2012スプリンターズS


大艦巨砲の隙を突け!

 スプリント部門は距離体系の端っこに位置するせいか、ニホンピロウイナーやサクラバクシンオーが安定政権を築いている時代があったかと思うと、サンデーサイレンスUSA産駒の大量流入に遭って在来型短距離プロパーが押し流されてしまったり、あるいは外国からのピンポイントの侵攻にもろくも屈することがある。この夏の英国、ロイヤルアスコットのスプリントG1でもキングズスタンドSG1は香港のリトルブリッジNZが、ダイヤモンドジュビリーSG1はオーストラリアのブラックキャヴィアがそれぞれ地元のスプリンターを圧倒した。それぞれの距離領域や地区レベルの差ももちろんあるにせよ、互いに手の内の分かったメンバーで僅差の勝負を繰り返しているところに、出自も流儀もまったく異質なアウトサイダーがひとつ入ることで、既成勢力は対応する暇も与えられずに決着がついてしまう。このレースに例をとれば、圧倒的な力で反撃の隙を与えなかったサイレントウィットネスAUSやテイクオーバーターゲットAUS、あるいは古馬スプリント2戦目だった3歳牝馬のアストンマーチャン、グリーンバーディーNZの陰で人気がなかった香港のウルトラファンタジーAUSなどがアウトサイダー的勝利といえる。


スプリンターズS 外国馬の成績
年度馬名性齢所属着順人気父系祖父
1994ソビエトプロブレムUSA牝4USA72Moscow BalletNijinsky
オナーザヒーローUSAセン6USA86Hero's HonorNorthern Dancer
ザイーテンUSA牡4GB94DanzigNorthern Dancer
1995ソーファクチュアルUSA牡5UAE33Known FactIn Reality
ワイルドゾーンUSA牡5USA109Wild AgainIcecapade
1997レシーバーUSA牡4USA812Phone TrickClever Trick
メンズイクスクルーシブUSAセン4USA126Exclusive RibotRibot
キステナFR牝4FR45MiswakiMr. Prospector
1998ボルショイIREセン6GBロイヤルアカデミーIIUSANijinsky
2000ベストオブザベストUSAセン5HK155RahyBlushing Groom
2004ケープオブグッドホープGBセン6HK38InchinorAhonoora
アシュダウンエクスプレスIREセン5GB139AshkalaniソヴィエトスターUSA
フェアジャグIREセン5GB1611FayruzSong
2005サイレントウィットネスAUSセン6HK11El MoxieConquistador Cielo
ケープオブグッドホープGBセン7HK115InchinorAhonoora
2006テイクオーバーターゲットAUSセン7AUS11Celtic SwingダミスターUSA
サイレントウィットネスAUSセン7HK43El MoxieConquistador Cielo
ベンバウンIREセン5GB511ストラヴィンスキーUSANureyev
レザークUSAセン6GB74ArchKris S.
2009シーニックブラストAUSセン5AUS163ScenicSadler's Wells
2010ウルトラファンタジーAUSセン8HK110Encosta de LagoFairy King
グリーンバーディーNZセン7HK71CatbirdデインヒルUSA
2011ロケットマンAUSセン6SIN41ViscountクエストフォーフェイムGB
ラッキーナインIREセン4HK54DubawiDubai Millennium
グリーンバーディーNZセン8HK88CatbirdデインヒルUSA
勝率 .125 3着内率 .208

 春のクラシック惨敗から立ち直った3歳牝馬エピセアロームは直線だけで3着まで追い上げた北九州記念G3、上手に立ち回って強豪をわずかに差したセントウルSG2と、短距離では底を見せていないことになるのだが、派手なような控えめなような内容と、この路線での経験不足、実績不足によって軽く扱われている。でも、それがいいんですよ、擦れてなくて。父ダイワメジャーはこの世代が初年度産駒。この馬が小倉2歳SG3でいち早く重賞勝ちを果たしただけでなく、春にはカレンブラックヒルが無敗の4連勝でNHKマイルCG1を制した。現役時のダイワメジャーは先行力があって、1600mと2000mでタイトルを持ち、長距離でも我慢が効いた(有馬記念3着2回)。これは教科書通りの種牡馬の資質といえ、初年度から順調にそれを証明した。また、サンデーサイレンスUSA×ノーザンテーストCANの配合はデュランダルやアドマイヤマックスと同じで、それ以上に祖母の父としてクリムゾンサタンが入っている点はスプリント対応のキーといえるだろう。一方の母はコジーン×ファビラスダンサー。オーソドックスなグレイソヴリンとノーザンダンサーの組み合わせで、特にコジーンが持つ瞬発力はスプリンターでもステイヤーでも個体の個性に応じて生かされる汎用性がある。3代母ローラローラFRの産駒に天皇賞馬サクラローレル、4代母の孫にダート王タイムパラドックスと、周期的にポツリポツリと名馬が現れるボールドレディ系。そろそろ大物が出ていい。

 1990年代に凡走の山を築いた米国勢と入れ替わるように、2000年代に入ると香港を中心とする南半球暦の地域から強豪の来日が増え、結果を残すようになった。外国馬全体では(3.0.2.19)が香港・オーストラリア・シンガポールに限ると(3.0.2.8)と勝率は.125から.230に、3着内率は.208から.385にと馬券圏内突入率は倍近く高くなる。目下の勢いに加えて異質の競馬への順応性の高さを証明ずみなのがリトルブリッジNZ。かつてのサイレントウィットネスAUSのような圧倒的な強さがあるわけではないが、自身の上がり2Fの最速は3走前のボーヒニアスプリントT(芝1000m)でマークした21秒67と日本の瞬発力勝負にも対応できる裏付けがあるし、キングズスタンドSG1では早目先頭から最後まで我慢する渋太さも示した。父はミスタープロスペクター直仔のB級スプリンターだが、種牡馬となって香港チャンピオンマイルに勝ち、安田記念でも(6)(5)着となったサイトウィナーNZのほか、ニュージーランドを中心に多くの活躍馬を送っている。祖母の父が早い時期に南半球に渡ったミスタープロスペクター直仔ストレートストライクなのでミスタープロスペクター2×4の近交となり、そこに欧州の短距離血統ハビタット直系の母の父が挟まる形になっている。このように米国血統、欧州血統、そして長く南半球で過ごした血統のミックスが大きな力につながるのがシャトル成功の要因でもあり、この馬の世界転戦が成功している理由でもある。

 過去のこの欄を振り返ると、2010年のスプリンターズS以来、ダッシャーゴーゴーには4回で◎◎◎○の印がついていた。振り返るんじゃなかった。申し訳ない。今回は遠慮してにしておきます。昨年4月に没した父は1993、1994年とこのレースを連覇。1996年に高松宮杯が1200mになって春秋にスプリントの大レースができて以降、同一レースの連覇はない。このレース連覇をかけたフラワーパークが(1)→(2)、タイキシャトルでも(1)→(2)、ビリーヴも(1)→(2)、デュランダルも(1)→(2)→(2)、サイレントウィットネスでさえ(1)→(4)だったのだから、サクラバクシンオーの偉大さが偲ばれる。そういうわけもあってカレンチャンの連覇を同厩のサクラバクシンオー産駒が食い止めるというドラマというかアンチクライマックスはあり得ると思うのだ。母はミスワキ×キートゥザミントといういずれも大レース向きの名ブルードメアサイアー。何とかひとつタイトルを得てサクラバクシンオーの後継者になってほしいもの。

 カレンチャンはダッシャーゴーゴーの苦闘を横目に大変効率的に2つのG1を手に入れた。昨年暮れの香港スプリントも4着の内目を回った1番人気リトルブリッジNZからはわずかアタマ程度の5着。敵地で天晴れというべき。1度ピークに上り詰めると下降線を辿るものも多いクロフネUSA産駒にあって、繰り返しトップに返り咲く渋太さはホーンビームやロックフェラを経たハイペリオンをはじめとする古風な欧州血脈や米国血脈を備えた母の血による部分も大きいのかも知れない。

 大穴でドリームバレンチノ。出走馬の血統欄でサクラバクシンオー以外にスプリンターズSのタイトルを持つのはこの馬の母の父マイネルラヴUSAのみ。母自身も1200mの重賞勝ち馬。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.9.30
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