2012天皇賞・秋


怪物不在で奇跡の大駆け

 10月20日の英チャンピオンSで英国の怪物フランケルがめでたく14連勝を達成して引退戦を飾ったが、より印象的だったのは同じ日のクイーンエリザベス2世S。勝ったエクセレブレーションはフランケル以外には(ほぼ)負けない成績を残してきて、今回もシティスケープにあっという間に3馬身差をつける圧勝だった。この馬の強さによって、相手に恵まれたゆえの連勝ではないことが証明されてフランケルの化物ぶりがより際立つわけだ。日本の怪物オルフェーヴルの場合、まだそのような機会に恵まれていないが、不在となった今回は、それまで頭を押さえつけられていた者が鮮やかに勝つシーンがあり得るのではないか。

 ここで、過去10年の連対馬の血統表から主流血脈を選び出し、ほかとも共通しているものを残してみた。当然、サンデーサイレンスUSAの登場回数が最多で13回。以下、ノーザンテーストCANとミスタープロスペクターが7回で並んでいる。理想的な秋の天皇賞馬像はサンデーサイレンスUSA系で、ノーザンテーストCANとミスタープロスペクターを持つものということになる。そうはいっても理想はなかなか実現しないもので、現実にそのパターンの勝ち馬はいない(2着馬も)。ちょっと入れ替えたりひねったりしたものを見つけるのが正解への近道だ。そこで目をつけたのがサドラーズウェルズ。メイショウサムソンの父系祖父、そして14番人気で勝ったヘヴンリーロマンスの母の父、表の範囲外だがテイエムオペラオーの父系祖父でもあり、カンパニーの父にもその血は潜んでいた。今回、サドラーズウェルズ本人の血を持つ者はいないが、その全弟、フェアリーキングなら見つけることができる。サダムパテックは父系がサンデーサイレンスUSAで、母の父エリシオFRの父がフェアリーキング、祖母の父がミスタープロスペクター。巧妙に目立たないふうを装って実は天皇賞馬像に肉薄しているのではないだろうか。昨年の皐月賞ではオルフェーヴルの2着だから、冒頭に書いた件とも合致する。当時以来の2000mで、実はフジキセキ産駒の天皇賞(秋)挑戦はこれが初めて。1996年生まれの初年度産駒から途切れることなく重賞勝ち馬を送り出してきた名種牡馬も20歳の大台に乗った。これまで芝のG1では1600m以下のみに実績を残しているが、そろそろ傾向の違う大物の出現があっていい。フジキセキは祖母の父がインリアリティなので、母系にミスタープロスペクター血脈を持つ配合に成功例が多く、カネヒキリをはじめ、コイウタ、エイジアンウインズなどの大物が出ている。


天皇賞連対馬が持つ主要血脈
年度馬名性齢人気主要血脈
20021シンボリクリスエスUSA牡3Roberto
2ナリタトップロード牡6ディクタスFR、ノーザンテーストCAN、
Raise a Native
20031シンボリクリスエスUSA牡4Roberto
2ツルマルボーイ牡5サンデーサイレンスUSA、ディクタスFR、
ノーザンテーストCAN
20041ゼンノロブロイ牡4サンデーサイレンスUSA、Mr. Prospector
2ダンスインザムード牝313サンデーサイレンスUSA、Nijinsky、
Key to the Mint、Raise a Native
20051ヘヴンリーロマンス牝514サンデーサイレンスUSA、Sadler's Wells
2ゼンノロブロイ牡5サンデーサイレンスUSA、Mr. Prospector
20061ダイワメジャー牡5サンデーサイレンスUSA、ノーザンテーストCAN
2スウィフトカレント牡5サンデーサイレンスUSA、Mr. Prospector
20071メイショウサムソン牡4Sadler's Wells、Lyphard
2アグネスアーク牡4サンデーサイレンスUSA、Lyphard、
Mr. Prospector
20081ウオッカ牝4Roberto
2ダイワスカーレット牝4サンデーサイレンスUSA、ノーザンテーストCAN
20091カンパニー牡8トニービンIRE、Sadler's Wells
ノーザンテーストCAN、Mr. Prospector
2スクリーンヒーロー牡5Roberto、Danzig、サンデーサイレンスUSA、
ノーザンテーストCAN
20101ブエナビスタ牝4サンデーサイレンスUSA、Nijinsky
2ペルーサ牡3サンデーサイレンスUSA、Mr. Prospector
20111トーセンジョーダン牡5トニービンIRE、ノーザンテーストCAN、
Mr. Prospector
2ダークシャドウ牡4サンデーサイレンスUSA、Nijinsky、
Key to the Mint、Raise a Native、Danzig

 カレンブラックヒルは「理想像」通り父ダイワメジャーがサンデーサイレンスUSA×ノーザンテーストCAN、母の父がミスタープロスペクター系の配合。ここまでの無敗の快進撃は父の成績から負けを除いて並べ直したくらいの評価をして良く、これに匹敵する成績というと中央入り後重賞6連勝で毎日王冠を制したオグリキャップくらいだろう。母チャールストンハーバーは米未勝利だが、その父グラインドストーンはアンブライドルドとともにケンタッキーダービー父仔制覇を達成したミスタープロスペクター系のクラシック型。祖母ペニーズヴァレンタインは伊1000ギニー3着馬。3代母ミシズペニーが名牝で、2歳時に英でチーヴァリーパークSG1、3歳時には仏オークスG1とヴェルメーユ賞G1に勝ち、キングジョージVI世&クイーンエリザベスSG1でも2着となった。表面的には米国色の強い母でも、土台がどっしりした欧州血脈なので、初距離でも問題はない。

 ルーラーシップは宝塚記念G1でオルフェーヴルには完敗したが、ほかには完勝しており、世界レベルの実力をきちんと示している。母エアグルーヴはトニービンIRE×ノーザンテーストCANの秋の天皇賞血統で、実際に1997年のこのレースに勝った。続くジャパンCG1ではピルサドスキーIREと死闘のすえ2着となって、その年の年度代表馬に選ばれている。死角があるとすれば父系で、ミスタープロスペクター血脈がいいといっても、父系直系となると11年前のアグネスデジタルが唯一の勝ち馬。父の産駒は昨年3頭出しで(5)(8)(11)着に終わっている。

 ステイゴールド産駒は先週の菊花賞G1に勝ったし、凱旋門賞G1も勝ったも同然だった。この秋も好調は持続している。この父の場合、自身がサンデーサイレンスUSA、ディクタスFR、ノーザンテーストCANと天皇賞(秋)重要血脈を3本持っていて、4回出走して惜しい2着が2度ある。3歳のフェノーメノと4歳のナカヤマナイト。前者は母ディラローシェIREが香港国際ヴァーズG2に勝ってジャパンCG1・2着のインディジェナスIREの全妹だから良血で、大レースに強い母の父デインヒルの後押しもある。後者は3代母の産駒にスプリンターズS(昇格前)のウィニングスマイルがいる程度だが、むしろ、父はこういった地味なところから異常なほどの力を引き出してきた面もある。アリダー経由のレイズアネイティヴ、マルゼンスキー経由でニジンスキーが入っているのも加点対象となり、こちらを評価。

 血統表だけでいえば、父ジャングルポケットが昨年の勝ち馬の父、母がダイワメジャーの全姉でダイワスカーレットの半姉というダイワファルコンが最もふさわしい。トニービンIRE、サンデーサイレンスUSA、ノーザンテーストCANと天皇賞(秋)血統をほぼフル装備してもいる。実績的にさすがに苦しいとは思うが、大穴なら。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2012.10.28
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