2012天皇賞(秋)


ジャングルは緑なりき

 エピファネイアはスペシャルウィークが母の父として送り出した最初の重賞勝ち馬であり、菊花賞勝ちによって最初のクラシック馬となった。サンデーサイレンスUSA後継種牡馬のブルードメアサイアーとしてのG1実績は、オセアニアに3頭のG1馬がいるフジキセキ、JCダート-G1に勝ったニホンピロアワーズのアドマイヤベガに続くもので、日本でのクラシック制覇は初めて。エピファネイアに続いてこの秋はセントライト記念-G2のユールシンギング、オールカマー-G2のヴェルデグリーンと娘の産駒が相次いで重賞勝ちを果たしている。このあとにはシーザリオ以上の競走成績を残したブエナビスタが控えているほか活躍牝馬が多く、スペシャルウィークが大きな足跡を残すのは直系よりむしろこちらの分野になるのかもしれない。
 ヴェルデグリーンの母レディーダービーの競走成績はシーザリオやブエナビスタとは比ぶべくもないもので、要するに12戦未勝利なのだが、3着3回、4着5回、5着3回と掲示板を外したのはハイペースで先行してバテて8着となった一度だけ。勝たない程度に追い込むか粘るかというもどかしい、ある面ではスペシャルウィーク産駒らしいレースを繰り返した。祖母ウメノファイバーは対照的に勝負強さを備えていて、ハナ差で制した1999年の優駿牝馬など、東京で3つの重賞勝ちを果たしている。サクラユタカオー×ノーザンディクテイターUSAの配合だけを見れば、1400mの京王杯3歳S、1600mのクイーンCは分かるとしても優駿牝馬まで勝つとはと当時は驚かされたものだ。3代母のウメノローザは大井2000mの高額重賞グランドチャンピオン2000の第2回勝ち馬。ちなみに1990年から10月末に行われるようになったこの重賞は、JBC創設とともに吸収合併の形で2000年を最後に姿を消した。4代母ウメノシルバーの仔にセントライト記念に勝ったサンデーサイレンスUSA産駒サンデーウェル、孫に京王杯スプリングCと東京新聞杯に勝ったやはりサンデーサイレンスUSA産駒のウインラディウスがいる。この牝系がいち早くサンデーサイレンスUSA血脈の取り込みに成功していた点には留意しておきたい。7代母トキツカゼは戦後間もない1947年に農林省賞典(後の皐月賞)に勝ち、東京優駿で2着となり、秋には優駿牝馬に勝った。小岩井農場のフラストレート系を代表する牝馬の一頭といえる。母の父スペシャルウィークはやはり小岩井農場の、こちらはフロリースカップ系に遡り、スペシャルウィークの4代母シラオキは1949年の東京優駿で2着となった。シラオキもトキツカゼもその父はプリメロGBで、前者は祖母の父が、後者は母の父がシアンモアGBという小岩井血統の塊ともいえる配合の相似形。単にフロリースカップGBとフラストレートGBの小岩井牝系が同士という以上の近しい間柄で、その出合いは100年に及ぶブランクのかなりの部分を埋めて、この配合を緻密なものにしている。その割に母が勝てなかったのは事実だが、そんな母に埋もれた良さを引き出したのが父のジャングルポケットで、先鋭的なトニービンIRE×サンデーサイレンスUSAが一代退いた形で実現され、ヌレエフとサクラユタカオーの組み合わせはかつての成功パターンであるサクラユタカオー×ノーザンテーストCANを思わせる。これが意外に瞬発力につながりそうだ。トニービン系の東京のG1での強さは下表に示した通り。これは一昨年、トーセンジョーダンが勝ったときのものを使い回した。サンデーサイレンスUSAの間隙を縫って、よくぞこれだけ積み上げられたものだと思う。


東京でのトニービンIRE系の活躍
トニービンIRE(牡、鹿毛、1983、父カンパラGB、母Severn Bridge、母の父Hornbeam)凱旋門
        賞G1、ジョッキークラブ大賞G1、ミラノ大賞G1×2など
  ウイニングチケット(牡、1990、母の父マルゼンスキー)東京優駿
  ベガ(牝、1990、母の父Northern Dancer)優駿牝馬
   | アドマイヤベガ(牡、1996、父サンデーサイレンスUSA)東京優駿
   | アドマイヤドン(牡、1999、父ティンバーカントリーUSA)フェブラリーS
  サクラチトセオー(牡、1990、母の父ノーザンテーストCAN)天皇賞(秋)
  ノースフライト(牝、1990、母の父ヒッティングアウェーUSA)安田記念
  ユメシバイ(牝、1990、母の父エルセンタウロARG)
   | ショウワモダン(牡、2004、父エアジハード)安田記念G1
  オフサイドトラップ(牡、1991、母の父ホスピタリティ)天皇賞(秋)
  エアグルーヴ(牝、1993、母の父ノーザンテーストCAN)優駿牝馬、天皇賞(秋)
  シネマスコープ(牝、1993、母の父スリルショーUSA)
   | トランセンド(牡、2006、父ワイルドラッシュUSA)フェブラリーSG1
  ミラクルアドマイヤ(牡、1995、母の父Sadler's Wells)
   | カンパニー(牡、2001、母の父ノーザンテーストCAN)天皇賞(秋)G1
  ジャングルポケット(牡、1998、母の父Nureyev)ジャパンCG1、東京優駿
   | トールポピー(牝、2005、母の父サンデーサイレンスUSA)優駿牝馬
   | トーセンジョーダン(牡、2006、母の父ノーザンテーストCAN)天皇賞(秋)G1
  レディパステル(牝、1998、母の父Blushing Groom)優駿牝馬
  テレグノシス(牡、1999、母の父ノーザンテーストCAN)NHKマイルC

 ジェンティルドンナの宝塚記念はゴールドシップ=ステイゴールドの土俵でよくがんばったもので、フェノーメノに先着を果たしたあたりはさすが。ディープインパクト産駒はこの春の古馬中長距離G1ではトーセンラーとダノンバラードが飛車角というか助さん格さんというか、それなりの活躍を見せて秋の主役登場に期待をつないだ。ここでクイーンが華麗な復活を果たすかどうかは今後のディープインパクト産駒の進路を見定める場合の重要な指標となる。東京に戻ればあっさりの可能性が高いが、母ドナブリーニGBが2歳重賞2勝のスプリンターだったことを考えると、3歳時の底知れぬ強さに加齢分の成長を上積みして期待するのは若干の危うさを感じないでもない。

 ディープインパクト初年度産駒ダノンバラードはラジオNIKKEI杯2歳S-G3に勝ってエリートコースに乗りながら、その後、長い足踏みと回り道を経て今年のアメリカJCC-G2で久々の重賞勝ち。G1路線に返り咲いた。自動車でも飛行機でも性能が高ければ高いほど整備は難しくなる。機械でさえそうなのだから、生き物ならなおさら。近年のディープインパクトやステイゴールドの産駒が、仕上げや調整に関してともするとサンデーサイレンスUSA以上の難しさがつきまとい繊細さが要求されるように見えるのは、ある面で父超えが起きているせいではないかと想像する。これまでは成功した血統でも代を経ることで鋭さが失われ、それにつれて活力が乏しくなっていったものだが、ディープインパクト初年度産駒の試行錯誤的成績が示した難しさは、サンデーサイレンスUSA以来の血統的転換をもたらす予兆であったのかもしれない。ここで5歳世代が大復活を果たすと、この秋は雪崩的に後に続くものが出てくるかもしれない。

 トウケイヘイローは祖母がノーザンテーストCAN×ファンシミンUSA。父はサンデーサイレンスUSA直仔の大井5勝馬。社台血統のパーツを集めてアンチ社台的血統を構成し、母の父に据えられた名種牡馬ミルジョージUSAが中村畜産の落款として映える。巨人に挑む楽天のようなイメージがありますね。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2013.10.27
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