2009スプリンターズS


サドラーズウェルズ異観

 北半球と南半球を行き来して種付けするシャトルスタリオンは今ではすっかり一般的になった。簡単に流れを振り返ると、70年代末から80年代初頭の試行錯誤の時代を経て、83年にオーストラリアへ渡ったゴッズウォークが初年度産駒からG1馬ビアンコフライヤーを出し、88年渡航組のケンメア、ブルーバード、アホヌーラらがそれぞれG1勝ち馬を送って軌道に乗った。そして、89年のラストタイクーンIRE、90年のデインヒルUSAが連続ホームランとなって、以降のオーストラリアの馬産を席巻することになる。特にデインヒルUSAは、下の表に見る通り、途中で地元血統ザビールの反撃はあったものの、日本でのサンデーサイレンスUSA王朝と対をなす長期政権を維持した。その後は、日本でサンデーサイレンスUSA後継種牡馬がリーディングの座を継承しているのと同じように、多数の人気種牡馬を擁するデインヒルUSA後継軍団からチャンピオンが現れた。ところが、07/08、08/09シーズンにデインヒルUSA系を押しのけてトップに立ったのはフェアリーキング産駒のエンコスタデラゴだった。その父フェアリーキングは大種牡馬サドラーズウェルズのひとつ下の全弟で、自身もエリシオFRやファルブラヴIREを送った名種牡馬だが、オーストラリアではエンコスタデラゴが唯一のG1勝ち馬。英愛種牡馬ランキングでサドラーズウェルズの首位の座をデインヒルUSAが奪ったのと逆の現象が起きているわけで、途切れることなく重賞勝ち馬が現れ、セリでも上位の価格を占めているエンコスタデラゴ産駒の勢いと層の厚さを考えると、この優位は当分続きそうだ。また、08/09シーズンは3位にサドラーズウェルズ産駒のシーニックが入っていて、フェアリーキング=サドラーズウェルズ血脈が主導権を握る方向へとオーストラリア競馬の流れが変わってきているようにも思える。サドラーズウェルズ系は長距離主体でときどき短距離馬を出し、逆にフェアリーキング系はスピード志向が強かったが、オーストラリアではどちらも短距離馬から長距離馬まで送り出す万能の活躍を見せている。


オーストラリアの歴代リーティングサイアー
年度 種牡馬 (その父)
93/94 ラストタイクーンIRE (トライマイベストUSA)
94/95 デインヒルUSA (Danzig)
95/96 デインヒルUSA (Danzig)
96/97 デインヒルUSA (Danzig)
97/98 Zabeel (Sir Tristram)
98/99 Zabeel (Sir Tristram)
99/00 デインヒルUSA (Danzig)
00/01 デインヒルUSA (Danzig)
01/02 デインヒルUSA (Danzig)
02/03 デインヒルUSA (Danzig)
03/04 デインヒルUSA (Danzig)
04/05 デインヒルUSA (Danzig)
05/06 Redoute's Choice (デインヒルUSA)
06/07 Flying Spur (デインヒルUSA)
07/08 Encosta de Lago (Fairy King)
08/09 Encosta de Lago (Fairy King)

 シーニックブラストAUSの父シーニックは、2歳時に英国で7FのG1デューハーストSに勝った。その後は3歳秋にG3ウィリアムヒルクラシック(10F)に勝つにとどまり、種牡馬としても欧州では冴えず、イタリアやドイツのG2、G3、あるいはアイルランドの障害重賞を出す程度のB級でしかなかった。しかし、シャトル供用初年度産駒から豪G1ヴィクトリアダービーのブレヴィックを出して成功したことから98年にはオーストラリアに落ち着き、AJCダービーのユニヴァーサルプリンスらが大活躍した00/01年には種牡馬ランキング2位になるなど安定した成績を残した。05年に放牧中の心臓発作で世を去ったが、08/09シーズンもシーニックブラストのほか、メルボルンCのヴュード、ニュージーランドダービーのコニストンブルーバード、ドゥーンベンCのシーニックショットなど3頭のG1勝ち馬を送る活躍を見せている。北と南ではまるで別馬のようだが、繁殖牝馬との相性、競馬環境の違いなどがはっきりと出る種牡馬ということなのだろう。一般的にサドラーズウェルズ系というと長距離向きで重い血統という先入観を拭えないが、孫の代にはスプリンターも出ているということで、1200m(6F)以下のG1勝ち馬を示した(下表)。意外にいるもんですね。90年ジャパンCのベタールースンアップAUSから06年のこのレースのテイクオーバーターゲットAUSまで、オーストラリアの強い馬には常識外れの強さを見せつけられる場合が多いが、今回はサドラーズウェルズ系に対する常識を壊してくれるのではないかと期待する。


サドラーズウェルズの孫の短距離G1勝ち馬
馬名 生年 勝ち鞍
ピアヴォニック Piavonic 1995 Scenic 2001 豪G1マニカトS(1200m)
イージーロッキング Easy Rocking 1996 Barathea 2000 豪G1サリンジャーS(1200m)
インペリアルビューティ Imperial Beauty 1996 Imperial Ballet 2001 仏G1アベイドロンシャン賞(1000m)
タンテローズ Tante Rose 2000 Barathea 2004 英G1スプリントC(6F)
キングズチャペル King's Chapel 2000 キングオブキングスIRE 2004 豪G1テレグラフH(1200m)
ダムソン Damson 2002 アントレプレナーGB 2004 愛G1フィーニクスS(6F)2歳
マジカルロマンス Magical Romance 2002 Barathea 2004 英G1チーヴァリーパークS(6F)2歳牝
カチョラウェルズ Cachorra Wells 2002 Poliglote 2007 亜G1エストレージャ大賞スプリント(1000m)
ユニヴァーサルクイーン Universal Queen 2003 Scenic 2007 豪G1ロバートサングスターS(1200m)
シーニックブラストAUS Scenic Blast セン 2004 Scenic 2009 英G1キングズスタンドS(5F)

 アルティマトゥーレは皐月賞馬キャプテントゥーレの半姉。母は阪神牝馬Sに勝ったほか、仏G1モーリスドギース賞2着、G3シンガポール航空クリスフライヤースプリント3着があり、祖母スキーパラダイスUSAは仏G1ムーランドロンシャン賞、京王杯スプリングCに勝っている。3代母スキーゴーグルも米G1エイコーンSに勝ち、産駒に亜G15月25日大賞のスキーチャンプ、きさらぎ賞のスキーキャプテンUSAがいる名牝。父フジキセキは高松宮記念のファイングレイン、スプリントG1・2着2回のキンシャサノキセキAUSを送ってスプリント部門でも実績を残しているし、勢いに乗っているときはG1の壁も楽に越えてしまう。

 グランプリエンゼルはアグネスデジタルUSA×サンデーサイレンスUSAの配合で、これは札幌記念のヤマニンキングリーをはじめ、早くもこの父の定番となったパターン。ヤマニンキングリーの札幌記念に見るように、大物食いの資質(?)も産駒にも伝わっているようだ。仮想敵がシーニックブラストAUSだとすると、サドラーズウェルズの孫ということで父がテイエムオペラオーを負かした天皇賞(秋)の再現を期待できるのではないか。

 ビービーガルダンは純度の高いオセアニア血統の母に、ダンチヒ×ボールドルーラーの北米血統の父チーフベアハートCANという配合。このように縁の薄い血統を組み合わせることで効果を上げるのが、実はシャトルサイアーの成功の理由のひとつ。同年に天皇賞(春)とここを勝てば父にとっても快挙となる。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.10.4
©Keiba Book