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1年の締めくくりとなるブリーダーズカップが終わってなお、どれが強かったのかよく分からないままに終わった感のある米国に比べると、今年の欧州はそれぞれの路線の主役がその責を果たしてなかなか充実していた。怪物フランケルがマイル路線の、オーストラリア出身ソーユーシンクが中長距離路線の主導権を握って、周辺を牝馬が華やかに彩り、ときには主役も食ってしまう流れは見応えがあった。今年のスノーフェアリーIREは果敢に牡馬に挑み、後半戦の戦いはどれも見事なものだったが、ひとつ挙げるとすれば、ソーユーシンクとの一騎打ちとなった愛チャンピオンSG1だろう。先に抜け出したソーユーシンクを猛然と追って並びかけ、長い直線で最後は渋太さと底力にねじ伏せられた格好の1/2馬身差惜敗だったが、舞台が日本の芝だったらスパッとソーユーシンクを交わしてそのまま突き放してしまったのではないだろうか。そのように、昨年より明らかにパワーアップして昨年のリピートを狙うわけだが、ここで、98年のこのレースを思い出しておきたい。前年に天皇賞(秋)を制したエアグルーヴはその年も牡馬を相手に互角以上の戦いを続け、ジャパンCG1へのステップに選んだのがエリザベス女王杯。よもや負けることはあるまいと単勝1.4倍の支持を受け、上がり3Fも33秒台の脚を使いながら、それでもメジロドーベルから2馬身差の3着に敗れてしまった。牝馬限定戦に特有の磁場というのか、あるいは牡馬がいないことが緊張感の欠如につながるのか、圧倒的な力差があるはずなのにそれが結果に反映されないケースがよくある。今春のヴィクトリアマイルG1でブエナビスタが敗れたのも、その例に加えていいだろう。実力に敬意を表しつつ、穴狙いの余地はあるということで○としておきたい。 オルフェーヴルが示したサンデーサイレンスUSA血統展開のテーマのひとつが、母の父メジロマックイーンだった。全兄ドリームジャーニーが先に立派な実績を築いてはいるが、三冠となるとやはり格別なものだ。メジロマックイーンはメジロティターン、メジロアサマという秋の天皇賞馬を経てパーソロンIREに遡る。パーソロンIRE〜シンボリルドルフ〜トウカイテイオーのラインと同様、メジロマックイーンもサイアーラインとしての存続は見通しが暗いが、それでも細く渋太く長く続くのがトウルビヨン〜ジェベル系の特徴。オルフェーヴルの母系に収まることで、その名は長く残ることになりそうだ。一方、欧州ではこの父系は渋太く残っており、サイアーランキングの上位を占めることはない代わりに、主にアホヌーラの系統が何年かに1頭の割合で継続的に大物を出している。インディアンリッジはアホヌーラ直仔の種牡馬として最も成功し、ブリーダーズCマイルG1のリッジウッドパール、同じくドームドライヴァーなど多くの活躍馬を出したほか、種牡馬の父としても成功し、コンプトンプレースやナミドなど、多くの後継種牡馬に恵まれている。母の父としても同様に優秀で、サセックスSG1のリールバディ、ブリーダーズCジュヴェナイルG1のウィルコ、そして英オークス馬ダンシングレインなど多様なG1勝ち馬を送り出している。◎イタリアンレッドはそのインディアンリッジとサンデーサイレンスUSA系の組み合わせとなる点が興味深い。下表で示した通り、メジロマックイーンとインディアンリッジではあまりに離れていて類似の配合とはとてもいえないが、血統地図の辺境を生き抜いてきた血脈と、チャンスさえあれば世界の主流ともなり得るサンデーサイレンスUSAの組み合わせという意味での共通点は見出せる。イタリアンレッドの母バルドネキアIREはトニービンと同じイタリアのカミチ調教師の下で伊オークスG1で2着となり、プシケ賞G3に勝った活躍馬で、祖母ローザデカーリアンも伊G3に2勝している。今春は桜花賞G1のマルセリーナと優駿牝馬G1のエリンコートがいずれもイタリアで走った牝馬とサンデーサイレンスUSA系種牡馬というパターンから生まれており、秋華賞G1のアヴェンチュラはトニービンIRE系だから、牝馬路線の隠れトレンドとしてイタリア・コネクションがあるのかもしれない。4代母ポムローズの産駒アップルツリーFRはヨーロッパ賞、ターフクラシック、コロネーションC、サンクルー大賞と独米英仏の4カ国でG1勝ちを収めたフランスの名馬で、94年のジャパンCG1にも出走した(マーベラスクラウンの14着)。父はあの |
| トウルビヨン系と出合ったサンデーサイレンスUSA系 |
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Tourbillon トウルビヨン(1928)仏ダービー Djebel ジェベル(1937)凱旋門賞 Clarion クラリオン(1944)グランクリテリウム | Klairon クレーロン(1952)仏2000ギニー | Lorenzaccio ロレンザチオ(1965)英チャンピオンS | Ahonoora アホヌーラ(1975)スプリント選手権G2 | Indian Ridge インディアンリッジ(1985)キングズスタンドSG2 | バルドネキアIRE(牝、1995)プシケ賞G3 | イタリアンレッド(牝、2006、父ネオユニヴァース) My Babu マイバブー(1945)英2000ギニー、 Milesian マイリージャン(1953)インペリアルプロデュースS パーソロンIRE Partholon(1960)イボアH メジロアサマ(1966)天皇賞(秋) メジロティターン(1978)天皇賞(秋) メジロマックイーン(1987)天皇賞(春)×2、宝塚記念、菊花賞 オリエンタルアート(牝、1997)3勝 オルフェーヴル(牡、2008、父ステイゴールド) |
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▲ダンシングレインIREはデインヒルUSA系のベテランで重賞ウィナー量産型万能サイアー・デインヒルダンサーの産駒。昨年来日してブービーとなったアーヴェイGBもこの父の産駒だが、デインヒルUSA直仔では02年にファインモーションIREが勝っており、日本の軽い馬場でも持ち味は生かせるだろう。母レインフラワーはドクターデヴィアスIRE、シンコウキングIREの妹で、スズカフェニックスの叔母にあたる日本にも縁のある牝系。母はその父がインディアンリッジなので、アホヌーラ直仔の英ダービー馬ドクターデヴィアスに近い血統構成となる。 ジャングルポケット産駒はこの秋、△アヴェンチュラが秋華賞、トーセンジョーダンが天皇賞(秋)を制した。トニービンIRE血脈というくくりなら、スプリンターズSG1のカレンチャン、南部杯のトランセンドの母の父がいずれもそうだから、最近にない攻勢といえる。一昨年のこのレースでクィーンスプマンテが逃げ切って大波乱となったほか、ジャガーメイルの天皇賞(春)G1、オウケンブルースリの菊花賞など、父は京都外回りの大レースで実績を残しており、アヴェンチュラも外回りに替われば更に強い可能性がある。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.11.13
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