002 ジャージーショアBCSG3 | サウスヴィグラスUSA 1996 JBCスプリント | | (ナムラタイタンの父) | Trippi トリッピ 1997 ヴォスバーグSG1 | (エーシンウェズンUSAの父) Kingmambo キングマンボ 1990 ムーランドロンシャン賞G1 | キングカメハメハ 2001 東京優駿 | (タイセイレジェンドの父) Our Emblem アワエンブレム 1991 カーターHG1-2着 (エーシンウェズンUSAの母の父) |
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ナムラタイタンは父がJBCスプリント勝ち馬サウスヴィグラスUSAで、母の父がフィリーサイアーとして実績を残してそのぶんブルードメアサイアーとしても優秀なアフリートCAN。これらを通じてミスタープロスペクター4×3の近交となっている。3歳5月の遅いデビューから休み休みの6連勝の印象もすっかり薄くなったが、当時の勢いに乗ってG1まで一気に上り詰めなかったのはミスタープロスペクターらしくないといえなくもない。ただ、それが逆に息の長い活躍と経験の蓄積につながっている面もある。濃厚な米国血統でありながら、日本土着血統的な渋太さも見込めるのは、父が黒船賞からJBCまで地道にダートグレードを8つもコレクションしたためでもあるし、93年のオークス2着馬ゴールデンジャック以来、長く活躍馬を送り出してきた牝系による部分も大きい。名種牡馬ナイスダンサーCANの姪にあたる3代母コマーズCANは、持込として産んだ2番仔ゴールデンジャックが東西の4歳牝特に勝ったほか、スターリングローズがJBCスプリントなどダートグレード6勝、ゴールデンジャックの仔サイドワインダーも京都金杯など重賞3勝の実績を残した。ほかにも孫の代には関越Sのシルククルセイダー、現3歳のプリンセスジャックなど活躍馬が多い。サウスヴィグラスUSAとスターリングローズはひとつ違いで何度か直接対決もあるので、2002〜2003年のダートグレード短距離路線の因縁を少し含んだ配合ともいえる。ダート血統の再生産に期待する意味も含めての◎。 ○イジゲンUSAはミスタープロスペクター主流の中でもスター種牡馬として日本に渡ったエンパイアメーカーUSAの産駒。同期ボードマイスターはケンタッキーダービーG1とプリークネスSG1で2着となり、今季から種牡馬入りしている。ほかにもこの世代にはインランジェリーやグレースホールといったG1勝ち馬がおり、父のヴィンテージともいえる。4代母の孫にはウッドマン産駒の怪物と呼ばれたスピードワールドUSAがおり、尻すぼみに終わった怪物の汚名返上という10数年がかりの物語もある。 ▲カレンブラックヒルはサンデーサイレンスUSA系とアンブライドルド系という最先端の配合。祖母の父はストームキャット、3代母は欧州の名牝ミシズペニーだから、日米欧の配分もバランスが取れている。父もその妹でフェブラリーS挑戦を前に引退したダイワスカーレットも、ダートを走らせれば相当強かったのではないか(ヴァーミリアンと同族だし)という想像を、この馬が実証してくれるかも知れない。△ガンジスは出走馬中ただ一頭デピュティミニスターの血を持つ点が不気味。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.2.17
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