2010ヴィクトリアマイル


春の奇跡は繰り返す

 この春のフジキセキの好調は目をひくもので、キンシャサノキセキの高松宮記念、ダノンシャンティのNHKマイルCという2つのG1を含む6つの重賞に勝ち、サイアーランキングではキングカメハメハに次ぐ総合2位(JBIS発表、5月11日現在)につけている。クラシックを目前にして4戦全勝で引退したフジキセキは、サンデーサイレンスUSA後継種牡馬の長兄的存在だが、自身の現役時代を反映している部分もあるのか、リーディングサイアーにはならないし、産駒が旧8大競走に勝つこともないが、ランキングはつねにひと桁という無冠の帝王的な成績を残してきた。流れとしては3月にサンクラシークがドバイシーマクラシックG1を、ファイングレインが高松宮記念G1を制し、エイジアンウインズが5月のヴィクトリアマイルに勝った2008年の快進撃に似ている。そのころから「春に強いフジキセキ」ということがいわれはじめたので、下の表1に季節別成績をまとめてみた。これを作って分かったことだが、暑いとか寒いとかがどうこうというわけではなくて、適した条件が偏っていて、そういったレースの集まる時期に必然的に水揚げが増えるという傾向がある。いずれにしても、牝馬限定、1600mという条件は、コイウタとエイジアンウインズで過去2勝しているようにピッタリ。


表1) フジキセキ産駒の月別重賞勝ち鞍
重賞勝ち鞍
1月52000シンザン記念(ダイタクリーヴァ)、2001京都金杯(ダイタクリーヴァ)、2002京都金杯(ダイタクリーヴァ)、2006東京新聞杯(フジサイレンス)、2009川崎記念(カネヒキリ)
2月72003佐賀記念(エアピエール)、2006シルクロードS(タマモホットプレイ)、2006きさらぎ賞(ドリームパスポート)、2006クイーンC(コイウタ)、2006フェブラリーS(カネヒキリ)、2008シルクロードSG3(ファイングレイン)、2010シルクロードSG3(アルティマトゥーレ)
3月62000スプリングS(ダイタクリーヴァ)、2004中山牝馬S(オースミコスモ)、2008高松宮記念G1(ファイングレイン)、2010オーシャンSG3(キンシャサノキセキAUS)、2010毎日杯G3(ダノンシャンティ)、2010高松宮記念G1(キンシャサノキセキAUS)
4月42004フローラS(メイショウオスカル)、2004福島牝馬S(オースミコスモ)、2005福島牝馬S(メイショウオスカル)、2008阪神牝馬SG2(エイジアンウインズ)
5月52006兵庫チャンピオンシップ(グレイスティアラ)、2007ヴィクトリアマイル(コイウタ)、2008ヴィクトリアマイルG1(エイジアンウインズ)、2010新潟大賞典G3(ゴールデンダリア)、2010NHKマイルCG1(ダノンシャンティ)
6月12005ユニコーンS(カネヒキリ)
7月32005ジャパンダートダービー(カネヒキリ)、2006函館スプリントS(ビーナスライン)、2008函館スプリントS(キンシャサノキセキAUS)
8月42002クイーンS(ミツワトップレディ)、2003関屋記念(オースミコスモ)、2007新潟記念G3(ユメノシルシ)、2009クイーンSG3(ピエナビーナス)
9月82002新潟2歳S(ワナ)、2003セントウルS(テンシノキセキ)、2005ダービーグランプリ(カネヒキリ)、2006神戸新聞杯(ドリームパスポート)、2007新潟2歳S(エフティマイア)、2008小倉2歳S(デグラーティア)、2009新潟2歳S(シンメイフジ)、2009セントウルSG2(アルティマトゥーレ)
10月32004スワンS(タマモホットプレイ)、2005エーデルワイス賞(グレイスティアラ)、2009スワンSG2(キンシャサノキセキAUS)
11月22001ファンタジーS(キタサンヒボタン)、2005ジャパンCダート(カネヒキリ)
12月92000中日新聞杯(トウショウアンドレ)、2000鳴尾記念(ダイタクリーヴァ)、2000フェアリーS(テンシノキセキ)、2001中日新聞杯(グランパドドゥ)、2005全日本2歳優駿(グレイスティアラ)、2007ラジオNIKKEI賞2歳S(サブジェクト)、2008ジャパンCダートG1(カネヒキリ)、2008東京大賞典(カネヒキリ)、2009阪神CG2(キンシャサノキセキAUS)

 もうひとつ、このレースはエイジアンウインズ、ウオッカと2004年生まれが連勝中。この世代の牝馬からは8頭のG1/Jpn1勝ち馬が生まれ、それらが実に17もの大レース勝ちを収めた(表2)。過半数の9コが牡馬のタイトル横取りというのだから凄まじい。そのほとんどがウオッカとダイワスカーレットの業績だったとはいえ、条件級から叩き上げたクィーンスプマンテも昨年秋にエリザベス女王杯G1を大穴勝ちしているように、この世代の恐るべき力はまだまだ底が見えないと考えられる。


表2) 2004年生まれ牝馬のG1級勝ち鞍
馬名レース名
ウオッカタニノギムレット2006阪神ジュベナイルフィリーズ、2007東京優駿、2008安田記念G1、2008天皇賞(秋)G1、2009ヴィクトリアマイルG1、2009安田記念G1、2009ジャパンCG1
ダイワスカーレットアグネスタキオン2007桜花賞、2007秋華賞、2007エリザベス女王杯G1、2008有馬記念G1
ピンクカメオフレンチデピュティUSA2007NHKマイルC
ローブデコルテUSACozzene2007優駿牝馬
アストンマーチャンアドマイヤコジーン2007スプリンターズSG1
エイジアンウインズフジキセキ2008ヴィクトリアマイル
スリープレスナイトクロフネUSA2008スプリンターズSG1
クィーンスプマンテジャングルポケット2009エリザベス女王杯G1
(合計17勝)

 このようにフジキセキを縦糸に、2004年生世代を横糸とすると、その交わったところにうまいこと1頭いましたね、ウェディングフジコ。4勝を挙げた母ウェディングハニーは、5歳時の府中牝馬Sでメジロドーベルから0秒3差の3着がある。その父は東京血統のトニービンIRE。祖母の父はトウショウボーイだから、トニービンIREとの組み合わせではハイペリオンの近交となって、息の長い成長を下支えする働きを示しそうだ。牝系は近くに活躍馬こそいないものの、6代母の産駒キヨフジは川崎競馬から中央に転じてオークスを勝った名牝(その名を称えたキヨフジ記念が後年エンプレス杯となった)。1926年生まれの7代母ゴールデンダートGBが英国産の輸入牝馬で、その6代孫にセントライト記念に勝ったホスピタリティがいる。ダート経由で芝の大レースへという道は一族の偉大な先輩が辿ったものと同じ。

 ハイレベルな2004年産牝馬を乗り越えようかという能力を示しているのが、2006年生まれのブエナビスタとレッドディザイア。ドバイでの成果を見れば、国際的な実績という点では既に2004年世代を凌駕したともいえる。いずれも父がサンデーサイレンスUSA直仔のステイヤー、母の父がカーリアン、ブエナビスタの3代母サンタルチアナの孫がレッドディザイアの父マンハッタンカフェと共通の血脈が多く、ちょっとした近親よりも近い関係。父スペシャルウィークが東京で実績のある(ダービー、天皇賞・秋、ジャパンCG1)ということで、ブエナビスタを上位とするが、▲レッドディザイアももちろん差はない。

 ラドラーダはNHKマイルCG1・3着のリルダヴァルのイトコ。ディープインパクトの姪にあたる。どうもディープインパクトが偉大過ぎて、その関連血統というのは投資効率がよろしくないような気もするが、これだけサンデーサイレンスUSA系だらけだと、元は同じでも異質なロベルト系が力を発揮する可能性はある。ミスタープロスペクター系との組み合わせも大レース向きの要素。

 ヤマニンエマイユは父が大穴血統ホワイトマズルGBで母の父が東京血統トニービンIRE。祖母ワンオブアクラインUSAがオークリーフS(米G1)勝ち馬で、3代母ベアリーイーヴンの曾孫にスティルインラブとローブデコルテUSAという2頭のオークス馬がいる牝系も魅力がいっぱい。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.5.16
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