2011スプリンターズS


アジアの短路に火花を散らす

 2003年にデインヒルUSAの孫シュワジールがオーストラリアからイギリスに向かい、ロイヤルアスコット開催のキングズスタンドSG2、ゴールデンジュビリーSG1を連勝すると、南半球→北半球の遠征が活発化し、オーストラリア馬がイギリスの短距離G1に勝つのはごくありふれたこととなった。また、笛吹けど誰も踊らないグローバルスプリントチャレンジと対照的に、香港、ドバイ、シンガポールの一連の短距離の大レースは活況を呈している。暮れから5月にかけていい具合の間隔であるせいか、たまたま南アフリカにジェイジェイザジェットプレーン、シンガポールにロケットマンAUSというスーパースターが現れたせいか、その両方だろうが、こうして地球を縦に横にと結んで活発な交流が行われるようになったので、どうもこのままアジアがスプリント戦の中心地域となる可能性もありそうだ。スプリンターズSG1や高松宮記念G1はそこにうまく潜り込んで、レースの地位を高めていけば良いのではないか。また、強い馬が直接対戦するケースも増えたので、レーティングの信頼性も過去に比べて大きく高まっている。

 下表はワールドサラブレッドランキングと香港国際レーティングのS部門(一部M)と今回のプレレーティングの上位馬を混ぜて並べたもの。オーストラリアの女王ブラックキャヴィアが外に出てこないのを別にすると、ロケットマンとジェイジェイザジェットプレーン、セークリッドキングダム、ラッキーナインやグリーンバーディーはそれぞれに直接対戦している。レーティングだけ見るといずれも日本馬トップのダッシャーゴーゴーより上のレベルでの空中戦の様相を見せていて、ロケットマンあたりは手が届かない遥か上空を飛んでいるようにも見える。ただ、セントウルSではエーシンヴァーゴウが実際にラッキーナインを抑えているのだから、ホームで戦う以上はチャンスあり。ロケットマンも初体験の急坂で甘くなる可能性がないとはいえない。


 2011年9月現在の世界のトップスプリンター
レーテ
ィング
カテ
ゴリ

馬名欧文名(産地)生年調教
血統
 父
 母の父
130ブラックキャヴィアBlack Caviar(AUS)2006fBel EspritDesert Sun
125ロケットマンAUSRocket Man(AUS)2005hViscountマクギンティNZ
122ジェイジェイザジェットプレーンJ J the Jet Plane(SAF)2004h南アJet MasterNorthern Guest
122S,MヘイリストHay List(AUS)2005hスタチューオブリバティUSAIs It True
121セークリッドキングダムSacred Kingdom(AUS)2003h香港Encosta de LagoZeditave
120ザファクターThe Factor(USA)2008mWar FrontMiswaki
120ディーコンブルーズDeacon Blues(GB)2007hCompton PlaceBishop of Cashel
120ドリームアヘッドDream Ahead(USA)2008mディクタットGBCadeaux Genereux
117ラッキーナインIRELucky Nine(IRE)2007h香港DubawiGreen Desert
116ディムサムDim Sum(GB)2004h香港KyllachyIn the Wings
114グリーンバーディーNZGreen Birdie(NZ)2003h香港CatbirdラストタイクーンIRE
114ダイナミックブリッツDynamic Blitz(AUS)2004h香港Elusive QualityZeditave
114ダッシャーゴーゴー2007m日本サクラバクシンオーMiswaki
114レットミーファイトLet Me Fight(IRE)2007h香港Hawk WingRoyal Applause
108エーシンヴァーゴウ2007f日本ファルブラヴIREサンダーガルチUSA
111アーバニティ2004m日本マンハッタンカフェAffirmed
111サンカルロ2006m日本シンボリクリスエスUSACrafty Prospector
110ヴァイタルフライヤーVital Flyer(AUS)2005h香港Magic AlbertSpectacular Spy
106カレンチャン2007f日本クロフネUSAトニービンIRE
110ビービーガルダン2004m日本チーフベアハートCANWestminster
110マルティグローリーMultiglory(AUS)2006h香港King of DanesStaroka
ワールドサラブレッドランキング(3/1〜9/11、120以上)、香港国際レーティング(9/9現在)、JRA発表プレレーティング(いずれも110以上)を混ぜて抜粋
Aは全天候馬場、牝馬は4ポイント加点

 ダッシャーゴーゴーは93、94年のこのレースを連覇した偉大なローカルヒーロー・サクラバクシンオーの産駒。辺境のヒーローから世界のスターに昇り詰めるという今のスプリント界の流れを考えると、むしろそういう血統がいいのではないだろうか。表の血統欄を見ても、雑多というか何でもありというか、半分くらいは何これ?という種牡馬が並んでいる。サンデーサイレンスUSAとかデインヒルUSAといった強力な万能種牡馬の影響力が弱まると、距離カテゴリでいうと端っこに位置するスプリントはそういう面が顕著になってくるのだと思う。ダッシャーゴーゴーの場合は母がミスワキ×キートゥザミント×ヘイローという世界基準でも名血といえる構成。それがこの配合の妙といえる部分で、細りゆくテスコボーイGB系に再び活力を与える役割を果たしている。

 ロケットマンAUSの父ヴァイカウントはオーストラリアの1400〜1600mでG1に3勝を挙げた。父系祖父クエストフォーフェイムGBがジャパンCG1に来た(92年11着)英ダービー馬。母の父もジャパンCで5着(83年)のマクギンティNZで、こちらは1200mや1600mでも勝っていたので、スプリンター血統のイメージは持ちにくいとしても、短距離への対応に無理はないし、それぞれ遠く遡ってレッドゴッド系×グレイソヴリン系とスピードの要素を見つけることはできる。父の祖母の父の父ファリングドンAUSはスターキングダム系のスプリンターで本邦輸入種牡馬だから、2頭の祖父より更に古い縁もある。ノーザンダンサー血脈がクエストフォーフェイムの母の父グリーンダンサーから1本入るだけでミスタープロスペクターがないという構成は、いまどき貴重ではあるし、底力を問われる場面では心もとないともいえる。

 グリーンバーディーNZは父がデインヒルUSA直仔キャットバード、母の父がラストタイクーンIRE、祖母の父がケンメアとシャトル種牡馬の成功の歴史をそのまま体現した配合。父の母の父がスターキングダム直系のマースケイと、オーストラリアのシンボル的血脈も持っている。5代母レディケルズの曾孫には68年の桜花賞馬コウユウがいて、これも遠く日本に縁がある血統。

 エーシンヴァーゴウは昨年のウルトラファンタジーAUSと父系祖父が同じ。母の父はミスタープロスペクター系で、これは父がスルーピーを通じて受けたシアトルスルー、祖母の父インリアリティのいずれとも相性が良い。父が2年連続サマースプリント女王を出したのは、夏を乗り切る体力に優れているということだから、疲れを案じる必要はない。

 ラッキーナインはドバイミレニアム直仔で大成功を収めるドバウィが父、母の父も欧州の代表的スプリント血脈グリーンデザート。祖母も愛G1勝ちの良血。ただ、似合うのは安田記念G1ではないか。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.10.2
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