2010天皇賞・秋


天皇賞(秋)血統の新展開

 かつては「東京のトニービンIRE」といわれたもので、ウイニングチケットやジャングルポケットらをはじめとする直仔の東京での大レース勝ちは、天皇賞(秋)3、オークス3、ダービー2、ジャパンC1、安田記念1、NHKマイルC1の合計11を数えた。中でも父トニービンIRE、母の父ノーザンテーストCANの配合には下表に示した通りサクラチトセオー、エアグルーヴといった天皇賞(秋)の勝ち馬、NHKマイルCのテレグノシスが出ていて、鮮やかな切れ味がこのコースで生きた。2000年に世を去ったトニービンIREの直仔は2008年を最後に競馬場から姿を消したが、昨年は父がトニービンIRE直仔ミラクルアドマイヤ、母の父ノーザンテーストCANのカンパニーが勝ち、その血の威力が代を経ても落ちないことを示している。アーネストリーは母がトニービンIRE×ノーザンテーストCANの組み合わせ。祖母の全兄ギャロップダイナは1985年のこのレースでシンボリルドルフを破る大金星(単勝8820円)を挙げ、翌年には安田記念も勝った。伯父のアグネスカミカゼも目黒記念の勝ち馬なので牝系からは高い東京コースの適性が窺える。父のグラスワンダーUSAは安田記念敗退などもあって東京苦手説が囁かれたりもしたが、産駒スクリーンヒーローがジャパンCG1を制して昨年このレースで2着。他にもオースミグラスワンやサクラメガワンダーが左回りの重賞を勝ちまくっているので、そのあたりの心配は払拭されている。また、サンデーサイレンスUSA血脈を持たないのは今回のメンバーでは少数派に属するが、過去3年の勝ち馬の血統表にもサンデーサイレンスUSAの名前はない。非サンデーサイレンスUSA派がサンデーサイレンスUSA派を抑える流れができている可能性もある。


かつての黄金の組み合わせ
トニービンIRE×ノーザンテーストCAN
エアグルーヴ (牝、鹿毛、1993)天皇賞(秋)優駿牝馬、札幌記念×2、大阪杯、チューリップ賞、マーメイドS、2着:ジャパンCG1×2、阪神3歳牝馬S、3着:有馬記念、宝塚記念、エリザベス女王杯
サクラチトセオー (牡、黒鹿毛、1990年生)天皇賞(秋)、中山記念、アメリカJCC、京王杯AH、2着:安田記念、3着:有馬記念
テレグノシス (牡、鹿毛、1999)NHKマイルC、京王杯スプリングCG2、毎日王冠G2、2着:安田記念G1、3着:ジャックルマロワ賞G1、マイルチャンピオンシップG1
ナリタセンチュリー (牡、鹿毛、1999)京都大賞典G2、京都記念、2着:宝塚記念G1
エモシオン (牡、鹿毛、1995)京都記念
レニングラード (牡、栗毛、1999)アルゼンチン共和国杯

 それでも、逆転があるとすればやはりサンデーサイレンスUSA血脈で、直仔が2004年と2005年に1〜3着、2006年に1、2着を占めた底力は軽く扱えない。ジャガーメイルはトニービンIRE×ノーザンテーストCANにサンデーサイレンスUSAを加えた天皇賞向きのアレンジ。トニービンIREの代表産駒とノーザンテーストCANにサンデーサイレンスUSAが挟まる形になっている。天皇賞の春秋制覇はこれまでタマモクロス、スーパークリーク、スペシャルウィーク、テイエムオペラオー、メイショウサムソンが達成しているが、それらに比べても2000mに向く近代的なスピードの要素では優れているように見える。ちなみに、父がナスルーラ系とヌレエフの組み合わせで、母がサンデーサイレンスUSAとノーザンダンサー直仔の組み合わせという構成は先週の菊花賞に勝ったビッグウィークと共通する。オーソドックスな手法を重ねて、見事に能力の上積みに成功した例といえるのではないか。

 ▲キャプテントゥーレの母エアトゥーレは阪神牝馬S勝ち馬で、トニービンIRE牝馬として屈指の良血といえる。祖母スキーパラダイスUSAはムーランドロンシャン賞仏G1に勝ち、日本でも京王杯スプリングCに勝った。桜花賞馬アグネスフローラと3代母でエイコーンS米G1勝ち馬スキーゴーグルを通じてのロイヤルスキーUSA3×4となっており、同馬の日米の代表産駒を通じたインブリードだけに余計にマイラー志向が強まっているのかもしれないが、父アグネスタキオンとトニービンIREの爆発力がうまく噛み合えば、一発があっていい。

 △ブエナビスタの父スペシャルウィークは今でいう4歳時、1999年のこのレースに勝った。天皇賞(春)に勝って宝塚記念2着で上半期を終えていて、天皇賞(秋)を迎える時点での戦績は[8.3.2.1]だから、図らずも娘はそれにそっくりな過程をたどってきたことになる。母の父の影響も強そうなので休み明けは心配ないし、ドイツ牝系に蓄積された力は4歳秋を迎えての成長を後押しするだろう。

 初年度産駒から菊花賞馬を送り出したバゴFRは2004年の凱旋門賞馬で、ニアルコス家の牝系に1980年代最後の名馬ナシュワンを配した高級な血統を誇る。その牝馬の代表産駒であるオウケンサクラは母ランフォザドリームが朝日チャレンジCなど重賞2勝。1998年のエリザベス女王杯ではメジロドーベルの2着となり、エアグルーヴに先着した。祖母ミルフォードスルーはシンザン記念など重賞2勝。3代母の子孫は南関東の名牝ロジータを起点にカネツフルーヴやレギュラーメンバーなどが現れて大成功している。9代遡った牝祖チップトップUSAから9代下ると、6日にブリーダーズCクラシックG1に挑むエスポワールシチーが現れる。日米G1制覇の偉業達成の可能性は、アーネストリーの佐藤哲三騎手だけでなく、米国に発し、日本で100年を過ごした牝系チップトップUSAにもある。

 トウショウシロッコの血統にはトニービンIREが隠れている。父アドマイヤベガの母の父。アドマイヤベガはダービーに勝ってトニービンIREがブルードメアサイアーとしても東京で強いことを示したし、種牡馬としては桜花賞のキストゥヘヴン、マイルチャンピオンシップG1のブルーメンブラットなど人気薄でも大レースで優れた切れ味を発揮する産駒を送り出した。母の父ニッポーテイオーは1987年のこのレースでレジェンドテイオーに5馬身差をつけて圧勝している。ちなみに、これは2000mになってからのレース史上最大着差で、1991年秋のメジロマックイーンはプレクラスニーに6馬身差をつけて1位入線したが、進路妨害で降着になってしまった。

 シンボリクリスエスUSA産駒のアリゼオとゼンノロブロイ産駒のペルーサにも、それぞれ父仔制覇の可能性がある。種牡馬としてはゼンノロブロイが早くも先輩を追い越しそうな勢いにあるが、毎日王冠はシンボリクリスエスUSAが意地を示したようだ。アリゼオの母のフジキセキ×パドスールGBの配合はちょっと興味深いもので、フジキセキの4代母とパドスールGBの父ミルリーフの母がいずれもミランミル。したがって同馬の5×4となる。このミランミルを介したミルリーフとフジキセキの繋がりは、NHKマイルCに勝ったダノンシャンティにも見られた。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2010.10.31
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