2011ジャパンC


かくして男は姿を消した

 リワイルディングの鮮やかなドバイシーマクラシックG1制覇で幕を開けた今年の北半球の2400m路線は、欧州各国のダービー馬が強いのやら弱いのやら判然としないままに推移し、キングジョージVI世&クイーンエリザベスSG1では遅れてきた大物3歳馬ナサニエルが登場したが、そこでリワイルディングが故障、ナサニエルも2000m路線に回って結果が出なかった。そのほかの古馬も相手関係を吟味してうまく立ち回ったセイントニコラスアベイ、キャンパノロジストがそれぞれ地味にG1に2勝を挙げたのみ。そんな中で昨年の凱旋門賞3着馬で4歳を迎えた牝馬サラフィナがサンクルー大賞を制するなど順調に調子を上げて今年の凱旋門賞G1に向かったが、そこで勝ったのは11番人気のデインドリームGERだった。牡馬はみな消えていき、残ったのはドイツで目立たず古馬相手に圧勝を続けていた3歳牝馬だった。そして、凱旋門賞G1とブリーダーズCターフG1の谷間に位置して今イチクラスの受け皿となっているカナディアン国際SG1でも、4歳牝馬のサラリンクスIREが内から抜け出して圧勝している。今回のジャパンCG1に出走する4頭の外国馬のうち3頭が欧州の牝馬というのは、この路線の終章としては自然のなりゆきだった。
 カナディアン国際SG1は今イチおやじたちの集まりとはいっても2着が前年の勝ち馬でジャパンCにもきたジョシュアツリーIRE、3着が愛ダービー馬トレジャービーチ、4着が前年の英セントレジャー馬アークティックコスモスと、近年の平均的なジャパンCG1の外国招待馬レベルにはあった。そこで4馬身差をつけたサラリンクスIREは例年ならある程度の評価を得られるところだが、今年は“凱旋門賞馬”、“レースレコード”、“5馬身差”という金看板を3枚も背負ったデインドリームGERの陰に完全に隠れてしまった感がある。下表を見て分かる通り、この路線では父としてはガリレオとモンジューIREが4勝でトップタイ。“祖父”としてはサドラーズウェルズが12勝、デインヒルUSAが6勝と、欧州の勢力図が大体そのまま反映されている。それをそのまま日本に持ち込んでいいのかという問題はあるが、サドラーズウェルズ直系はテイエムオペラオー、シングスピールIREがそれぞれレベルの高い年に接戦を制しており、父モンジューIRE自身も99年のジャパンCG1でスペシャルウィークから0秒3差の4着となった。父モンジューIRE、母の父デインヒルUSAなら、今季の欧州2400mのエッセンスを詰め込まれた血統といえるし、2400m路線だけでなく、現時点での世界最強馬フランケルはガリレオ×デインヒルUSAだから、それにも共通するパターン。母はクレオパトル賞G3の勝ち馬で、3代母はプリティポリーSG2勝ち馬。4代母は仏オークス馬スイートミモザ、その全兄には凱旋門賞のレヴモス、全弟にアスコットゴールドC2勝のルモスがいる名門牝系。遡れば遠くスノーフェアリーIREとも同じ1号ルージュローズ系。


北半球2400m路線の主要G1概観
日付レース名条件勝ち馬父の父母の父
3/26ドバイシーマクラシックリワイルディングRewildingタイガーヒルIREデインヒルUSATop Ville
6/3英オークス3歳牝ダンシングレインIREDancing RainDanehill DancerデインヒルUSAIndian Ridge
6/3コロネーションC4歳上セイントニコラスアベイSt Nicholas AbbeyモンジューIRESadler's WellsSure Blade
6/4英ダービー3歳牡牝プールモワPour MoiモンジューIRESadler's WellsDarshaan
6/12ミラノ大賞3歳上ヴォワライシIREVoila IciDaylamiDoyounBarathea
6/26愛ダービー3歳牡牝トレジャービーチTreasure BeachGalileoSadler's WellsMark of Esteem
6/26サンクルー大賞4歳上サラフィナSarafinaRefuse to BendSadler's WellsDarshaan
7/3独ダービー3歳牡牝ヴァルトパルクWaldparkDubawiDubai MillenniumAcatenango
7/14パリ大賞3歳牡牝メアンドルMeandreSlicklyLinamixSavres Rose
7/17愛オークス3歳牝ブルーバンティングBlue BuntingDynaformerRobertoLinamix
7/23KジョージY世&QエリザベスS3歳上ナサニエルNathanielGalileoSadler's WellsSilver Hawk
7/24ベルリン大賞3歳上デインドリームGERDanedreamLomitasNiniskiデインヒルUSA
8/13ソードダンサー招待3歳上ウィンチェスターWinchesterTheatricalNureyevSpectrum
8/14ラインラントポカル3歳上アールオブティンスダルEarl of TinsdalBlack Sam BellamySadler's WellsDashing Blade
8/18ヨークシャーオークス3歳上牝ブルーバンティングBlue BuntingDynaformerRobertoLinamix
9/4バーデン大賞3歳上デインドリームGERDanedreamLomitasNiniskiデインヒルUSA
9/11ヴェルメーユ賞3歳上牝ガリコヴァGalikovaGalileoSadler's WellsBlushing Groom
9/25ヨーロッパ賞3歳上キャンパノロジストCampanologistKingmamboMr. ProspectorSadler's Wells
10/1J.ハーシュターフクラシック招待S3歳上ケープブランコCape BlancoGalileoSadler's WellsPresidium
10/2凱旋門賞3歳上牡牝デインドリームGERDanedreamLomitasNiniskiデインヒルUSA
10/16カナディアン国際S3歳上サラリンクスIRESarah LynxモンジューIRESadler's WellsデインヒルUSA
10/16ジョッキークラブ大賞3歳上キャンパノロジストCampanologistKingmamboMr. ProspectorSadler's Wells
11/5ブリーダーズCターフ3歳上セイントニコラスアベイSt Nicholas AbbeyモンジューIRESadler's WellsSure Blade
※ドバイシーマクラシックは北半球4歳以上、南半球3歳以上

 エルコンドルパサーUSAを99年の凱旋門賞で抑えたモンジューIREをジャパンCで負かしたのがスペシャルウィークだから、モンジューIRE産駒に対しても、凱旋門賞馬に対してもブエナビスタの奮起が期待できるかもしれない。昨年のこのレース以降は迷走が続くが、力の衰えを示す負け方ではないし、きっかけさえ掴めば立ち直って涼しい顔で勝つケースは十分だろう。

 デインドリームGERは6頭目の凱旋門賞G1制覇→ジャパンCG1参戦。シールゲン調教師にとってはタイガーヒルIREでスペシャルウィークの10着に敗れた99年の雪辱を期す一戦ともなる。ドイツ馬だが、血統面でドイツ的なのは父の母系くらいで、むしろ3代母でロイヤルオーク賞G1やポモーヌ賞G3といった超長距離戦で活躍したレディベリーに遡る質の高い牝系が魅力。リュパン賞G1のグルームダンサーUSAや高松宮記念G1のキンシャサノキセキAUS、ガネー賞G1に勝ちジャパンCG1ではトウカイテイオーの13着に敗れたヴェールタマンドFRがこのファミリーだが、ことジャパンCに関していえば、91年に凱旋門賞2着を経てゴールデンフェザントの2着となった3歳牝馬マジックナイトFRの父ルネンジョーン(パリ大賞)の母として記憶に留めているひとも多いのではないだろうか。

 馬産の手法としてのドイツ式を正統に継承しているのがアガ・カーン殿下ことアーガー・ハーン4世殿下で、下世話ないい方をすると、家風を壊さずそこそこ有能な種牡馬を養子に取るような形で牝系の力を大きくしていく方法。シャレータIREの場合は叔母に愛オークスのシャワンダ、4代母の娘にヴェルメーユ賞のシャラヤIREのいる牝系に、自家生産のダルシャーンとシンダーが入る。2400m向きでまだ伸びる余地がある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.11.27
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