2012秋華賞


セントレジャーを遠景に三冠を見る

 「水野さん、知ってます?」と調教スタンドで出くわした中川秀一翁(週刊競馬ブック菊花賞号に寄稿してもらいました)がいうことには「あのね、三冠馬てこれまで牡馬が7頭、牝馬で3頭いてまっしゃろ。でも、そこで全部2着やった馬はいてないんですわ」ほほう、そうですか。ええこと聞いたと鵜呑みにするとえらい目に遭うので、調べてみたら本当でした。2着馬が2回同じケースは多いが、全部同じ例はない。考えてみれば三冠でも難しいのに2着まで同じ決着が更に難しいのは当たり前。今考えてもレース史上最も堅く収まるべきブエナビスタとレッドディザイアの2009年でさえ、ちょっとした波乱になった。


三冠達成時の2着馬
年度三冠馬皐月賞東京優駿菊花賞
1941セントライトミナミモアステーツミナミモア
1964シンザンアスカウメノチカラウメノチカラ
1983ミスターシービーメジロモンスニーメジロモンスニービンゴカンタ
1984シンボリルドルフビゼンニシキスズマッハゴールドウェイ
1994ナリタブライアンサクラスーパーオーエアダブリンヤシマソブリン
2005ディープインパクトシックスセンスインティライミアドマイヤジャパン
2011オルフェーヴルサダムパテックウインバリアシオンウインバリアシオン
 三冠牝馬桜花賞優駿牝馬女王杯/秋華賞
1986メジロラモーヌマヤノジョウオユウミロクスーパーショット
2003スティルインラブシーイズトウショウアドマイヤグルーヴアドマイヤグルーヴ
2010アパパネオウケンサクラサンテミリオン同着アニメイトバイオ

 今年の欧米の三冠というと、ベルモントSG1直前に2冠馬アイルハヴアナザーUSAがリタイアした米国と対照的に、英国ではキャメロットによるニジンスキー以来42年ぶりの三冠達成が確実とされていた。そして、迎えたセントレジャーG1では単勝1.4倍の圧倒的人気に支持されたキャメロットが2着に敗れてしまう。勝ったのはエンケ。キャメロットの敗因は仕掛け遅れとされるが、追っても追っても差が詰まらなかったのだから、あの場面では、秋を迎え、距離が延びて素質が開花したエンケの力が上だったのだろう。三冠バスターとなったエンケの牝系を遡ると名種牡馬ブラッシンググルームの祖母エメに至る。この牝系から出ているのがラスヴェンチュラス。エンケやシャレータIREとは隔たりがあるが、近いところにアグネスデジタルUSAの名があるので、大物食いの血は脈々と流れていると見ていい。リファールのインブリードとなっている点では同じ父のジェンティルドンナに似ていて、こちらは母の父が日本のG1での穴メーカーとなっているデインヒルUSA。サンデーサイレンスUSA系との組み合わせからはエイジアンウインズやフェノーメノが出ている。そして母ジョセットIREがヒズマジェスティとアレジッドと、リボー系の大物の血脈を2本持っている点も大駆けを匂わせる。


活気に満ちた大物食いの系譜〜Aimee系(抜粋)
Aimee(GB)エメ(鹿毛、牝、1957年生、父Tudor Minstrel)
 Runaway Bride(GB)ラナウェイブライド(鹿、牝、1962、Wild Risk)
  | BLUSHING GROOM(FR)ブラッシンググルーム(栗、牡、1974、Red God)プールデ
  |  |   ッセデプーランG1、グランクリテリウムG1、サラマンドル賞G1、モルニ賞G1、ロベールパパン賞
  |  |   G1
  | Allicance(USA)アリキャンス(鹿、牝、1980、Alleged)
  |   Loure(USA)ルーレ(鹿、牝、1988、Lyphard)
  |    | ジョセットIRE(鹿、牝、2001、デインヒルUSA)
  |    |   ディープサウンド(鹿、牡、2008、ディープインパクト)3着:共同通信杯G3
  |    |   ラスヴェンチュラス(鹿、牝、2009、ディープインパクト)3着:ローズSG2
  |   Chancey Squaw(USA)チャンシースコー(鹿、牝、1991、Chief's Crown)
  |     アグネスデジタルUSA(栗、牡、1997、Crafty Prospector)香港カップG1、天皇賞(秋)、
  |         安田記念、マイルチャンピオンシップ、フェブラリーS、南部杯
 FLAMING HEART(GB)フレーミングハート(鹿、牝、1963、Sheshoon)ミネルヴ賞
   Safiah(FR)サフィアー(鹿、牝、1969、St. Paddy)
     Shanizadeh(IRE)シャニザデー(鹿、牝、1974、ボールドリックUSA)
       SHARAYA(USA)シャラヤ(鹿、牝、1980、Youth)ヴェルメーユ賞G1
       Shamsana(USA)シャムサナ(鹿、牝、1984、Nijinsky)
         Shamawna(IRE)シャマウナ(鹿、牝、1989、Darshaan)3着:ロワイヨモン賞G3
           Shawara(IRE)シャワラ(鹿、牝、1998、Barathea)
            | シャレータIRE SHARETA(IRE)(鹿、牝、2008、Sinndar)ヴェルメーユ賞
            |     G1、ヨークシャーオークスG1、2着:凱旋門賞G1
           SHAWANDA(IRE)シャワンダ(牝、鹿、2002、Sinndar)ヴェルメーユ賞G1、愛
              | オークスG1
             ENCKE(USA)エンケ(牡、鹿、2009、Kingmambo)英セントレジャーG1

 ジェンティルドンナは母ドナブリーニGBがチーヴァリーパークSG1、チェリーヒントンSG2と6Fの英2歳重賞に勝っているスプリンター。母の父もスプリンターで、牝系も母以外に目立つ存在がないが、そのぶん、3本のノーザンダンサー血脈の力強さが引き立つのかも知れない。アパパネも母はスプリンターだったので、このような配合様式が小回り向きの機動力につながる可能性もある。

 サイアーランキング首位を走るディープインパクトが4頭出しの今回、2010、2011年のリーディングサイアーで現在も僅差で追走しているキングカメハメハが意地を見せるとすると、魅力があるのはハワイアンウインド。母がディープインパクトの半姉で、その父はデインヒルUSA。キングカメハメハも5代母はエメなので、◎とは縁の浅からぬ間柄。

 レッドディザイアのように三冠最終戦で逆転する例はまれで、優駿牝馬G1での差を考えるとヴィルシーナには厳しい戦いが予想されるが、4代母グローリアスソングに遡る牝系の質と、そこに配合されてきた種牡馬の並びは豪華。ヘイロー3×4×5、ノーザンダンサー5×4にミスタープロスペクターが入る配合も美しい。サンデーサイレンスUSA系の父と母の父マキアヴェリアンという組み合わせはヴィクトワールピサを思い出させるものでもある。

 シンガポールで活躍中の高岡秀行調教師が10月7日にまた快挙をやってのけた。管理馬ベターライフでローカルG1のクランジマイルを制したのだが、負かした相手がそこまで12連勝中のスーパーイージーだから大変だ。ベターライフは父スマーティジョーンズ、母の父サンデーサイレンスUSAのオーストラリア産馬で、そのイトコに当たるのがミッドサマーフェア。祖母はブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズG1に勝った1996年の米最優秀2歳牝馬。ロベルト系の父とミスタープロスペクター系の母の父は共通の血脈ナシュアの存在によってニックスとなり、しかもそれぞれが日本で最良の血脈。父タニノギムレットにとってもウオッカに続く大物の出現が待たれるところ。

 アイスフォーリスは3代母が“キングジョージ”連覇の名牝ダリア。凱旋門賞制覇のチャンスを2度逃した父ステイゴールドの血が、ここに悔しさをぶつけてくるかも知れない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.10.14
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