2012安田記念


カメハメハ大王起つ

 昨年の欧州最大のスター・フランケルは今年も健在で、5月19日のロッキンジSG1で戦列復帰を果たすと2着のエクセレブレーションに楽々と5馬身の差をつけてデビューからの10連勝を達成した。それに先立つ香港ではイクステンションが5月6日のチャンピオンズマイルG1を鋭い決め手で差し切り同レース連覇。香港マイル部門のトップの地位を固めつつある。欧州にはいつもマイル部門に華やかなスターがいるし、香港もその分野の層はいつも厚い。それに対してウオッカが引退してしまった日本では、どれが強いのかやってみないと分からない状況が2年以上続いた。マイル部門のG1は古馬が春秋2つ、牝馬限定と3歳限定、3歳牝馬限定が春にそれぞれひとつある。入れ物の数は十分だが、中身が足りていない。その原因として国産のエリート層がサンデーサイレンスUSA系の中長距離馬に偏っていることが挙げられるが、かといって米国のトレーニングセールで買ってきても昔ほど圧倒的なスピードの差を示すものがいない。香港にならってオセアニアから導入しようとしても、3歳秋までに未勝利を脱出できないと追い立てられる今のシステムではリスクが大きい。あの香港の名馬サイレントウィットネスAUSでもデビューは3歳12月だから、日本では才能を埋もれさせたまま終わった可能性がある。近年で最も成功した豪州産馬キンシャサノキセキにしても、父がフジキセキで早い時期に2勝できたために、その後の大成までの時間的猶予ができたともいえる。マイル部門が低調だと、それに続く生産のステージにも必ず影響が及ぶもの。小手先でどうこうできるものでもないが、とりあえず4月にG2を勝った4歳馬ショウナンマイティが夏競馬の条件再編によって賞金不足で除外になってしまうのはダメでしょう。

 安田記念G1のレベル維持に長年にわたって貢献してくれているのが香港からの遠征馬。1994年のウィニングパートナーズNZ以来、延べ29頭が来日して、下表の通りの結果。人気と着順の関係だけ見てもひと筋縄ではいかないので、馬券的な狙い甲斐がある。今回の2頭はグロリアスデイズAUSが南半球の代表的ミスタープロスペクター系で、ラッキーナインIREは欧州の代表的ミスタープロスペクター系。それを日本的ミスタープロスペクター系キングカメハメハが迎え撃つのか、あるいはサンデーサイレンスUSA系がそれらを圧倒するのか、いやいやロベルトその他も黙っていませんよという構図。オークスG1も日本ダービーG1も数の多いディープインパクト産駒が制した点を踏まえると、今回最多の4頭出しキングカメハメハ産駒を狙うのが自然な流れ。波の大きなミスタープロスペクター系、人気薄で一発のあるキングマンボ系といった傾向を考えると、思い切ってコスモセンサーを抜擢する手もある。母の父リヴリアUSAはリヴァーマン×名牝ダリアの配合。ダービー馬ディープブリランテの母の父はリヴァーマン直仔、オークスで3着に食い込んだアイスフォーリスはダリアの曾孫だった。キングカメハメハはその母の父ラストタイクーンがミルリーフの血を持っており、リヴァーマンと血統表中に並ぶことで、ネヴァーベンドのスピードが強化され、これが高速馬場への対応力につながるのではないか。


香港からの刺客とかお客さんとか
年度馬名性齢着順人気調教師
1994ウィニングパートナーズNZセン6Take Your Partner14N.ベッグ
1998オリエンタルエクスプレスIREセン5Green DesertI.アラン
1999オリエンタルエクスプレスIREセン6Green Desert12I.アラン
ホーリーグレイルNZセン5Deputy Governor1412I.アラン
2000フェアリーキングプローンAUSセン5デインヒルUSA10I.アラン
2001フェアリーキングプローンAUSセン6デインヒルUSAI.アラン
2002ジューンキングプローンAUS牡5デインヒルUSA1011I.アラン
レッドペッパーGBセン5Cadeaux Genereux1213B.カン
2004セルフフリットNZセン6Cicerao1011I.アラン
2005サイレントウィットネスAUSセン6El MoxieA.クルーズ
ブリッシュラックUSAセン6ロイヤルアカデミーUUSAA.クルーズ
ボウマンズクロッシングIREセン6ドルフィンストリートFR1315D.オートン
2006ブリッシュラックUSAセン7ロイヤルアカデミーUUSAA.クルーズ
ジョイフルウィナーAUSセン6El MoxieJ.ムーア
ザデュークAUSセン7デインヒルUSA1515C.ファウンズ
2007グッドババUSAセン5Lear FanA.シュッツ
ジョイフルウィナーAUSセン7El MoxieJ.ムーア
エイブルワンNZセン5Cape Cross1210J.ムーア
ザデュークAUSセン8デインヒルUSA15C.ファウンズ
2008アルマダNZセン7TowkayJ.サイズ
ブリッシュラックUSAセン9ロイヤルアカデミーUUSA1413A.クルーズ
グッドババUSAセン6Lear Fan17A.シュッツ
2009サイトウィナーNZセン6FaltaatJ.サイズ
アルマダNZセン8Towkay13J.サイズ
2010サイトウィナーNZセン7Faltaat15J.サイズ
フェローシップNZセン8O'ReillyP.オサリバン
ビューティーフラッシュNZセン5ゴーランIRE11A.クルーズ
2011ビューティーフラッシュNZセン6ゴーランIREA.クルーズ
サムザップNZセン6シンコウキングIRE1113C.ファウンズ

 ラッキーナインIREの昨秋の日本遠征は今回への布石であったと思うが、セントウルSG2でもスプリンターズSG1でもそれなりに走って、地元に帰ると香港スプリントG1の金看板も得てしまった。その後、1600mは前走まで使わず、しかも負けてしまったが、日本の高速決着に対応できるのは恐らくこちら。父ドバウィは偉大なドバイミレニアムの血脈を繋ぐことに成功した若き名種牡馬で、英2000ギニー馬マクフィや独ダービー馬ヴァルトパルクをはじめ、多彩な産駒を送り出している。母の父は直仔オリエンタルエクスプレスIREで2着の実績があり、ミスタープロスペクター×ダンチヒの組み合わせは安田記念遠征に最も適した装備といえる。

 グロリアスデイズAUSは急上昇ぶりが魅力。父ユソネットはチリで大成功し、オーストラリアでもそこそこ成功し、母国米国に戻るとそれほどでもなかった。特に南半球に適した何かを持っていたのかも知れない。母サンセンチュリーは伝統的正調オーストラリア血統というべき構成で、それだけにオセアニアにとっては新しい血だったミスタープロスペクター系との配合が効果を上げた。

 東京芝1600mのレコードホルダーはフジキセキ産駒ダノンシャンティ。サダムパテックは祖母の父がミスタープロスペクターだから、コイウタ、カネヒキリらの東京1600mで大レース勝ちのあるフジキセキ産駒と同じ。エイジアンウインズも祖母の父は同系のフォーティナイナーUSAだ。フジキセキの祖母の父インリアリティとミスタープロスペクター血脈の組み合わせは米国の三冠レースで多くの成果を上げているので、それに似た効果があるのだろう。

 シルポートは自分の型に持ち込むと強いホワイトマズル産駒。母系に並ぶ種牡馬も一流ばかりなので、この相手でも一発がある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.6.2
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