2011安田記念


闇に見出す洋々たる前途

 香港の競馬は競走寿命の長いせん馬が中心なので強い馬は長く現役を続け、その間、下から上がってくる馬もいるため当然層が厚くなる。素材が主にオセアニア血統なので1200〜1600mに適し、その分野では世界屈指のレベルを誇る。日本でもこのレースを2000年にフェアリーキングプローンAUSが、06年にはブリッシュラックUSAが制し、スプリンターズSも06年のサイレントウィットネスAUS、昨年のウルトラファンタジーAUSで2勝を挙げた。しかし、その香港競馬も現在は新旧交代の時期を迎えていて、ウルトラファンタジーAUSより更に強かったセークリッドキングダムがシンガポール遠征で地元のロケットマンに敗れ、年度末の総決算ともいえるチャンピオンズマイルG1ではイクステンション、2000mのクイーンエリザベス2世CG1ではアンビシャスドラゴンという新勢力がそれぞれ強力な旧勢力を撃破してしまった。それを踏まえた香港最強クラスの構成がどうなっているのかを分かりやすく示しているのが去る5月27日に発表された「ワールドサラブレッドランキング」(http://www.IFHAOnline.com/)。これは昨年12月1日から本年5月23日に行われた競走についてのレーティングをトップ50までランキングしている。下表の「118」までが、そこから香港と日本の馬を抜粋したもので、そこへJRA発表のプレレーティングを合体させた。アパパネはワールドサラブレッドランキングには掲載されていないが、牝馬のセックスアローワンス4ポイントを加えると、実質的にはランキングに食い込むことになる。それを除くと日港仲良く5頭ずつ、短距離の香港、長距離の日本と棲み分けができていて、その中でそれなりの地位を占めるビューティーフラッシュNZとサムザップNZは、それぞれ長く旧勢力に頭を押さえつけられ、最近は新勢力の台頭に押され気味という微妙な立場でもある。一方の日本勢は近年の安田記念やマイルチャンピオンシップで、ダイワメジャーやウオッカといったより長い距離からのお客さんに席巻される事態が続いたように、長くこの部門では生え抜き(?)の中心勢力が不在だった。ショウワモダンが引退し、エーシンフォワードも今イチ信用を築けないままズルズルと、また今年も安田記念G1がやってきた。
 そんな状況だけに、下表のランキングの序列は今回の結果によって崩され、また練り直されると見ておいた方がいい。もう一段の飛躍があればトップに立てる位置にあるダノンヨーヨーあたりが狙い目なのではないだろうか。父のダンスインザダークは菊花賞馬にして3頭の菊花賞馬の父として知られるように、サンデーサイレンスUSA系長距離部門担当だが、産駒ツルマルボーイは国際G1に認定された記念すべき2004年の勝ち馬。歴代の勝ち馬を見ても、軽快なスピードより、少し重いくらいの血統が強さを示していて、東京1600mで底力を問われるケースが多いことが分かる。ダンスインザダークには、サンデーサイレンスUSAにも、母の父ニジンスキーにもスピードの引き出しがあり、3代母の父レイズアネイティヴはそれ自身がスピードの塊。そういったスピードのスイッチがオンになる配合であれば、この距離の速さにも対応できるし、最後はステイヤー的な底力が生きてくる。母フローラルグリーンはエルフィンSに勝った素質馬で、その父フォーティナイナーUSAは米国でミスタープロスペクター系発展の起点のひとつとなっているように、世界的主流としての大きな力を備えた血脈。祖母の父アファームドも母系に入って良く、裏方に徹することで米三冠馬の力を示している。これらが組み合わされることによって、レイズアネイティヴ5×4×5という近交となり、更に父の祖母の父キートゥザミント、母の父の母の父トムロルフから2本のリボー血脈を受けていて、それがスピードと大一番での強さにつながる。伯父に菊花賞馬ナリタトップロード、イトコに有馬記念のマツリダゴッホがいる牝系も活気に溢れている。


日港国際レーティング比較
馬名 生年
    122   ヴィクトワールピサ 2007
    121   トランセンド 2006
      120 トゥザグローリー 2007
    119   Ambitious Dragon(NZ) 2006 セン
    119   Irian(GER) 2006 セン
119       Sacred Kingdom(AUS) 2003 セン
  118     Xtension(IRE) 2007
  114     アパパネ 2007
  118     ビューディーフラッシュNZ 2005 セン
      118 ペルーサ 2007
      118 ルーラーシップ 2007
  115     エーシンフォワードUSA 2005
  115 115   サムザップNZ 2004 セン
  114     スマイルジャック 2005
  114     ダノンヨーヨー 2006
  113     シルポート 2005
  113     リーチザクラウン 2006
112 112     ジョーカプチーノ 2006
111 111     サンカルロ 2006
  111     ストロングリターン 2006
  111     ライブコンサートIRE 2004 セン
  111     リアルインパクト 2008
110       ビービーガルダン 2004
  109     クレバートウショウ 2006
  108     コスモセンサー 2007
  107     リディル 2007
      シルクアーネスト 2007
5月27日発表の「ワールドサラブレッドランキング=日港抜粋=」
と出走馬のプレレーティングを合体

 アパパネは少しずつしか勝たないので、レーティングの手法による限りはなかなか高い評価に至らないが、さすがに前走で破った相手はブエナビスタだから、3歳時のレーティングからは大きな上積みがあった。テイエムオペラオーに見るように、このような省エネ型名馬は信頼性が高く長く好成績を持続できるものだ。母ソルティビッドUSAが純北米血統で、実際に3歳1月までに短距離で3勝を挙げた後は不振が続いたので、娘の古馬となっての成長力がどうかと見ていたのだが、そのあたりの不安も前走で払拭した。少なくともこの距離なら、何の問題もなかった。父の産駒が先週の不良馬場(一部重)で芝ダート不問で4勝を挙げているように、晴雨兼用型なのも心強い。

 ▲リディルの母エリモピクシーはエリザベス女王杯に勝ったエリモシックの全妹。このレースに先だって行われる英ダービーG1では、エリザベス女王陛下の持ち馬カールトンハウスが本命になっており、そういう縁でこちらも勢いづく可能性がないとはいえないだろう。母自身、エリザベス女王杯で4着となったり、1600mのオープン、ファイナルSに勝ったりとそれなりの実績がある。金鯱賞のパッシングパワーや函館記念3連覇のエリモハリアー、日経新春杯のエリモダンディーといった活躍馬が出る名血デプグリーフUSA系で、アグネスタキオン×ダンシングブレーヴUSAという爆発力のある種牡馬をしっかり受けとめる力のあるファミリーだ。

 サムザップNZは4代母が米国産で、そこにサートリストラム系、ソヴリンエディション系と続けてオセアニア血統が入り、母の父がミスタープロスペクター系のアメリカ馬、そして父シンコウキングIREがアイルランド産の高松宮記念勝ち馬。21世紀馬産の大きな流れである血統のグローバル化を体現しているかのようだ。昨年のスプリンターズS勝ち馬ウルトラファンタジーAUSの父がフェアリーキング直仔の人気種牡馬エンコスタデラゴだったように、オセアニア経由のフェアリーキング系は威力倍増と見ていいかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.6.5
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