2011フェブラリーS


2月の風に歌え踊れ

 長くダート界に君臨したカネヒキリとヴァーミリアンが引退。一昨年の勝ち馬サクセスブロッケンも去り、6歳3強のエスポワールシチー、スマートファルコン、サマーウインドは不在。それでもフリオーソ、トランセンド、オーロマイスターと3頭のG1/JpnT勝ち馬が残るのだから、この部門の層の厚さが窺えるが、昨年前半までのような閉塞感さえ漂う上位陣の分厚さというのはなくなった。このレースは芝馬の挑戦をことごとく跳ね返していて、ダート初挑戦(または未勝利)で馬券圏内に食い込んだのは2001年3着のトゥザヴィクトリーだけ。中山金杯勝ちから連勝した98年のグルメフロンティアにしてもダート4勝の実績があった。しかし、これまでより風通しが良くなり、勢力図に流動性が出てきた今の状況なら、異分野からの挑戦が実を結ぶ可能性も少しはあるのではないか。下表に示したのは90年以降、芝とダートの両方で北半球のG1級レースに勝った馬。ホクトベガの当時の帝王賞はダート統一グレード前夜だが、それをいったらJRAのG1もパート2時代のものなので、G1級ということで表に入れた。近年はアメリカとドバイのオールウェザー化の関係もあって、それまでのダートの大レースがむしろ芝馬向きになった傾向も出ているが、そういった細かいことをおくとすると、だいたい1世代に1頭くらいの割合で芝でもダートでもG1勝ちできる馬が出ている。珍しいことは珍しいが、あり得なくはないということのようだ。


芝・ダート両方でのGT級レース制覇例(北半球、1990年以降)
馬名
生年 ダート(オールウェザーを含む)
Ovening Verse m 90 オークローンH(米9F)
1986 91 ブリーダーズCマイル(米8F)
Defensive Play m 90 マンノウォーS(米11F)
1987 91 チャールズHストラブS(米10F)
Marquetry m 92 エディーリードH(米9F)
1987 93 メドウランズCH(米9F)
アルカングUSA m 93 イスパーン賞(仏1850m)
1988 93 ブリーダーズCクラシック(米10F)
Sheikh Albadou m 91 ナンソープS(英5F)
1988 91 ブリーダーズCスプリント(米6F)
アラジUSA m 91 グランクリテリウム(仏1600m)
1989 91 ブリーダーズCジュヴェナイル(米8.5F)
ホクトベガ f 93 エリザベス女王杯(日2400m)
1990 96 帝王賞(日2000m)
Hollywood Wildcat f 93 ブリーダーズCディスタフ(米9F)
1990 94 ゲームリーH(米9F)
シングスピールIRE m 96 ジャパンC(日2400m)
1992 97 ドバイワールドC(首2000m)
Escena f 97 ラモナH(米9F)
1993 98 ブリーダーズCディスタフ(米9F)
Almutawakel m 98 ジャンプラ賞(仏1800m)
1995 99 ドバイワールドC(首2000m)
Dubai Millennium m 99 クイーンエリザベスU世S(英8F)
1996 00 ドバイワールドC(首2000m)
アグネスデジタルUSA m 00 マイルチャンピオンシップ(日1600m)
1997 02 フェブラリーS(日1600m)
イーグルカフェUSA m 00 NHKマイルC(日1600m)
1997 02 ジャパンCダート(日1800m)
Affluent f 02 ラモナH(米9F)
1998 03 サンタモニカH(米7F)
クロフネUSA m 01 NHKマイルC(日1600m)
1998 01 ジャパンCダート(日2100m)
アドマイヤドン m 01 朝日杯フューチュリティS(日1600m)
1999 02 JBCクラシック(日2000m)
ヨハネスブルグUSA m 01 ミドルパークS(英6F)
1999 01 ブリーダーズCジュヴェナイル(米8.5F)
Castledale m 04 サンタアニタダービー(米9F)
2001 05 シューメーカーBCマイルS(米8F)
Electrocutionist m 05 英インターナショナルS(英10F88y)
2001 06 ドバイワールドC(首2000m)
ラヴァマンUSA h 06 サンタアニタH(米10F)
2001 06 C.ウィッティングハム記念H(米10F)
Einstein m 06 ガルフストリームパークBCS(米11.5F)
2002 09 サンタアニタH(米10FAW)
Gloria de Campeao m 09 シンガポール航空国際C(星2000m)
2003 10 ドバイワールドC(首2000mAW)
Nashoba's Key f 07 イエローリボンS(米10F)
2003 07 ヴァニティ招待H(米9FAW)
Cocoa Beach f 08 ベルデームS(米9F)
2004 08 メートリアークS(米8F)
Panty Raid f 07 アメリカンオークス招待S(米10F)
2004 07 スピンスターS(米9FAW)
Raven's Pass m 08 クイーンエリザベスU世S(英8F)
2005 08 ブリーダーズCクラシック(米10FAW)
General Quarters m 09 ブルーグラスS(米9FAW)
2006 10 WRターフクラシック(米9F)
Evening Jewel f 10 アッシュランドS(米8.5FAW)
2007 10 デルマーオークス(米9F)

 このリストから歴史的名馬を抽出すると、ベスト3は欧・米2歳王者アラジUSA、無敵のドバイミレニアム、そして地域不問のシングスピールIREということになるのではないだろうか。シングスピールIREは4歳夏まではG1.5クラスの馬だったが、秋以降はカナディアン国際でG1初制覇、同じコースのブリーダーズCターフG1で2着、ジャパンCG1に勝ち、ひと息入れてドバイワールドCG1、英国に帰ってコロネーションCG1、インターナショナルSG1と勝って丸1年でG1・5勝を挙げた。左回りという以外、似たところのない馬場でこの好成績だから、いかに順応性が高かったかが分かる。種牡馬となってもドバイワールドCG1のムーンバラッドIREから安田記念G1のアサクサデンエンGBまで、産駒の傾向は多種多様。ライブコンサートはその一頭。3歳1月のデビューから2戦をダートで完敗して、以降ダートは1回も走っていないが、3歳で去勢されて生まれ変わって(?)からは実質初めてのダートといってもいい。父のシングスピールIREが初めての北米遠征、初めての日本の高速芝、初めてのドバイのダートをすべてこなしていることを考えれば、変化に対応する力とか、状況が変化したことで新たな力を発揮する資質は備えているのではないだろうか。母の父のキングマンボはエルコンドルパサーUSAの父であるというだけで万能ぶりが窺えるが、代表産駒にはアルカセットUSA、キングズベストの欧州組だけでなく、2歳時のフューチュリティSG1から4歳のウッドワードSG1まで毎年米国ダートのG1に勝ったレモンドロップキッドもいて、こちらにもダート対応の下地がある。サドラーズウェルズとキングマンボという両血脈の組み合わせもエルコンドルパサーUSAに通じるものだ。父系曽祖父がサドラーズウェルズで母の父がミスタープロスペクター系というのは一昨年の米国年度代表馬となったダートの名牝レーチェルアレクサンドラと同じパターンでもある。

 昨年の年度代表馬ゼニヤッタをブリーダーズCクラシックG1で破ったブレームはアーチ×シーキングザゴールド。父系曽祖父がロベルトで母の父の父がミスタープロスペクター系という配合。これがゼニヤッタでは父系曽祖父がミスタープロスペクターで母の父がロベルト直仔というふうに天地逆となる。いずれにしてもロベルトとミスタープロスペクターの相性の良さが分かる。バーディバーディはブレームと似たパターン。ブレームの祖母の父はニジンスキーなので、3代母がニジンスキー直仔の名牝という点でも似ている。グロースタークとヒズマジェスティ(祖母の父プレザントコロニーの父)というリボー直仔の全兄弟が揃っているあたりはいかにも大レース向き。▲フリオーソも配合の骨組みは同じで、こちらは父の初年度産駒でオークスを制したチョウカイキャロルや皐月賞馬ノーリーズン、天皇賞2着のビッグゴールドと同じ組み合わせ。

 セイクリムズンはアストニシメントGBに遡る牝系でオークス馬テンモンの出る分枝。父はフロリースカップGB系。小岩井2大牝系にノーザンダンサーやサンデーサイレンスUSAを加えた温故知新血統で、母の父サウスアトランティックIREや祖母の父ノーザンアンサーCANも昔のダート馬っぽくて良い。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.2.20
©Keiba Book