2011NHKマイルC


3つの奇跡のキーワード

 フェブラリーSをワイルドラッシュ産駒のトランセンドが勝ったのを別にすると、ドバイワールドCをネオユニヴァースのヴィクトワールピサ、高松宮記念をフジキセキのキンシャサノキセキ、桜花賞をディープインパクトのマルセリーナ、皐月賞をステイゴールドのオルフェーブル、天皇賞(春)をマンハッタンカフェのヒルノダムールが制した。サンデーサイレンス後継種牡馬の産駒が大レースに勝ちまくるのは特に珍しい光景ではなくなったが、ダートのフェブラリーS以外全部、しかもドバイのおまけ付きというここまでの寡占は例がなく、しかも、今年の場合は最新鋭ディープインパクトから御大フジキセキまで、新旧入り乱れての大激戦という印象が強い。今回も、それをよく反映したメンバーとなっている。

 「上半期」の「左回り」の「1600m」という3つのキーがピタリとはまるのはフジキセキ。下表に示した通り、8頭のG1級産駒のうち7頭が上半期のG1(だけではないが)を制しており、8頭すべてが左回りに実績を残した。しかも、サンクラシークには本拠地南アフリカの喜望峰フィリーズギニー勝ちなどもあるので、その内6頭が左回り1600mでタイトルを得ていることになる。フジキセキ自身は新潟での新馬戦、阪神のもみじS、中山の朝日杯と弥生賞の4戦全勝で引退しているので、東京では走っていないが、トップクラスの産駒の適性は最大公約数的には東京の芝1600mにあるといえる。エーシンジャッカルは母の父がミスタープロスペクター直仔。これもフジキセキ産駒の大物の隠れたキーのひとつで、カネヒキリ、コイウタ、エイジアンウインズの3頭は祖母の父を通じてミスタープロスペクター血脈が入っていた。フジキセキは祖母の父がインリアリティ。インリアリティはミスタープロスペクターと組み合わされることで、ときに強い効果を示し、アンブライドルド、リアルクワイエト、スマーティジョーンズなどアメリカ的クラシック型の名馬が生まれた。また、フジキセキの母はルファビュルー×インリアリティという組み合わせになっていて、これはケンタッキーダービーとBCクラシックに勝ったアンブライドルドの母とまったく同じ。フジキセキがミスタープロスペクターの血を持つ牝馬に示す相性の良さは、そのあたりに根拠があるのかもしれない。祖母は91年のバレッツ3月セールで買われたトレーニングセール出身外国産馬ブームのはしりとなった1頭で、重賞勝ちこそ金杯(阪神2000m)のひとつだが、多くの重賞・オープンでの入着があり、幅広い距離で息の長い活躍を見せた。その後に輸入された母のイトコにあたるテネシーガールも同じ勝負服でセントウルSやファンタジーSに勝ったので、日本競馬への適性が潜在していた牝系でもある。サンデーサイレンス、ミスタープロスペクター、ノーザンダンサー(祖母の父の父)と主流血脈を押さえ、異系として欧州血脈も入るバランスの良い構成。どんな場面にも対応できる懐の深さがある


フジキセキ産駒のG1級勝ち馬
馬名 生年 母の父 祖母の父 主なGT級勝ち鞍
カネヒキリ 2002 Deputy Minister Mr. Prospector フェブラリーS
キンシャサノキセキ 2003 Pleasant Colony Lyphard 高松宮記念G1
コイウタ 2003 ドクターデヴィアスIRE Mr. Prospector ヴィクトリアマイル
グレイスティアラ 2003 ノーザンテーストCAN ロイヤルスキーUSA 全日本2歳優駿
Sun Classique 2003 ラストタイクーンIRE Keen ドバイシーマクラシックG1
エイジアンウインズ 2004 デインヒルUSA フォーティナイナーUSA ヴィクトリアマイルG1
ダノンシャンティ 2007 Mark of Esteem Halo NHKマイルCG1
ファイングレイン 2008 Polish Precedent Mill Reef 高松宮記念G1

 ディープインパクトの初年度産駒はマルセリーナが桜花賞に勝って、ダノンバラードが皐月賞で8番人気ながら3着に入り、ここ一番での底力を備えていることが分かった。まだ不安定なのは否めないが、サンデーサイレンス系種牡馬は個性が強いせいか初年度産駒から完全に軌道に乗るケースはまれなので、それぞれが試行錯誤を重ねながら良い方に収束していくことになるのだろう。コティリオンはダノンバラードとともにラジオNIKKEI杯2歳S組の評価を下げる要因となっていたが、ここにきて反攻の兆しを示していて、今のところディープインパクト産駒はそのような振幅の大きさも個性のひとつと考えておかなければならない。母のジェミードレスは中山で行われた府中牝馬Sの2着馬だが、エアグルーヴやサクラチトセオーと同じトニービン×ノーザンテーストという東京仕様の配合だけあって、クイーンCとエプソムCの3着を含めて東京では〔1.1.2.2〕と掲示板を外したことがなかった。この「エアグルーヴ配合」が母となっても府中巧者ぶりを産駒に伝えることは、東京開催初日にフローラSのバウンシーチューン(ステイゴールド×トニービン×ノーザンテースト)が示してもいる。

 ▲リアルインパクトは芝ダート兼用で短距離専門に活躍したトキオリアリティーが母なので、ここが上半期最大の目標となりそう。メドウレーク×インリアリティという今どき貴重な米国アウトサイダー血統。ディープインパクトとの組み合わせでは、良いときと悪いとき、表と裏の違いがよりはっきりと出ることになるのではないだろうか。そういった意味では力を出せずに終わった後の変わり身が大きそうだ。

 イギリスではフランケルが2000ギニーで圧倒的な逃げ切りを演じてみせた。高い前評判を更に上回る、ちょっと近年にないびっくりするような内容だった。順調にいけばグランプリボスは6月のロイヤルアスコットのG1、セントジェームズパレスSでそのフランケルとぶつかることになる。サクラバクシンオーの仔がそのような舞台に立つだけでも感慨深いが、父系曽祖父テスコボーイは1966年のクイーンアンS勝ち馬だから、父系3代、45年ぶりのロイヤルアスコットへの凱旋というのか里帰りというのか、いずれにしても出走するだけで血統的には快挙といえるだろう。その前に日本できっちり勝って遠征したいところ。サンデーサイレンス父系の勢いを止めるとすれば母の父サンデーサイレンスというのはこれまでもあったケース。2歳戦を別にすると父に東京は合わない印象があるが、2003年のこのレースではエイシンツルギザンが2着となっているし、昨春はサンクスノートが京王杯スプリングCに勝った。

 現在、世界の最も広い範囲、最も高い頻度で重賞に勝っているのはデインヒルの孫と考えて間違いないだろう。該当するのはエイシンオスマン、キョウエイバサラ、クリアンサス、プレイの4頭。それぞれ一発があって驚けないが、中でもプレイは半兄にジャパンCのアドマイヤムーン、3代母の娘にエリザベス女王杯のヒシアマゾンがいる良血。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.5.8
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