2010菊花賞


過去の遺物か未来への遺産か

 菊花賞が2週間早く10月に行われるようになって10年が過ぎた。そこで経過観察の結果を下表に示してみた。菊花賞に勝ったら有馬記念で古馬と初対決というケースが減り、次走がジャパンCだったり、香港だったり、その後の路線は多様化している。当初は日程変更に賛否両論あったとはいえ、こうして見ると何もしないより良かったのかもしれないと思える。たとえば9月に行われる英セントレジャーG1には、勝てば10月の凱旋門賞G1、11月のブリーダーズCターフG1と2つのチャンピオン戦を走れる可能性がある。菊花賞G1にもその後の選択肢が複数あるのは良いことだろう。種牡馬としての価値をいえば1600〜2000mが重んじられるのが現代的で経済的で合理的ということのはずだが、アメリカでもヨーロッパでもそうやって選抜した結果、昨今の種牡馬にこれといって見るべきものがいない。意外に周辺部を構成するスプリンターやステイヤーから中央を脅かすものが突如現れるかもしれない。特に3歳限定の超長距離G1は今や世界で菊花賞G1と英セントレジャーG1の2つだけ。どちらも格を落とさず存続することが競馬の未来へ血統のバイパスを確保しておくことになるのではないだろうか。

 菊花賞馬のその後
11月施行10月施行
年度 勝ち馬次走その後のG1級勝利年度 勝ち馬次走その後のG1級勝利
1990メジロマックイーン91阪神大賞典1着天皇賞(春)など2000エアシャカール00ジャパンCG1・14着  −
91レオダーバン92有馬記念13着  −01マンハッタンカフェ01有馬記念1着天皇賞(春)
92ライスシャワー92有馬記念8着天皇賞(春)など02ヒシミラクル02有馬記念11着宝塚記念G1など
93ビワハヤヒデ93有馬記念2着天皇賞(春)など03ザッツザプレンティ03ジャパンCG1・3着  −
94ナリタブライアン94有馬記念1着  −04デルタブルース04ジャパンCG1・3着メルボルンCG1
95マヤノトップガン95有馬記念1着宝塚記念など05ディープインパクト05有馬記念2着ジャパンCG1など
96ダンスインザダーク  −  −06ソングオブウインド06香港ヴァーズG1・4着  −
97マチカネフクキタル98金鯱賞6着  −07アサクサキングス08大阪杯G2・3着  −
98セイウンスカイ98有馬記念4着  −08オウケンブルースリ08ジャパンCG1・5着  −
99ナリタトップロード99有馬記念7着  −09スリーロールス09有馬記念 中止  −

 カナダ三冠はクイーンズプレート(ダ10f、現在はポリトラック10f)→プリンスオブウェールズS(ダ9.5f)→ブリーダーズS(芝12f)で構成される。国内産馬限定戦なので今では国際グレードを失い、そこから強豪が巣立つこともなくなったが、かつてはノーザンダンサーがクイーンズプレートに凱旋出走したり、三冠を達成した女傑ダンススマートリーが米国でもブリーダーズCディスタフG1に勝ったり、なかなか華やかなものだった。その三冠最終戦・ブリーダーズSで重賞初制覇を果たしたのがチーフベアハートCAN。ブリーダーズSを菊花賞になぞらえるのは相当に無理があるが、、翌年以降のチーフベアハートCANはブリーダーズCターフG1制覇を含む快進撃を続け、97年の米最優秀芝牡馬、97、98年のカナダ年度代表馬に選ばれている。このあたりがカナダ三冠の、そして米国芝戦線の最後の輝きといえる時代だったのではないだろうか。その後ジャパンCG1(98年エルコンドルパサーUSAの4着)を最後に、420万ドルでJRAに購買されて日本で種牡馬となったわけだが、3年目の産駒から2歳チャンピオン・マイネルレコルト、4年目マイネルキッツ、5年目ビービーガルダンと年を追って良駒を出すようになっている……というよりは、種牡馬ランキングは毎年30位前後にいて、思わぬタイミングで思わぬ大物を送り出す場合が多い。ダンチヒ系の捉えどころのなさが良い方に出た例といえるだろう。トウカイメロディはそんな父の8年目、2006年の種付けによる産駒。その年は57頭の種付けで、2005年121頭、2007年の130頭に比べると量的には谷間のような世代だが、10月19日現在でアーニングインデックスは1.14とむしろ1つ上の世代(0.95)よりもいい。母の父ジェネラスIREは90年代初頭の名馬。現在、大井競馬場で騎乗中のアラン・ムンロを背に英ダービーG1・5馬身、愛ダービーG1・3馬身、キングジョージVI世&クイーンエリザベスSG1・7馬身とち切った強さは圧倒的で、特に“キングジョージ”でつけた着差は今年ハービンジャー(11馬身)に破られるまで同レース史上最大のものだった。祖母の父リアルシャダイUSAは直仔に菊花賞馬ライスシャワー、菊花賞2着馬イブキマイカグラ、ステージチャンプを出し、母の父としても春の天皇賞馬イングランディーレ、アドマイヤジュピタを出す超長距離プロフェッショナル血統。トウカイメロディのちょっと詰まった馬体も、この祖母の父の影響が大きいのではないだろうか。血統表の4代目には1973年の三冠馬セクレタリアト(父の父の母の父)と、同年のケンタッキーダービーG1、プリークネスSG1で2着だったシャム(3代母の父)が並ぶのも面白いところ。

 キングマンボ系はエルコンドルパサーUSA産駒のソングオブウインドが2006年に勝った。ローズキングダムは中距離で発揮する切れ味の印象が強い“バラ一族”だが、母がエリザベス女王杯2着、叔父ローゼンクロイツが菊花賞3着など、長距離でもそれなりの力を発揮できる。特に主流といえるこの系統は、欧州型長距離血統シャーリーハイツ、万能サンデーサイレンスと潜ってきた。この父との配合では、ミルリーフ5×4のインブリードともなる。アパパネが示した父の血の順応性の高さも考えれば、3000mを難なくこなす可能性は高い。

 マンハッタンカフェの産駒が今回の最大派閥。これまでの代表産駒レッドディザイアやジョーカプチーノを見る限り、種牡馬として超長距離向きとはいえないが、こういった傾向は年を追って変わるものであり、5頭を送り込んできたという事実を重く見るべきなのかも。▲ヒルノダムールは母の父がラムタラUSA。95年に英ダービーG1、“キングジョージ”、凱旋門賞G1を勝ったジェネラスIRE以来の名馬で、3000万ドルの高額で種牡馬として輸入された。種牡馬としてはその額に見合う成功を収められず英国に買い戻されたが、サンデーサイレンスやミスタープロスペクターといったスピードのある系統と組み合わされれば、その底力は生かされる可能性がある。ニジンスキー系だからマンハッタンカフェとの配合はレッドディザイアに似た面がある。祖母は仏マルセルブーサック賞G1勝ち馬。豊富な欧州血脈がスタミナの裏付けとなりそうだ。因縁めいた面白さがあるのがアロマカフェ。3代母は桜花賞馬ブロケードを産んだ名牝で、曾孫には父の勝った2001年に逃げ粘って大穴を演出したマイネルデスポットがいる。遠く離れた分枝とはいえ、メジロマックイーンの出たアストニシメントGB系でもある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.10.24
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