2010スプリンターズS


サクラユタカオーの静かな攻勢

 1984年に安田記念がハンデ戦でなくなり、マイルチャンピオンシップが創設された。そこで日本の1600m路線が確立したとすると、スプリント路線は遅れて1990年にスプリンターズSが国内G1に格付けされ、高松宮記念(高松宮杯)が1996年に1200mに短縮・再出発となったあたりで春秋・東西対称の形が整った。種牡馬選定の場としての機能をいえば、1600m路線はニホンピロウイナーをはじめ、多くの才能を発掘してきた。スプリント路線も初期には、このレースで1993、1994年と連覇を果たしたサクラバクシンオーや、短い期間ながら欧州で活躍したシンコウフォレスト、父仔2代制覇のキングヘイローなどが現れたが、最近はどうも今イチなのではないだろうか。これは日本に限ったことではなくて、ブリーダーズCスプリント勝ち馬からもガルチやチェロキーラン以降は大物といえる種牡馬は現れていないし、欧州でもスプリント出身の大物といえば近年はオアシスドリーム(レッドディザイアの難敵となるであろうミッドデイの父)くらいしか名前が思い浮かばない。なぜそうなったかは分からない。対照的にオーストラリアのスプリンターは欧州遠征をしばしば成功させていて、オセアニア産の香港馬も元気。そういう点だけ見ると、経済的に余裕があり、馬産に活気が溢れている状況でないと、競馬のカテゴリーとしては異端のスプリントまで高い質を維持できないということなのかもしれない。

 このところのスプリント路線は、ビリーヴやデュランダル、アドマイヤマックス、オレハマッテルゼ、スズカフェニックスといったサンデーサイレンスUSA直仔の潮が引いてしばらくたったことで、これまで抑えつけられてきた勢力にも活躍の芽が出てきた。特に今年はサクラバクシンオーの復権が目立つ。しかも、春には安田記念をエアジハード産駒のショウワモダンが制しており、サクラユタカオー系ということでは近年にない大攻勢となっている。奥ゆかしい日本血統なので、サンデーサイレンスUSA系のように根こそぎ持っていくようなことはないが、この勢いには注目しておくべきではないだろうか。ダッシャーゴーゴーは「セントウルSに勝ったサクラバクシンオー産駒」という点がミソ。サクラバクシンオー産駒はとかく平坦向き、G1では底力不足との評価があって、それは大体合っているわけだが、過去に直線坂のある阪神のセントウルSや阪急杯に勝ったものは高松宮記念やスプリンターズSでも勝ったり3着になったりしている例が多い。しかも、ミスタープロスペクター系最良のブルードメアサイアーであるミスワキが母の父で、祖母の父がリボー系で大レースで一発のあるキートゥザミント、更にヘイロー、ノーザンダンサーと大種牡馬ばかりを配合されたボトムラインは、サクラバクシンオーの速いが非力というイメージを払拭するだけの爆発力を備えている。


ちょっとした盛り上がりを見せるサクラユタカオー系
サクラユタカオー(牡、栗毛、1982年生、父テスコボーイGB、静内産)天皇賞・秋、毎日
   王冠、大阪杯、共同通信杯4歳S
 サクラバクシンオー(牡、鹿、1989、母の父ノーザンテーストCAN)スプリンターズS
 |    (2回)、スワンS、クリスタルC、ダービー卿チャレンジT、2着:マイルチャンピオンシッ
 |    プ
 | ショウナンカンプ(牡、鹿、1998、ラッキーソブリンUSA)高松宮記念、スワンS、阪急杯、
 |      3着:スプリンターズS
 | ロードバクシン(牡、鹿、1998、Cure the Blues)兵庫チャンピオンシップ
 | ブルーショットガン(牡、鹿、1999、スーパークリーク)阪急杯
 | メジロマイヤー(牡、栗、1999、サッカーボーイ)小倉大賞典、きさらぎ賞
 | シーイズトウショウ(牝、鹿、2000、トウショウフリート)セントウルS、CBC賞(2回)、函館
 |      スプリントS(2回)、2着:桜花賞、3着:高松宮記念
 | エイシンツルギザン(牡、黒鹿、2000、Fappiano)ニュージーランドT、2着:NHKマイルC
 | ジョイフルハート(牡、栗、2001、Topsider)北海道スプリントC
 | タイセイブレーヴ(牡、黒鹿、2001、Green Forest)兵庫ジュニアGP
 | デンシャミチ(牡、黒鹿、2003、マルゼンスキー)京王杯2歳S
 | サンダルフォン(牡、鹿、2003、ジェイドロバリーUSA)北九州記念G3
 | タイセイアトム(牡、鹿、2003、ヘクタープロテクターUSA)ガーネットS
 | カノヤザクラ(牝、栗、2004、Woodman)セントウルSG2、アイビスサマーダッシュG3、アイビ
 |      スサマーダッシュ、3着:スプリンターズSG1
 | ヘッドライナー(セン、鹿、2004、Nureyev)CBC賞G3
 | ニシノチャーミー(牝、栗、2004、ニシノエトランゼUSA)函館2歳S
 | アドマイヤホクト(牡、鹿、2004、カーネギーIRE)ファルコンS
 | サンクスノート(牝、鹿、2005、Halo)京王杯スプリングCG2
 | マルブツイースター(牡、鹿、2005、ウォーニングGB)小倉2歳S
 | ダッシャーゴーゴー(牡、鹿、2007、Miswaki)セントウルSG2
 | エーシンホワイティ(牡、鹿、2007、サンデーサイレンスUSA)ファルコンSG3
 エアジハード(牡、栗、1995、母の父ロイヤルスキーUSA)安田記念、マイルチャンピオン
     シップ、富士S、3着:天皇賞・秋
  アグネスラズベリ(牝、栗、2001、トニービンIRE)函館スプリントS
  ナナヨーヒマワリ(牡、栗、2001、セレスティアルストームUSA)マーチSG3
  ショウワモダン(牡、鹿、2004、トニービンIRE)安田記念G1ダービー卿チャレンジ
       TG3

青字は本年重賞勝ち馬

 グリーンバーディーNZは祖母の父ケンメア、母の父ラストタイクーンIRE、父の父デインヒルUSAとそのままシャトル種牡馬の現代史といえる配合。オーストラリアの血統の勢力図を考えれば、良血のラストタイクーンIRE牝馬なら半自動的にデインヒルUSA直仔の人気種牡馬に配合されることになるのだろうが、実際にこのパターンによって2008年の香港スプリント勝ち馬インスピレーションが出ているし、イトコで豪G1チッピングノートンSに勝ったカシノプリンスは父がデインヒルUSA直仔のフライングスパーなので3/4同血。信頼性の高い配合といえるだろう。ちなみに5代母レディケルズの曾孫コウユウは1968年の桜花賞を制して、社台ファーム生産馬として最初のクラシック馬となった。

 昨年3番人気となったオーストラリアのシーニックブラストAUSはサドラーズウェルズの孫だった。日本ではこの系統はある程度疑ってかかった方がいいのかもしれない。その全弟フェアリーキングは直仔シンコウキングが1997年の高松宮杯に勝っているように、スピードを求められる競馬への適性はサドラーズウェルズ系より高いのだが、やはりいくらか疑ってかかる必要はありそうだ。ウルトラファンタジーAUSの父エンコスタデラゴはオーストラリアのチャンピオンサイアー。日本とオーストラリアは種牡馬のシャトル供用が進んだことで、競馬の違いが明らかになってきた面もある。日本で成功するものがオーストラリアで成功しない──あるいはその逆──というケースが多い。そういうわけで、オーストラリアのチャンピオンサイアーの仔であれば、日本の競馬には向かないのではないかという論理も成り立つ。ワンカラットはフランス長距離血統の母にフェアリーキング直仔の配合。ある程度時計のかかる決着が望みだろう。

 ▲キンシャサノキセキAUSは日米欧混成血統のオーストラリア産馬で、ビービーガルダンはオセアニアの牝系にカナダの芝チャンピオン。このように世界のさまざまな地域に発した血統がごちゃ混ぜになってスプリント路線に集まってくるのは、偶然ではないのかもしれない。ごちゃ混ぜの中に爆発力が潜んでいる可能性がある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.10.3
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