2010有馬記念


帰ってきた野望

 第1回から牝馬のメアジードーツが勝っているジャパンCのように海外の牝馬が牡馬を蹴散らす場合はあっても、それを別にすると、牝馬による秋の古馬3大競走制覇は80年のプリテイキャストから97年のエアグルーヴまで長いブランクがあった。それゆえにエアグルーヴは大変な名牝という評価を受けることになる。しかし、反対に“牝馬の時代”が最盛期を迎えた08年以降は、これら3レースに牡馬で1位入線を果たしたものはスクリーンヒーロー、カンパニー、ドリームジャーニーの3頭しかいない。牡馬にとっては大変な時代になったものだ。そして今回、ブエナビスタが(入線順でいうと)04年ゼンノロブロイ以来のグランドスラムに挑む。そのゼンノロブロイから6年にわたって勝ち馬はサンデーサイレンスUSA直系から出ており、その間、サンデーサイレンスUSAの血を持たずに3着以内に入ったのはタップダンスシチーUSAとアドマイヤモナークの2頭だけ。それほど近年はSS占有度が高い。3代母サンタルチアナの孫に01年の勝ち馬マンハッタンカフェが現れる牝系もこのレースに縁が深い。ただ、父のスペシャルウィークは99年に天皇賞・秋レコード勝ち、ジャパンCG1を1 1/2馬身差で完勝し、最後の有馬記念でグラスワンダーUSAをハナだけ捉えられなかった。前走の降着で厄払いは済んだと考えれば今回はスッキリ勝つ順番だが、律儀に父の成績をなぞる可能性もないとはいえない。

ジャパンカップ創設後の“秋の古馬3大競走”1位入線馬一覧
年度天皇賞・秋ジャパンC有馬記念
1981ホウヨウボーイメアジードーツUSA fアンバーシャダイ
82メジロティターンハーフアイストUSAヒカリデユール
83キョウエイプロミススタネーラIRE fリードホーユー
84ミスターシービーカツラギエースシンボリルドルフ
85ギャロップダイナシンボリルドルフシンボリルドルフ
86サクラユタカオージュピターアイランドGBダイナガリバー
87ニッポーテイオールグロリューGBメジロデュレン
88タマモクロスペイザバトラーUSAオグリキャップ
89スーパークリークホーリックスNZ fイナリワン
90ヤエノムテキベタールースンアップAUSオグリキャップ
91メジロマックイーン ×ゴールデンフェザントUSAダイユウサク
92レッツゴーターキントウカイテイオーメジロパーマー
93ヤマニンゼファーレガシーワールドトウカイテイオー
94ネーハイシーザーマーベラスクラウンナリタブライアン
95サクラチトセオーランドGERマヤノトップガン
96バブルガムフェローシングスピールIREサクラローレル
97エアグルーヴ fピルサドスキーIREシルクジャスティス
98オフサイドトラップエルコンドルパサーUSAグラスワンダーUSA
99スペシャルウィークスペシャルウィークグラスワンダーUSA
2000テイエムオペラオーテイエムオペラオーテイエムオペラオー
01アグネスデジタルUSAジャングルポケットマンハッタンカフェ
02シンボリクリスエスUSAファルブラヴIREシンボリクリスエスUSA
03シンボリクリスエスUSAタップダンスシチーUSAシンボリクリスエスUSA
04ゼンノロブロイゼンノロブロイゼンノロブロイ
05ヘヴンリーロマンス fアルカセットUSAハーツクライ
06ダイワメジャーディープインパクトディープインパクト
07メイショウサムソンアドマイヤムーンマツリダゴッホ
08ウオッカ fスクリーンヒーローダイワスカーレット f
09カンパニーウオッカ fドリームジャーニー
10ブエナビスタ fブエナビスタ f × 
f は牝馬、×は降着、天皇賞・秋は1983年まで3200m


 スペシャルウィークが敗れたのは同期のグラスワンダーUSA。その役を演じるとすれば、ブエナビスタが同期の牝馬で唯一先着を許したことのあるレッドディザイアではないだろうか。同じサンデーサイレンスUSA系で母の父がカーリアンという、血統的には鏡像とさえいえる2頭だが、ブエナビスタとの違いのひとつは祖母の父サドラーズウェルズの存在。08年2着のアドマイヤモナークの父系祖父がサドラーズウェルズであり、06年2着のポップロックの父系祖父フェアリーキングがサドラーズウェルズの全弟であることを考えると、この時期の中山2500mで最後のひと踏ん張りを支えるのに有効な血脈ともいえる。ドバイでブエナビスタを破ったダーレミもサドラーズウェルズの孫だから、ブエナビスタにない何かを求めるとすればその点。ドバイ以降の2頭は対照的な成績で、こちらがより困難な道を歩いてきたが、凱旋門賞G1大敗後のタップダンスシチーUSAやジャパンCG1のヴィクトワールピサのように、海外遠征での経験はどこかで生き、苦労は報われるものだろう。ちなみに、有馬記念親子制覇が達成されれば、シンボリルドルフ=トウカイテイオー以来17年ぶり2組目となる。

 このレースにおける主流がサンデーサイレンスUSA、重要血脈のひとつがサドラーズウェルズとすると、もうひとつ、ノーザンテーストCANも忘れてはならない。かつてのミスター有馬記念アンバーシャダイ、ダイナガリバーとギャロップダイナのワンツーといった直仔の活躍以外に、近年でもダイワメジャーとダイワスカーレットの兄妹、エアシェイディの母の父として、衰えぬ影響力を示している。今回ノーザンテーストCAN血脈を持っているのは娘の仔トーセンジョーダン、ノーザンテーストCANを母の父に持つエアグルーヴの産駒フォゲッタブルとルーラーシップ、そしてステイゴールド産駒のドリームジャーニーとジャミールの5頭。この中で恐らく最も人気薄で、しかもサンデーサイレンスUSA、サドラーズウェルズ、ノーザンテーストCANと3本揃っているのが▲ジャミール。半兄アルジャーリフはアイルランドでデビューしてドイツに移籍、そこから英仏はもとよりスロヴァキアやオーストリアにも遠征して18勝を挙げた準重賞レベルのステイヤー。祖母はリブルスデールS英G2(12F)3着のやはりステイヤーで、その曾孫ジャンゴは今夏のデンマークでスカンジナヴィアンオープンチャンピオンシップG3に勝った。辺境の地で強い牝系という点では日本に向くのかもしれない。フォルティノFR産駒の3代母ピジェットは愛1000ギニーG1、愛セントレジャーG1に勝った名牝だ。ステイゴールドにとっては、勝てば昨年のドリームジャーニーの宝塚記念G1から数えて“グランプリ”4連勝の快挙となる。

 97年のエアグルーヴは天皇賞・秋に勝った後、ジャパンCG1はピルサドスキーIREからクビ差の2着、有馬記念はマーベラスサンデーとのマッチレースと見えたところをシルクジャスティスの強襲に遭い3着に終わった。繁殖入りすると初仔アドマイヤグルーヴがいきなり代表産駒確定といえる活躍を示したが、今回は息子の2頭出しで“女系の名門”の新たな展開を見せている。フォゲッタブルルーラーシップの兄弟では、サンデーサイレンスUSA血脈を持つぶん兄有利かもしれない。これらエアグルーヴ産駒を買うなら、マーベラスサンデー産駒のネヴァブションにも注意を払っておきたい。宝塚記念勝ちの父は、エアグルーヴに先着を果たしたその前年にもサクラローレルの2着となっている有馬シルバーコレクター。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.12.26
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