2011ヴィクトリアマイル


シルバーレーン産駒の専用走路

 ブエナビスタが勝った昨年のこのレースは、ブエナビスタがクビ差でヒカルアマランサスを交わし、スローペースだったわけでもないのに10着までが0秒4差、しんがりのムードインディゴまでが1秒2の中にひしめいていた。これは強い馬が力を出しやすい東京1600mと、着差がつきにくい牝馬限定という、それぞれ相反する場合もあり得るふたつの面が同時に現れた典型的な例だった。JRAから発表された今回のプレレーティングではトップがブエナビスタ121で、2位がアパパネ112なので、強い馬が力を出しやすい東京1600mとすると、一昨年のウオッカのようにブエナビスタが5馬身近くち切る勘定になり、逆に牝馬限定特有の接戦になると、もともとブエナビスタは取りこぼしが多いので、ちょっとしたことで思わぬ伏兵が台頭するというケースもあるだろう。

 力量差が圧縮された接戦・混戦という方向で考えると、カウアイレーンに出番がないだろうか。父キングカメハメハは昨年のリーディングサイアー。トゥザグローリーやルーラーシップといった大物の重賞勝ちがあり、それ以外にも数を稼いで今年も首位の座を守っている。産駒がデビューした2008年以降の東京芝1600mに限ると通算16勝を挙げ、2位のシンボリクリスエスUSA14勝、3位タイのスペシャルウィークとマンハッタンカフェ11勝を押さえてトップとなっている。今回、キングカメハメハ産駒は三冠牝馬アパパネを筆頭に5頭と最大の勢力となっているが、その中で最も人気のなさそうなこの馬をピックアップする理由はブラックホークの妹であるというその一点。ブラックホークは世紀の変わり目に1200〜1600mでの大レースで活躍した名馬だが、5歳暮れにスプリンターズSを制した1年半後の2001年に安田記念を9番人気で制した。今思うとブラックホークが安田記念を勝って驚くのが不思議な気もするが、当時はびっくりしたなあ。その衝撃を忘れかけた2007年のNHKマイルCではブラックホークの妹で本馬の姉にあたるピンクカメオが17番人気で勝った。当時の週刊競馬ブック「次走へのメモ」には「兄もG1を勝った東京マイルで、アッと驚く快走」とある。今でも驚くほかない。あれから4年が経過して東京1600mの舞台が巡ってきた。このきょうだいに特有の大駆けスイッチがそろそろ入るころ。父キングカメハメハと母の父シルヴァーホークの組み合わせは、米2冠馬アフリートアレックスから昨年の米年度代表馬ゼニヤッタまで、多くの名馬名牝を送り出してきたミスタープロスペクター系×ロベルト系の底力に富むニックス。


キングカメハメハ産駒の目覚ましい活躍
馬名 生年 母の父 重賞勝ち鞍
ローズキングダム 2007 サンデーサイレンスUSA ジャパンCG1、朝日杯FSG1他
アパパネ 2007 Salt Lake 優駿牝馬G1、桜花賞G1、秋華賞G1
トゥザグローリー 2007 サンデーサイレンスUSA 日経賞G2、京都記念G2、中日新聞杯G3
ルーラーシップ 2007 トニービンIRE 日経新春杯G2、鳴尾記念G3
ショウリュウムーン 2007 ダンスインザダーク 京都牝馬SG3、チューリップ賞G3
レディアルバローザ 2007 Tejano Run 中山牝馬SG3
コスモセンサー 2007 リヴリアUSA アーリントンCG3
ゴールデンチケット 2006 サンデーサイレンスUSA 兵庫チャンピオンシップ
フィフスペトル 2006 Bahri 函館2歳S

 ブエナビスタは父スペシャルウィークの残した戦績を牡牝の差、細部の違いはあれどほぼ忠実に辿り、有馬記念G1でハナ差2着に敗れるところまで再現してしまった。父は有馬記念を最後に引退したので、その後はどうなるのか本人の知らないところで目標が失われているわけだが、当たり前のように海外遠征をしたし、また、当たり前のように復活してG1に勝ったりするのだろう。父同様に飄々とした風情で勝ったり取りこぼしたりするので、常に必死でギリギリまで頑張る馬に比べれば消耗は少ないだろうし、前走の完敗も尾を引くことはないだろう。ドイツ牝系に欧州系の種牡馬ばかりを配合されてきたボトムラインは奥が深く、加齢とともに出てくる良さもまだありそうで、実際、最優秀2歳牝馬となった母ビワハイジは5歳でも京都牝馬Sに勝って引退している。

 ▲アパパネの母ソルティビッドUSAは米国的なスピード血統らしくダート1000mの新馬、芝1200mのすずらん賞を連勝し、3歳1月の菜の花賞(芝1200m)で3勝目を挙げた後は鳴かず飛ばずの成績だった。タニノシスターのウオッカとか、クルーピアスターのアサクサキングスのような例は枚挙に暇がなく、母が早熟だったり短距離馬だったりということは必ずしも産駒の将来を狭めるものではないが、成長力に欠ける恐れがなきにしもあらずという程度には心に留めておくべき。その点で女王の世代間比較ではブエナビスタに逃げ切られてしまう可能性もある。ただ、ミスタープロスペクター系×デピュティミニスター系の組み合わせは米年度代表馬カーリンに代表される世界の最先端ともいえる力強い配合であり、既成概念を覆すような発展性も備えている。

 ブエナビスタ相手の番狂わせで最大のものはエリザベス女王杯G1を逃げ切ったクィーンスプマンテだった。それがジャングルポケット産駒。同じ父のアプリコットフィズは母がマンハッタンカフェの全妹。マンハッタンカフェというと秋華賞でブエナビスタを負かしたレッドディザイアの父であり、しかもブエナビスタと3代母が共通しており、表と裏、光と影のような関係にある。半弟のクレスコグランドは先週の京都新聞杯G2を制してダービー戦線に打って出た。ファミリーの勢いも買い材料。

 もう一頭、ブエナビスタを負かした馬で忘れてならないのは昨年の宝塚記念G1勝ち馬ナカヤマフェスタ。その後、凱旋門賞G1でアタマ差2着となったのは記憶に新しい。ディアアレトゥーサはその半妹。父は2002年のセレクトセールで3億3500万円で落札されて1戦0勝に終わったが、ダンスパートナー、ダンスインザダーク、そして第1回のこのレースの勝ち馬ダンスインザムードの全弟という血統なら、種牡馬として花開く可能性は十分にある。タイトスポットUSA×デインヒルUSAの母はヒズマジェスティの近交馬なので、同じリボーの血が更に加わるこの父との配合はステイゴールドとはまた違った意外性を秘めていると思う。

 第1回のサンデーサイレンスUSA産駒による1〜3着独占に象徴されるように、このレースもサンデーサイレンス系が強く、それ以外の種牡馬で3着以内に入ったのはタニノギムレットが3回、あとはフレンチデピュティUSAとクロフネUSA父仔が各1回。スプリングサンダーは父がクロフネUSA。半兄スズカマンボは4歳春に13番人気で天皇賞に勝った。日本に相性の良いキングマンボは母の父としてスズカマンボの他にも“キングジョージ”のデュークオブマーマレードやG1・5勝のミッドデイなど既に多くの実績を残しているし、ダンスインザムードと同じ牝系も魅力。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.5.15
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