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昨年の覇者ウオッカはその前年のダービー馬。ダービー馬がその後1600m以下の重賞に勝ったのは、カツラノハイセイコが勝った81年のマイラーズC以来のこと。欧州に似た例を探しても、近年ではエリシオが2400mのG1凱旋門賞に勝った翌年に1600mのG1ムーランドロンシャン賞で2着になったことがある程度。ウオッカには無類の東京好きという事情があるにせよ、このような新規路線開拓能力はこの名牝のユニークさのひとつ。それに倣ったわけでもないだろうが、昨年のダービー馬ディープスカイも同様の道を選んだ。こちらはダービー前にNHKマイルCに勝った実績を持つが、3歳春の時点での1600m戦と歴戦の古馬のそれでは求められるタフさに大きな差がある。むしろこのレースでは、NHKマイルCに勝つようなマイル適性よりダービー馬の底力の方が信頼性が高い可能性もある。 ◎ディープスカイと同じ世代のアグネスタキオン産駒からはG1エリザベス女王杯のリトルアマポーラ、皐月賞のキャプテントゥーレが出ている。種付け頭数は初年度から4年目(現3歳)まで、そう大きく違うわけではないので、4歳世代の質の高さは明らか。ダイワスカーレットの一点豪華主義だったひとつ上の世代に比べても、随分と層の厚さが増した。あとは、それらがダイワスカーレットのように成長を続け、長く能力を維持できるかどうかということになる。ディープスカイの場合、心強いのは母アビGBの血の奥深さ。下表に示したように、牝系はミスカーミー系。G1だけに絞らないと、表の大きさがとんでもないことになってしまうという名門で、特に80年代からタップダンスシチーUSAの登場までは3年に1頭くらいのハイペースでG1馬を送り出してきた。ディープスカイはタップダンスシチーUSA以来、満を持して登場した大物ということもできる。母の兄には、表からは漏れたが独2000ギニーなど4つのG2に勝ったロイヤルドラゴンがおり、その4つのうち3つが1600mと高いマイル適性も窺える。母の父チーフズクラウンはこの名門の代表ともいえる存在なので、ミスカーミー4×3の近交となっていて、そこにダンチヒやキートゥザミント、セクレタリアトが絡む母の配合は、典型的米国血脈でありながら重厚で奥が深い。この父との組み合わせでは、ロイヤルスキーUSA的なスピードやサンデーサイレンスUSAの爆発力と底力、そしてアグネスレディーの持つ日本在来血脈の良さと、能力の引き出しをたくさん持っていると考えられる。 |
| ミスカーミー系の活躍馬(G1級を抜粋) |
| MISS CARMIE(1966年生、牝、鹿毛、父T.V. Lark)米11戦3勝、クリプセッタS Chris Evert(1971、牝、栗、Swoon's Son)エイコーンSG1、マザーグースSG1、 | CCAオークスG1 | Six Crowns(1976、牝、栗、Secretariat) | | Chief's Crown(1982、牡、鹿、Danzig)BCジュヴェナイルG1、トラヴァ | | ーズSG1、フラミンゴSG1、ホープフルSG1、ノーフォークSG1 | | クラシッククラウンUSA(1985、牝、鹿、Mr. Prospector)フリゼットSG1、 | | ガゼルHG1 | Center Court Star(1981、牝、栗、Secretariat) | Lambent Light(1993、牡、鹿、Capote)シャープエレクトロニクスCG1 | (南ア) Carmelize(1972、牝、黒鹿、Cornish Prince) | Carmelized(1990、牝、鹿、Key to the Mint) | アビGB(1995、牝、栗、Chief's Crown) | ディープスカイ(2005、牡、栗、アグネスタキオン) All Rainbows(1973、牝、鹿、Bold Hour) | All Dance(1978、牝、鹿、Northern Dancer) | | タップダンスシチーUSA(1997、牡、鹿、Pleasant Tap)ジャパンCG1、 | | 宝塚記念G1 | Winning Colors(1985、牝、芦、Caro)ケンタッキーダービーG1、サンタア | ニタダービーG1、サンタアニタオークスG1 Charmie Carmie(1979、牝、鹿、Lyphard) | Faaz(1989、牡、鹿、Fappiano)ペルージョッキークラブ賞G1(ペルー)、イン | デペンデンシア賞G1(ペルー)、モンテリコ競馬場賞G1(ペルー) Missed the Wedding(1985、牝、鹿、Blushing Groom) | Missed the Storm(1990、牝、黒鹿、Storm Cat)テストSG1 Whisper Who Dares(1986、牝、栗、Green Dancer) Confessional(1996、牝、芦、Holy Bull)フリゼットSG1 |
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○ウオッカのここ一番の爆発力は実にブライアンズタイムUSA系らしいものだが、いったん下降線を辿りながら再び盛り返してくる渋太さにはブライアンズタイムUSA系らしからぬものがある。ただ、それだけに、前走の鮮やかさとドバイでの負け方の落差がいよいよ不思議になってきたのも事実。このあたりはシカンブル3×4の父の母、グロースターク3×4の父といった難しい血を多く抱える父の、両刃の剣といえる面かもしれない。 メイショウサムソンを出したガーネット分枝、ウオッカを出したワカシラオキ分枝と、このところ復興急なのが名門フロリースカップGB系。▲トウショウカレッジはウオッカの3代母コーニストウショウの孫で、桜花賞馬シスタートウショウの甥。03年の桜花賞で13番人気で2着に入ったシーイズトウショウ(その後重賞5勝)はイトコになる。シャトルの草分けで世界的大種牡馬の父ラストタイクーンIREが日本で出した唯一のクラシック馬が桜花賞のアローキャリーだから、極めて桜花賞志向の強い血統といえ、牡7歳で桜花賞ともいっていられないが、これまでの実績よりも、潜在的なマイル適性が高そうなのは確か。フロリースカップGB系には01年に15番人気で2着に入って馬連10万超馬券の片棒を担いだブレイクタイムもいる。調子を上げてきているだけに、この相手でも一発がある。 ウオッカと父が同じタニノギムレットの△アブソリュートは母プライムステージがサンデーサイレンスUSA産駒初の重賞勝ち馬で、ジャパンC3着の祖母ダイナアクトレスは安田記念でも2着がある名牝。祖母の孫スクリーンヒーローが昨年のG1ジャパンCでディープスカイとウオッカをまとめて退けたのは記憶に新しいところ。ウオッカと同世代の牡馬は、スクリーンヒーローに続いてローレルゲレイロもG1高松宮記念を制しており、遅まきながら反撃態勢に入りつつある。 スズカコーズウェイは名馬ジャイアンツコーズウェイの日本で最初の重賞勝ち馬となった。日本への浸透が遅れているストームキャット直系だが、ダートではヘネシーUSA産駒のサンライズバッカスがフェブラリーSを制しているように、芝でも東京1600mが突破口となる可能性はある。母の父フレンチデピュティUSAはNHKマイルCで実績を残しているように、左回り、1600mが合う。 今季不振とはいえアルマダは昨年の2着馬。父タウケイはラストタイクーンIRE×アホヌーラの配合で、豪G3勝ち馬に過ぎないが、種牡馬としてはニュージーランドで2頭のG1勝ち馬を出している。牝系は地味で古い欧州血脈を集めており、そこにラストタイクーンIREを経てノーザンダンサー血脈を入れることで一気に活力を得るのは南半球馬産の常套手段。サイトウィナーは祖母デュアネッツガールが豪G2AJCセントレジャーに勝った活躍馬。こちらは古い血統に父ファルタートを通じてMr.プロスペクター血脈が入った新しいパターンのシャトルの成功例。いずれも祖母の父がバルメリノというG1凱旋門賞で2着となったニュージーランドの歴史的名馬。これが遠征での強さを支えるキーとなるのかも。 |
競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.6.7
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