2012NHKマイルC


輝石が照らす道を行け

 あっと驚く結果となった天皇賞(春)。勝ったビートブラックの父ミスキャストは新馬勝ち直後に弥生賞で3着となり、プリンシパルSにも勝ったが、結局、重賞での最高着順は6歳秋の福島記念での2着に終わった。しかし、サンデーサイレンスUSA×ノースフライトという名血は種牡馬となって花開いた。サンデーサイレンスUSA産駒のG1級未勝利馬で種牡馬としてG1勝ち馬を出したのはディヴァインライト(産駒ナタゴラがチヴァリーパークSG1、英1000ギニーG1に勝つ)、エニーギヴンサンデー(産駒リヴァサンがクイーンズランドオークスG1、クイーンズランドダービーG1に勝つ)に続いて3頭目。日本では初めてとなる。そういったことはエイシンサンディやニューイングランドがいつかはやるかも知れないと思っていたが、それらを飛び越えて偉業を達成したあたりはさすがノースフライト産駒。そして、サンデーサイレンスUSA帝国がまた新たな方面に勢力を拡大中であることも明らかになった。昨年の日本ダービーは全馬サンデーサイレンスUSAの孫という事態となったが、この流れは当分持続するだろう。

 今回は全部が全部というわけではないが、新鋭ダイワメジャーが最多の3頭出しとなったのに加え、新旧長短さまざまなサンデーサイレンスUSA系が顔を揃えた。1600mということでは2世代の産駒から桜花賞馬2頭、安田記念G1と阪神ジュベナイルフィリーズG1の勝ち馬を各1頭出しているディープインパクトが早くも将来的にどこまで記録を伸ばすかという位置にいるわけだが、東京1600mに限るとコイウタとエイジアンウインズがヴィクトリアマイルに勝ち、一昨年はダノンシャンティがこのレースをレコードで制したフジキセキに注目してみたい。サンデーサイレンスUSAの初年度産駒で3歳途中から種牡馬となったフジキセキは、ライフタイムのほとんどが父と重なった。産駒の傾向として父より短い距離適性があったし、種付け料の面でも差があったので、それなりに棲み分けはあったとしても、父の最後の世代が最後のクラシックを戦った2006年を過ぎてから、重石が取れたかのようにG1勝ち馬量産態勢に入ったのは偶然ではないだろう。そして、下表に示した通り、2桁人気でズバズバ馬券圏内に突入してきている。こういった立ち直りの早さ、変わり身のきつさは1600mの適性にプラスしてのフジキセキ産駒の特徴のひとつといえるだろう。ブライトラインは母シェリーズスマイルUSAサンデーサイレンスがフェアリーS、クリスタルCに勝ったサーガノヴェルUSAの半妹。母の父キングオブキングスIREはサドラーズウェルズ×ハビタットのニックス配合によって生まれた英2000ギニー馬で、2003年だけオーストラリアとのシャトル種牡馬として日本で供用された。日本では血統登録された35頭のうちJRAでの勝ち馬は2頭という失敗に終わったが、豪新では1600mを中心に3頭のG1勝ち馬を送ってそれなりの結果を残した。スティールハートIREの近親にあたる牝系なので扱い次第では日本向きの要素を引き出せるだろうし、それ以上にサドラーズウェルズ系だけに母系に入って良さを示す可能性が高い。祖母の全兄ターコマンはマールボロCG1など米G1に2勝し、BCクラシックG1でも2着となった名馬で、3代母から7代母まではアルゼンチンで過ごした牝系。オーストラリアの種牡馬が欧州で成功し、ドイツ牝系が日本で成功するようなボーダーレスな血統地図が広がる今、未開発の血を求めるとすれば90年代までの南米血統くらいのもの。そういった意味では来るべき(?)ブームの先取りともいえるだろう。


芝1600mのG1級レースにおけるフジキセキ産駒の活躍
 年月日場所レース名馬名性齢着順人気オッズ
2010/05/09東京NHKマイルCGTダノンシャンティ牡32.6
2008/11/23京都マイルチャンピオンシップGTファイングレイン牡51026.5
2008/05/18東京ヴィクトリアマイルエイジアンウインズ牝413.4
2008/04/13阪神桜花賞エフティマイア牝31594.3
2007/05/13東京ヴィクトリアマイルコイウタ牝41260.3
2006/05/07東京NHKマイルCファイングレイン牡325.9
2006/05/07東京NHKマイルCキンシャサノキセキ牡314.8
2006/04/09阪神桜花賞コイウタ牝311.6
2003/12/07阪神阪神ジュベナイルFコンコルディア牝21251.9
2002/04/07阪神桜花賞ブルーリッジリバー牝312.7
2001/12/02阪神阪神ジュベナイルFオースミコスモ牝24.6
2000/11/19京都マイルチャンピオンシップダイタクリーヴァ牡34.8

 皐月賞でゴールドシップに粉砕されて態勢立て直しを余儀なくされてしまったディープインパクト軍団は、それでも桜花賞を制して1600m戦線では一歩も引かない構えを見せている。マウントシャスタは母の父がフレンチデピュティUSA。このレースに限っても直仔から勝ち馬クロフネUSAとピンクカメオ、2着馬グラスエイコウオーUSAを出している。万能血統ながら1600m、左回りの適性は特に高い。祖母クロカミIREは4歳秋に京王杯オータムH、府中牝馬S(当時1800m)を連勝した活躍馬で、ダービー馬フサイチコンコルドと同じ93年生まれのカーリアン産駒。初めての東京1600mがぴったりの可能性がある。6代母マルガレーゼンの孫には、英ダービーG1、愛ダービーG1、キングジョージVI世&クイーンエリザベスSG1をいずれも圧勝した名馬ジェネラスIRE、英チャンピオンSG1勝ちなど欧州のG1戦線で大活躍してJC前哨戦の富士S圧勝で当時のファンの度肝を抜いたトリプティクUSAなどがいる。80〜90年代の欧州の栄光に包まれた牝系で、やはりこの牝系のフリオーソはかしわ記念で2着に踏ん張って立ち直りを示した。

 セイクレットレーヴは同じ牝系。こちらは祖母シンコウエルメスIREがジェネラスIREの半妹だから、このファミリーの主流により近い。母の父のブライアンズタイムUSAは、天皇賞のビートブラックの母の父として、またかしわ記念で復活したエスポワールシチーの母の父として改めて底力を示している。ブルードメアサイアーとしてはそれほど大成功というわけでもないのに、突然立て続けに大レースを勝ったあたりは、4月29日に永眠した近親で同じロベルト産駒、同い年でもある名種牡馬ダイナフォーマーに向けた何かであるのかも知れない。父は発展著しいフォーティナイナーUSA系の東洋芝部門の頂点を極めた競走馬時代を経て、フォーティナイナーUSA系だけに種牡馬として更に飛躍が期待できる存在。ミスタープロスペクター系×ロベルト系という大レースに強いニックスでもあり、大勢逆転も十分。

 昨年の2歳リーディング争いでディープインパクトと死闘を演じたダイワメジャーは、ここに来て失速気味。世代別の収得賞金(2009年産)ではディープインパクト産駒15億7358.7万円に対して10億6816.9万円と1.5倍近い差をつけられてしまった。3頭出しのここは少しでもその差を縮めておきたいところ。カレンブラックヒルは3代母が仏オークス馬ミシズペニー。英1000ギニー馬ハトゥーフもいる牝系は一流。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.5.6
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