2010秋華賞


大王様の娘はみな踊る

 3歳牝馬の芝重賞勝ち馬がサウンドバリアーを除いてすべて顔を揃え、この秋の前哨戦の結果を見ても上半期の序列にそれほど大きな変化がない。大荒れになったり堅かったりするこのレースも、こういった状況では、今年は荒れないと判断するのが妥当だろう。三冠のかかるアパパネは、初年度産駒が4歳となった今年早くもリーディングサイアーの座が見えてきたキングカメハメハの産駒。NHKマイルCとダービーを制した父の蹄跡をなぞるかのように、春は1600mでも2400mでも同じように強さを示した。ミスタープロスペクター系の父とデピュティミニスター系の母という組み合わせは、2007、2008年と2年連続で米年度代表馬となったカーリンに代表されるスピードとパワーの世界標準ともいえる配合。ただ、母ソルティビッドUSAは2歳時の札幌で新馬(ダ1000m)、オープン特別(芝1200m)と連勝し、3歳1月に菜の花賞(芝1200m)に勝ったスプリンター。こういった背景にとらわれ過ぎるのは良くないが、秋を迎えての違いが現れてくるとしたらその部分ではないかとも思う。

 キングカメハメハ自身は神戸新聞杯で5連勝を達成した後、屈腱炎を発症して天皇賞・秋を前に引退。初年度産駒も3歳秋以降の実績となるとゴールデンチケットがジャパンCダートG1で3着したくらい。産駒に秋以降、大きな成長があるのかどうか判断する材料には乏しい。しかし、同じキングマンボ系のキングズベスト産駒ワークフォースの強さは凱旋門賞G1で目の当たりにしたし、エルコンドルパサーUSA産駒には菊花賞馬ソングオブウインドのような成長力や、ヴァーミリアンのような持続力が備わっている。それから考えると、キングカメハメハ産駒にも常識に沿った成長力が備わっているだけでなく、まだ表に現れていない力を秘めている可能性がある。この秋の神戸新聞杯G2でダービー馬を破ったローズキングダムはキングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAの配合。2歳王者なので、もともと能力があるのは当然だが、前哨戦とはいえダービー馬を逆転できたのはサンデーサイレンスUSA血脈にサポートされた成長力ゆえといえないだろうか。下表に示したのは、サンデーサイレンスUSA牝馬とミスタープロスペクター系種牡馬の間に生まれた重賞勝ち馬。SS牝馬は大抵どんな血統とも合うので、特にミスタープロスペクター系が優れているというわけでもないが、キングマンボ系から突出した大物が出ていることは分かる。サンデーサイレンスUSAの祖母マウンテンフラワーがハイペリオン3×4、キングマンボの母の父ヌレエフがハイペリオン4×4という点以外に両者は共通の血脈を持たないが、このアウトブリードは互いの良さを高め合う効果のある優れたものだといえる。そのパターンによるクラックシードは祖母ファビラスラフインFRが第1回の勝ち馬。秋華賞の直後にはジャパンCG1でシングスピールIREからハナ差の2着になったのだから、一瞬の輝きではエアグルーヴに劣らない名牝だった。3代母はカドラン賞の勝ち馬。4000mの仏G1だけに、レベル的にはともかくユニークな能力を備えていたのは確か。ファビラスラフインFRの直仔には重賞レベルは出ておらず、忘れな草賞2着の母が最も高い能力を持っていたと思えるが、名牝から1代スキップして大物が出る例は多い。


 ミスタープロスペクター系種牡馬
      ×サンデーサイレンスUSA牝馬の成功例
 MR. PROSPECTOR(牡、鹿毛、1970年生)
  Crafty Prospector(栗、1979)
   | アグネスデジタルUSA(栗、1997)
   |   ヤマニンキングリー(牡、栗、2005)札幌記念G2、中日新聞杯G3
   |   ドリームシグナル(牡、栗、2005)シンザン記念
   |   グランプリエンゼル(牝、栃栗、2006)函館スプリントS
  Woodman(栗、1983)
   | ティンバーカントリーUSA(栗、1992)
   |   スズノマーチ(牡、栗、2000)エプソムC
  アフリートCAN(栗、1984)
   | サカラート(牡、栗、2000)日本テレビ杯、東海S、ブリーダーズGC、マーキュリーC
  フォーティナイナーUSA(栗、1985)
   | エンドスウィープUSA(鹿、1991)
   |  | スウェプトオーヴァーボードUSA(芦、1997)
   |  |  | Florentino(牡、鹿、2006)ジェファースンCS米G2
   |  | ラインクラフト(牝、鹿、2002)桜花賞NHKマイルC、フィリーズレビュー、阪神
   |  |  |   牝馬S、ファンタジーS

   |  | アドマイヤムーン(牡、鹿、2003)ジャパンCG1宝塚記念G1ドバイデュー
   |  |     ティフリーG1、京都記念G2、札幌記念、弥生賞、共同通信杯、札幌2歳S

   | トワイニングUSA(栗、1991)
   |  | ロールオブザダイス(牡、栗、2005)平安S
   |  | フサイチアソート(せん、栗、2005)東スポ杯2歳S
   | シャドウスケイプ(牡、栗、1999)根岸S、クラスターC
  スキャンUSA(鹿、1988)
   | ナンヨーリバー(牡、黒鹿、2005)兵庫チャンピオンシップ
  Kingmambo(鹿、1990)
   | エルコンドルパサーUSA(黒鹿、1995)
   |  | ヴァーミリアン(牡、黒鹿、2002)フェブラリーSG1ジャパンカップダートG1
   |  |  |   帝王賞東京大賞典川崎記念(2回)、JBCクラシック(3回)、名古屋GP、
   |  |  |   ダイオライト記念、浦和記念、ラジオたんぱ杯2歳S

   |  | ソングオブウインド(牡、青鹿、2003)菊花賞
   |  | ラピッドオレンジ(牝、鹿、2003)TCK女王杯
   | キングカメハメハ(鹿、2001)
   |   ゴールデンチケット(牡、黒鹿、2006)兵庫チャンピオンシップ
   |   ローズキングダム(牡、黒鹿、2007)朝日杯FS、神戸新聞杯G2、東スポ杯2
   |       歳S

  Our Emblem(黒鹿、1991)
    ウォーエンブレムUSA(青鹿、1999)
      エアパスカル(牝、黒鹿、2005)チューリップ賞
      キングスエンブレム(牡、青、2005)シリウスSG3

 キングカメハメハvsゼンノロブロイの構図は秋も続いているようで、今回も質量ともに拮抗している。ゼンノロブロイはサイレンススズカと同じく、サンデーサイレンスUSAとミスタープロスペクターの組み合わせの成功例のひとつ。いずれにしてもミスタープロスペクター血脈がポストSS時代のキーマンとなっていることを示しているようだ。▲サンテミリオンの母モテックFRは3歳秋、平地シーズン終盤のフロール賞仏G3(2100m)に勝った晩成型。ミルリーフ3×3という欧州らしい配合でもあったので、娘も秋を迎えて大きな成長が期待できる。SS直仔で特に米国血脈の強いこの父と、欧州色の濃い母をバックパサー5×5でつなぐ技巧的な配合でもある。

 バゴが勝った2004年の凱旋門賞G1は今年と同じ19頭が争い、日本からはタップダンスシチーUSAが遠征していた。このオウケンサクラだけでなく、牡馬にも菊花賞出走権を確保したものが出てきたあたり、何だかんだいっても凱旋門賞馬の底力なのだろう。母ランフォザドリームは朝日CCとマーメイドSに勝ち、エリザベス女王杯で2着。祖母ミルフォードスルーはシンザン記念、函館3歳Sに勝ち、阪神3歳Sでイブキマイカグラの3着となった。3代母スピードキヨフジの孫には南関東の名牝ロジータがいて、その子孫に帝王賞のカネツフルーヴや川崎記念のレギュラーメンバーが出た活気のあるファミリー。特に母の父リアルシャダイUSAはブルードメアサイアーに回っても大レースでの大駆けがある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.10.17
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