2011天皇賞・秋


トニービンの東京

 90年代後半のこのレースはトニービンIREとサンデーサイレンスUSAが激しい抗争を繰り広げていて、98年のサイレンススズカの一件を含めて鮮やかな印象を残す決着が続いた時代だった。トニービンIREは95年サクラチトセオー、97年エアグルーヴ、98年オフサイドトラップで3勝、サンデーサイレンスUSAは96年バブルガムフェロー、99年スペシャルウィークで2勝を挙げ、2着にサンデーサイレンスUSA産駒が多かったことを考えると質的にも量的にも互角の戦いが続いていた。しかし、2000年3月にトニービンIREが逝き、2002年に最大の傑作ジャングルポケットが引退すると、その直系は表舞台から姿を消した。
 しばらく母の父として裏方に徹していたトニービンIREは直仔ジャングルポケットの産駒が力を発揮するようになると次々と大レースに勝ち、トールポピーの優駿牝馬を皮切りに、秋華賞のアヴェンチュラまで直系の孫が7つのG1級レースを制した。このレースでは一昨年にカンパニーが初のタイトルを得ており、世代を改めてトニービンIRE系対サンデーサイレンスUSA系の戦いが続いていくことが示唆されている。今年はここまで、宝塚記念G1、スプリンターズSG1、南部杯を母の父トニービンIREが制し、秋華賞は父系祖父トニービンIREが勝った。そして今回はもともとトニービンIRE系が最も得意とする舞台。流れも場もトニービンIRE系に向いている。そこで、にはトーセンジョーダンを抜擢。母エヴリウィスパーはカンパニーの母ブリリアントベリーの全妹で、ほかのきょうだいにもマイラーズCのビッグショウリ、中山グランドジャンプのビッグテースト、ダート6勝のキョウエイフォルテ、種牡馬として成功しているスパイキュール、芝7勝のバトルバニヤンなど多芸多才な面々が揃う。それらを産んだ偉大な祖母クラフティワイフUSAの父であるクラフティプロスペクターはアグネスデジタルUSA出現まではただスピードがあるだけの血統と思われていたが、クラフティワイフUSAを通じて潜在的な万能性をアグネスデジタルUSA以前に示していた。母の父は大種牡馬にして大ブルードメアサイアーで、特にトニービンIREとの組み合わせによってサクラチトセオー、エアグルーヴを、トニービンIRE直仔との組み合わせによってカンパニーを出していて、このレースに照準を合わせたかのような配合。カンパニーとは84.38%までが同血で全兄弟に近い関係。ワンチャンスを逃さず捉えるトニービンIREらしさはジャングルポケット産駒では先代以上に先鋭的というか一生に一度的な傾向が強まっている。一世一代の脚を見せるとすればここだろう。

 母の父に回った場合のトニービンIREは父系として示すピーキーなグレイソヴリン的切れ味よりも、晩成型欧州ステイヤーとしての面を強く示し、アドマイヤグルーヴでもトランセンドでも、何度も強いシーズンを過ごすことができている。アーネストリーは昨年上半期、今年の上半期と強い競馬を見せた。そうかといって、強い強いとかさにかかって攻めると昨年秋のように失速するので、今年は慎重なステップを踏み、この下半期は札幌記念G2を回避、オールカマーG2で楽な相手に勝ってここに臨む。東京でまだ勝っていないのは巡り合わせの問題で、中山マイスターとされた父グラスワンダーUSAも産駒スクリーンヒーローはこのコースのジャパンCG1に勝った。祖母ダイナチャイナは85年のこのレースでシンボリルドルフを破ったギャロップダイナの全妹。


トニービン系の活躍 (レース名の太字は東京のGT級勝ち鞍)
トニービンIRE(牡、鹿毛、1983、父カンパラGB、母Severn Bridge、母の父Hornbeam)凱旋門賞G1、ジョッキ
        ークラブ大賞G1、ミラノ大賞G1×2など
  ウイニングチケット(牡、1990、母の父マルゼンスキー)東京優駿
  ベガ(牝、1990、母の父Northern Dancer)優駿牝馬
   | アドマイヤベガ(牡、1996、父サンデーサイレンスUSA)東京優駿
   | アドマイヤドン(牡、1999、父ティンバーカントリーUSA)フェブラリーS
  サクラチトセオー(牡、1990、母の父ノーザンテーストCAN)天皇賞(秋)
  ノースフライト(牝、1990、母の父ヒッティングアウェーUSA)安田記念、マイルチャンピオンシップ
  アイリッシュダンス(牝、1990、母の父Lyphard)
   | ハーツクライ(牡、2001、父サンデーサイレンスUSA)ドバイシーマクラシックG1、有馬記念
  ユメシバイ(牝、1990、母の父エルセンタウロARG)
   | ショウワモダン(牡、2004、父エアジハード)安田記念G1
  オフサイドトラップ(牡、1991、母の父ホスピタリティ)天皇賞(秋)
  エアグルーヴ(牝、1993、母の父ノーザンテーストCAN)優駿牝馬、天皇賞(秋)
   | アドマイヤグルーヴ(牝、2000、父サンデーサイレンスUSA)エリザベス女王杯×2、[3]天皇賞(秋)
  シネマスコープ(牝、1993、母の父スリルショーUSA)
   | トランセンド(牡、2006、父ワイルドラッシュUSA)フェブラリーSG1、南部杯
  グレースアドマイヤ(牝、1994、母の父Sadler's Wells)[2]府中牝馬S
   | ヴィクトリー(牡、2004、父ブライアンズタイムUSA)皐月賞
  レットルダムール(牝、1994、母の父ノーザンテーストCAN)
   | アーネストリー(牡、2005、父グラスワンダーUSA)宝塚記念G1
  ビッグモンロー(牝、1994、母の父マルゼンスキー)
   | ビッグウルフ(牡、2000、父アフリートCAN)ジャパンダートダービー
  ミラクルアドマイヤ(牡、1995、母の父Sadler's Wells)
   | カンパニー(牡、2001、母の父ノーザンテーストCAN)天皇賞(秋)
  エアトゥーレ(牝、1997、母の父Lyphard)阪神牝馬S
   | キャプテントゥーレ(牡、2005、父アグネスタキオン)皐月賞
  スプリングチケット(牝、1997、母の父マルゼンスキー)
   | カレンチャン(牝、2007、父クロフネUSA)スプリンターズSG1
  ジャングルポケット(牡、1998、母の父Nureyev)ジャパンCG1、東京優駿
   | ジャガーメイル(牡、2004、母の父サンデーサイレンスUSA)天皇賞(春)G1
   | クィーンスプマンテ(牝、2004、母の父サクラユタカオー)エリザベス女王杯G1
   | トールポピー(牝、2005、母の父サンデーサイレンスUSA)優駿牝馬
   | オウケンブルースリ(牡、2005、母の父Silver Deputy)菊花賞
   | Jungle Rocket(牝、2005、母の父ラストタイクーンIRE)WRCニュージーランドオークスG1
   | アヴェンチュラ(牝、2008、母の父サンデーサイレンスUSA)秋華賞G1
  レディパステル(牝、1998、母の父Blushing Groom)優駿牝馬
  テレグノシス(牡、1999、母の父ノーザンテーストCAN)NHKマイルC

 ブエナビスタの父スペシャルウィークは4歳時の99年に天皇賞(秋)、ジャパンCG1と連勝し、有馬記念をハナ差で落として引退した。その蹄跡を忠実に再現してきた娘としては、父が走らなかった5歳シーズンをどのように過ごせばいいのでしょうか?という戸惑いがあっても当然ではあるだろう。今年に入って勝ち星がなく、ぶっつけのG1で、直前の追い切りで遅れてということになると、さすがに燃え尽きたかと思う向きもあるだろう。しかし、負けたといっても能力の限界付近で負けているわけでもなく、相変わらずたまたま先着を許したという形なので、燃え尽きたという言葉に伴う悲壮感とは無縁。涼しい顔で昨年の再現という可能性は十分。

 ミッキードリームはローズキングダムと同じキングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAの先端配合。祖母スプリングコートの父としてトニービンIREが潜む点が東京での武器。祖母の半兄サクラバクシンオーは今年4月に永眠した偉大なスプリンター。サッカーボーイの甥の仔オルフェーヴル、シンボリルドルフの仇(?)の子孫アーネストリーに続く追悼ムードで選べば、忘れてならない一頭。4代母の産駒アンバーシャダイは春秋を通じて天皇賞に欠かせない名前でもあった。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2011.10.30
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