2011桜花賞


天才舞踏家の系譜

 桜花賞の大本命と目されたエアグルーヴが直前に回避したのが今から15年前。その第56回は単勝10番人気のファイトガリバーが勝ち、馬連は14,230円の波乱となった。回避したエアグルーヴはその後、オークスで復活し、古馬になると牡馬を相手に華々しい戦果を挙げ、繁殖入りしてからもアドマイヤグルーヴ、フォゲッタブル、ルーラーシップと次々に活躍馬を送った。同じ世代にはビワハイジがいて、桜花賞は2番人気で15着に敗れたが、こちらも娘のブエナビスタの大活躍によって名誉回復を果たした。このように96年を振り返るだけでも、勝つにせよ負けるにせよ、あるいは回避するにせよ、将来の名牝が潜在的な可能性を膨らませる起点となるのがこのレースだということが分かる。

 ダンスファンタジアは母ダンスインザムードが2004年の勝ち馬。桜花賞母仔制覇がなれば史上初だが、1987年の勝ち馬マックスビューティの娘マックスジョリーが3着(1993年)とニアミスに終わってからは、母仔出走例そのものが昨年のラナンキュラス(17着、母は1998年の勝ち馬ファレノプシス)までない。アグネスフローラがアグネスフライトとアグネスタキオンを出し、ベガがアドマイヤベガやアドマイヤドンを出しているように、桜花賞馬が優れた繁殖成績を残す例は少なくないのに、不思議と母仔によるタイトル共有というのがない。ダンスファンタジアが3着に入るだけでも18年ぶりの快挙(?)なのだから、今回のチャンスを逃がしたらもうないぞということで、快挙の達成に期待をかけたい。牝系の優秀さは改めていうまでもないとは思うが、それでも改めて書き出してみると何とも豪華というしかない。中でも4連勝で桜花賞馬となった母は、オークスを単勝1.4倍の1番人気で4着に敗れると、13番人気の天皇賞(秋)で2着に入ったり、長い不振に陥ったり、立ち直って米国遠征で勝ったりと、能力の高さに加えてその波の落差はこのファミリーでも最大のものがあった。その母あってこの娘ありで、阪神JFG1と前走の見どころのない負けは折り込みずみというか、気にする必要はないだろう。父ファルブラヴIREはワンカラット、ワイルドラズベリーなど、これまで活躍馬が牝馬に偏っている。こういったケースでは、将来的に牡馬も走るようになるとしても、大物はまず牝馬から現れるもので(古い例だがパーソロンIREとか)、4世代目でそろそろG1勝ちに手が届いていいころ。阪神に外回りコースができてからは、その後のオークスまで視野に入るような馬が勝つことが多いが、現役時の父は2400mのミラノ大賞典G1から8FのクイーンエリザベスII世SG1まで、幅広い距離に対応できたので、その面でも資格あり。父母いずれも、リボー血脈を持っている点にも大レース向きの底力が感じられる。


 ダンスファンタジアの豪華なファミリー
 NATIVE PARTNER(USA) ネイティヴパートナー 牝、1966年生、父Raise a Native
  Fabuleux Jane(USA) ファビュルージェーン 牝、1974 3着:仏オークス-G1、ヴェ
   |  ルメーユ賞-G1
   | ダンスールファビュルーUSA Danseur Fabuleux 牝、1982
   |  | アラジUSA Arazi 牡、1989 ブリーダーズCジュヴェナイル-G1、仏グランクリ
   |  |   テリウム-G1、サラマンドル賞-G1、モルニ賞-G1
   |  | NOVERRE(USA) ノヴェール 牡、1998 サセックスS
   | Doubles Partner(USA) ダブルスパートナー 牝、1983
   |  | Net Dancer(USA) ネットダンサー 牝、1989
   |  |   イーグルカフェUSA 牡、1997 ジャパンCダート、NHKマイル
   | JOYEUX DANSEUR(USA) ジョワユーダンスール 牡、1993 ETターフクラシ
   |   ック-G1
  FORMIDABLE(USA) フォーミダブル 牡、1975 ミドルパークS-G1
  Key Partner(USA) キーパートナー 牝、1976、父Key to the Mint(USA)
   | ダンシングキイUSA Dancing Key 牝、1983、父Nijinsky(CAN)
   |  | エアダブリン 牡、1991、父トニービンIRE 2着:東京優駿
   |  | ダンスパートナー 牝、1992、父サンデーサイレンスUSA 優駿牝馬、エリザ
   |  |   ベス女王杯、2着:桜花賞、エリザベス女王杯、3着:宝塚記念×2
   |  | ダンスインザダーク 牡、1993、父サンデーサイレンスUSA 菊花賞、2着:
   |  |   東京優駿
   |  | ダンスインザムード 牝、2001、父サンデーサイレンスUSA 桜花賞、ヴィク
   |  |   トリアマイル、2着:アメリカンオークス-G1、天皇賞(秋)、マイルチャンピオ
   |  |   ンシップ-G1×2、3着:天皇賞(秋)
   |  |   ダンスファンタジア 牝、2008、父ファルブラヴIRE フェアリーS-G3
   | キーフライヤーUSA Key Flyer 牝、1986
   |   スプリングマンボGB Spring Mambo 牝、1995
   |     スズカマンボ 牡、2001 天皇賞(春)-G1
  Bev Bev(USA) ベヴベヴ 牝、1977
   | Connecting Link(USA) コネクティングリンク 牝、1985
   |   LINK RIVER(USA) リンクリヴァー 牝、1990 ジョンA.モーリスH-G1
  FLYING PARTNER(USA) フライングパートナー 牝、1979 ファンタジーS-G1
  Tennis Partner(USA) テニスパートナー 牝、1983
   | Rapid Serve(USA) ラピッドサーヴ 牝、1996
   |   SWISS ACE(AUS) スイスエース 牡、2004 MRCオークリープレート-G1
  AJDAL(USA) アジダル 牡、1984 ジュライC-G1、スプリント選手権-G1、デュー
     ハーストS-G1

 トレンドハンターは3代母グレートレディエムの産駒にG1・11勝の名牝レディーズシークレット、孫にスプリンターズSと高松宮記念に勝ったビリーヴがいる。いずれも牡馬相手にG1勝ちを収めている名牝で、父マンハッタンカフェの代表産駒もやはり名牝のレッドディザイア。母の父ブライアンズタイムUSAとサンデーサイレンスUSA系種牡馬の組み合わせからはダート王エスポワールシチー、菊花賞馬スリーロールスが出ていて、ヘイルトゥリーズンのインブリードと世代の経過によってかつてのライバル関係が協力関係に変わってきている。今回、サンデーサイレンスUSA直系は主力のレーヴディソールが故障、頭数では最大のディープインパクト産駒もクラシック路線が進むにつれてどこまで信頼していいのか分からない部分も出てきた。そこで、信頼と実績のこの父の産駒の出番となるのではないだろうか。

 ディープインパクト産駒として最初にクラシックに挑む▲マルセリーナ。母マルバイユIREはミルコ・デムーロのお手馬で、地元イタリアで1600mのG2とG3に勝ち、フランスでも1600mのG1、アスタルテ賞に勝った。母の父がセントジェームズパレスS、祖母の父はサセックスSといずれも英のマイルG1ウイナーで、3代母の父ファイナルストローもサセックスSやジャックルマロワ賞で2着となったマイラー。母の血は1600mに特化したものとさえいえる。

 ホエールキャプチャはフサイチリシャールやブラボーデイジー、ユキチャンと同じクロフネUSA×サンデーサイレンスUSA。1600mのクラシックでは、最後に鋭さで劣りそうな印象がないではない。ただ、祖母はエリザベス女王杯勝ち馬タレンティドガールにナシュワンを配合したスケールの大きな血統。こういった壮図がすぐに実を結ばなくても、1代とか2代おいて成功する場合は少なくない。

 スピードリッパーはダンスファンタジアと同じファルブラヴIRE×サンデーサイレンスUSAの配合だが、父にシアトルスルー、母にセクレタリアトの血が潜むのが特徴で、これらいずれもボールドルーラー系の米三冠馬の組み合わせはエーピーインディで大成功を収めたほか、カワカミプリンセスの母にも見られるパターン。ジャパンCG1、有馬記念、メルボルンCG1で2着となった半兄ポップロックもその点では同じ。相手が強くなっても渋太く抵抗できるかもしれない。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.4.9
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