2012ヴィクトリアマイル


吼える白鯨

 英国のクラシックは牡馬の2000ギニーG1、牝馬の1000ギニーG1というマイル戦からスタートする。今年は5月5日の2000ギニーG1にダービーG1の大本命とされるキャメロットが登場。クビ差とはいえ危な気なくフレンチフィフティーンを捉えた。翌日の1000ギニーG1は好スタートを切ったホームカミングクイーンが速いペースで逃げ、追いかけた後続が先にバテて結果は9馬身差の圧勝となった。2000ギニーの時計が1.42.46に対して1000ギニーは1.40.45。1日違って通ったコースも違うので単純に比較はできないし、2007年から2009年までは3年連続1000ギニーG1の方が速かったように、このような例は特に珍しくないが、民間レーティングの老舗タイムフォームがつけたレーティングはキャメロットが123、ホームカミングクイーンは後続に9馬身差をつけたことが効いて124と、牡牝の逆転現象が起きた。昨年のフランケルは怪物と呼ばれただけあって2000ギニーG1で142をもらっているので、今年の2000ギニーG1が低調だったわけだが、欧州では3歳時だけでなく、古馬になっても牝馬が牡馬と同じかそれ以上のパフォーマンスを示す場合が多い。ゴルディコヴァが長く女王の座にとどまったように、1600mのカテゴリでは特にその傾向が強い。日本でもウオッカやブエナビスタという特別な名牝がいればもちろん、いない場合でも、牝馬はたまに安田記念G1やマイルチャンピオンシップG1を勝つことがあり、短い距離では牝馬の活躍のチャンスが増えるのは確かなようだ。しかし、今回の人気の中心となるであろう2頭の桜花賞馬、アパパネは安田記念G1で6着、マルセリーナはマイルチャンピオンシップG1でやはり6着と、それほど強力とはいえない1600m部門の牡馬にはね返されている。こういう状況だと、ただでさえ流動的な牝馬の力関係はより接近したものになる可能性が高い。要するに荒れるんじゃないのということですね。

 ホエールキャプチャはG1ではつねに瞬発力で何かに劣り、(2)(2)(3)(3)(4)着。ただ、このレースはウオッカやブエナビスタといった別格の存在を除くと、サンデーサイレンスUSA×ノーザンダンサーの組み合わせでもノーザンダンサー寄りにシフトした、平均的なスピードとパワーを持ち味としたものが好成績を収めている。出走馬のほとんどがサンデーサイレンスUSA×ノーザンダンサーといえばそうなのだが、その中の味付けの違いでチョイスすると、NHKマイルCを完勝したクロフネUSAの仔が最適と思える。実際、クロフネUSA×サンデーサイレンスUSAのブラボーデイジーは2009年には11番人気で2着に粘っている。ホエールキャプチャの場合は牝系の後押しも大きい。母グローバルピースは芝2000mで1勝のみ、祖母エミネントガールGBは未勝利だが、3代母はエリザベス女王杯でマックスビューティの三冠を阻止したタレンティドガール。その半兄ニッポーテイオーは天皇賞(秋)、マイルチャンピオンシップ、安田記念に勝った名馬。6代母ワールドハヤブサの娘にエリザベス女王杯のビクトリアクラウンがいて、7代母オーハヤブサは1962年のオークス馬。小岩井農場が1907(明治40)年にイギリスから輸入したビューチフルドリーマーGBに遡る名門だ。ビューチフルドリーマーGB系はテイエムオーシャンの2001年桜花賞と秋華賞以来大レースから遠ざかっているが、その間も同期輸入の小岩井牝系フロリースカップGBの末裔としてメイショウサムソン、ウオッカが大活躍している。古い牝系に新しい血を注入することで、スケールの大きな成功につながった例としては別の牝系でも同様に考えることはできるだろう。皐月賞のゴールドシップは下総御料牧場がアメリカから輸入した星旗USAに遡るが、これも古い牝系と新しい血の融合による成功例。

 ゴールドシップの出現、オルフェーヴルの迷走と、その父ステイゴールドにとっては大揺れの上半期となっている。チャームポットはステイゴールド、サッカーボーイと同じロイヤルサッシュに遡る牝系。配合の順序は違うが、ディクタスFRとノーザンテーストCANが重ねられた母ホットプレイはステイゴールドの母ゴールデンサッシュやサッカーボーイと構成要素は共通する。仕上げがコイウタとエイジアンウインズという2頭の勝ち馬を送ったフジキセキだから、下表に並んで最も違和感がないのはこの馬ともいえる。全兄タマモホットプレイは6歳で淀短距離S、同じくタマモナイスプレイも6歳で安土城Sでオープン勝ちを収めており、ノーザンテーストCANが入っているだけに活躍期間が長いのもこの一族の特徴といえる。

 キョウワジャンヌはこれから良さが出てきそうなハーツクライ産駒。父サンデーサイレンスUSAの半兄キョウワロアリングは北九州記念に勝ち、父キングヘイローの半姉ヘイローフジは尾張Sに勝ち、いずれも1200mに実績を残した。父が替わったことでそれなりに適性に変化が出ているわけだが、サンデーサイレンスUSA〜ヘイローやリファールといった父馬の構成はそれほど違わないので、2000mよりも1600mが良い可能性はある。4代母ホームスパン、5代母ギャルアイラヴと遡る牝系に大種牡馬ばかりを配合した母アサカフジはバックパサー3×3の近交となる良血の塊。父の3代母マイビューパーズはバックパサーに似た配合であり、これらの血がサンデーサイレンスUSAの底力を引き出す効果は大きそうだ。

 スプリングサンダーは父クロフネUSAの産駒としてはカレンチャンと同じ世代で、サンデーサイレンスUSAが入らないという点も同じ。半兄スズカマンボは13番人気で天皇賞(春)に勝ったが、穴血統というよりは堂々たる名血で、第1回の勝ち馬ダンスインザムードと同じキーパートナー系。キングマンボ血脈の東京での強さは気に留めておきたい。


ヴィクトリアマイル1〜3着馬の血統
馬名人気母の父祖母の父
1回
2006
稍重
ダンスインザムードサンデーサイレンスUSANijinskyKey to the Mint
エアメサイアサンデーサイレンスUSAノーザンテーストCANWell Decorated
ディアデラノビアサンデーサイレンスUSAPotrillazoBanner Sport
2回
2007
コイウタ12フジキセキドクターデヴィアスIREMr. Prospector
アサヒライジングロイヤルタッチミナガワマンナボンモーFR
デアリングハートサンデーサイレンスUSADanzigBriartic
3回
2008
エイジアンウインズフジキセキデインヒルUSAフォーティナイナーUSA
ウオッカタニノギムレットルションUSAトウショウボーイ
ブルーメンブラットアドマイヤベガトップサイダーUSASir Gaylord
4回
2009
ウオッカタニノギムレットルションUSAトウショウボーイ
ブラボーデイジー11クロフネUSAサンデーサイレンスUSAWoodman
ショウナンラノビアフレンチデピュティUSAヘクタープロテクターUSAウォローIRE
5回
2010
ブエナビスタスペシャルウィークCaerleonLord Gayle
ヒカルアマランサスアグネスタキオンA.P. IndyCaerleon
ニシノブルームーン11タニノギムレットAlzaoTumble Wind
6回
2011
アパパネキングカメハメハSalt LakeSpectacular Bid
ブエナビスタスペシャルウィークCaerleonLord Gayle
レディアルバローザキングカメハメハTejano RunLord Gaylord
太字はサンデーサイレンスUSA系、反転はノーザンダンサー系

競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.5.13
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