2009エリザベス女王杯


富豪令嬢の冒険

 天皇賞(秋)ではカンパニーがウオッカを3着に下して牡馬の意地を示した。しかし、その翌週、アメリカのブリーダーズCでは、BCマイルG1で4歳牝馬ゴルディコヴァが連覇を果たし、BCクラシックG1では5歳牝馬ゼニヤッタが牡馬を一蹴している。名牝ミエスクの2連覇などもあるマイルはともかく、クラシックを牝馬が制したのは史上初めてのこと。これまでは86年トリプティクUSA6着、92年ジョリファ3着、04年アゼリ5着と善戦止まりだった。4度目の挑戦が成功したあたりは近年の世界的女傑ブームが背景にあるのかもしれない。下の表に示した通り、短距離はもとより、クラシックや選手権距離にまでも目覚ましい勢いで牝馬が進出している。日本の牡馬だけが頼りないわけでもなかったのだ。日本ではゼニヤッタと同じ04年生まれに大物が集中しているが、05年生まれにはフランスのザルカヴァ、06年生まれのクラシック世代には米国のレーチェルアレクサンドラがいて、牝馬上位の流れは世界的に継続中だと考えられる。


近年の世界の猛女(04年以降に生まれた北半球の牡馬混合G1勝ち馬)
馬名 生年 勝ち鞍(牡馬混合のG1/Jpn1)
アストンマーチャン 2004 スプリンターズSG1
ヴェンチュラ Ventura 2004 ウッドバインマイルG1(加)
ウオッカ 2004 天皇賞(秋)G1、安田記念G1×2、東京優駿
スリープレスナイト 2004 スプリンターズSG1
ゼニヤッタ Zenyatta 2004 ブリーダーズCクラシックG1(米)
ダイワスカーレット 2004 有馬記念G1
ダルジナ Darjina 2004 ムーランドロンシャン賞G1(仏)
ラグズトゥリッチズ Rags to Riches 2004 ベルモントSG1(米)
アフリカンローズ African Rose 2005 スプリントCG1(英)
ゴルディコヴァ Goldikova 2005 ブリーダーズCマイルG1(米)×2、ジャックルマ
ロワ賞G1(仏)、ムーランドロンシャン賞G1(仏)
ザルカヴァ Zarkava 2005 凱旋門賞G1(仏)
バイラメ Baila Me 2005 ヨーロッパ賞G1(独)
フリーティングスピリット Fleeting Spirit 2005 ジュライCG1(英)
レーチェルアレクサンドラ Rachel Alexandra 2006 プリークネスSG1(米)、ハスケル招待SG1(米)、
ウッドワードSG1(米)

 フランスの3歳牝馬はスタチェリータがサンタラリ賞G1、仏オークスG1から秋のヴェルメーユ賞G1(繰り上がり1着)まで無敗の6連勝を収めてナンバーワンの位置にあったが、凱旋門賞G1ではシーザスターズの前に7着に終わった。ザルカヴァ級の化け物はそうそう現れないということだが、同じ日の牝馬限定オペラ賞G1では3歳馬が1〜3着を占めて古馬を圧倒。その3着馬ミッドデイはブリーダーズCフィリー&メアターフG1に向かい、やはり古馬相手に快勝している。これによってオペラ賞G1のレベル、欧州3歳牝馬のレベルはある程度国際的に裏付けが得られたわけで、その勝ち馬であるシャラナヤの実力もまた、ある程度信頼できるものだと考えられる。牝系は祖父アガ・ハーン三世から父アリ・ハーン、そして当代のアガ・ハーン四世殿下まで80数年にわたって育てられてきた名門で、このドドマの分枝は英・愛ダービーと“キングジョージ”を制し、種牡馬として1年供用された後に誘拐事件の犠牲となったシャーガーで知られる。やはりアガ・ハーン四世殿下の自家生産馬であるザルカヴァはムムタズマハルから分かれた9代目に現れている。別の分枝とはいえ、同じ程度の時間を費やし丹精を込められた結果であることには変わりがない。祖母の父ダルシャーンは自家生産馬、母の父ナシュワンはドバイのハムダン殿下の自家生産馬だが、その父ブラッシンググルームはアガ・ハーン四世殿下の持ち馬であり、手の内に入っている血脈を重ねられた配合様式。そのようなドイツ的な配合に、ドイツの名門フェールホフ牧場の自家生産馬であるロミタスからズルムーやネッカーといったドイツ血脈を導入している。こういったセンス、格調の高さには本当に感心させられる。ちなみに父ロミタスの牝系は9代母レスペランスに遡り、これは昨年の勝ち馬リトルアマポーラの9代母でもある。その母(つまり10代母)はモルニ賞、ジャックルマロワ賞など13勝を挙げた女傑にして名牝ザリバ。


シャラナヤIREの牝系
 MUMTAZ MAHAL (GB) ムムタズマハル (芦、牝、1921、The Tetrarch (GB)) シャンペンS、ナショナル
            S、クイーンメアリーS
  Mumtaz Begum (FR) ムムタズベガム (鹿、牝、1932年生、父Blenheim (GB))
   Dodoma (GB) (鹿、牝、1939、Dastur (GB))
    DIABLERETTA (GB) ディアブレッタ (鹿、牝、1947、Dante (GB)) ジュライS、クイーンメアリーS
     GINETTA (GB) ジネッタ (鹿、牝、1956、Tulyar (GB)) 仏1000ギニー、アランベール賞
      Nasreen (GB) (鹿、牝、1964、Charlottesville (GB))
       Sharmeen (FR) (鹿、牝、1972、Valde Loir (FR))
        SHERGAR (IRE) シャーガー (鹿、牡、1978、Great Nephew (GB)) 英ダービーG1、愛ダー
         |   ビーG1、キングジョージVI世&クイーンエリザベスSG1、チェスターヴァーズG3、クラ
         |   シックトライアルG3
        SHERNAZAR (IRE) シェルナザル (鹿、牡、1981、Busted (GB)) ジェフリーフリーアSG2、
         |   セプテンバーSG3
        SHARAMANA (IRE) シャラマナ (鹿、牝、1993、Darshaan (GB)) ミネルヴ賞G3
         Shalamantika (IRE) (鹿、牝、1999、Nashwan (USA))
          SHALANAYA (IRE) シャラナヤIRE (栗、牝、2006、Lomitas (GB)) オペラ賞G1

 凱旋門賞G1でスタチェリータとの3歳牝馬対決がかなわなかったブエナビスタにとってはスタチェリータの代役が来てくれたようなもので、日本にいながらにしてフランス遠征の気分を味わえることになった。この秋は父のスペシャルウィークが3歳秋にモタついたのをなぞるような戦績。次の段階への脱皮の苦しみのような時期が特にサンデーサイレンスUSA系の一流馬にはあって、今回も取りこぼしがなくはないとも思う。母ビワハイジは果敢にダービーに挑んではね返されはしたが、2歳時の阪神3歳牝馬Sでは後の女傑エアグルーヴを下している。マンハッタンカフェや英ダービー馬スリップアンカーの出るドイツの名門Sラインで、6代母シュヴァルツゴルトは独ダービーを制した女傑。

 ここ2年連続してアグネスタキオン産駒の3歳馬が勝っているだけに、ブロードストリートとジェルミナルも当然有力。ダイワスカーレットの母の父がノーザンテーストCAN、リトルアマポーラの母の父はコマンダーインチーフGBで、いずれも欧州で走ったノーザンダンサー系。それに沿った二者択一ではジェルミナルが残る。母オンブルリジェールIREは仏G3ペネロープ賞勝ち馬。欧州色の濃い血統だけに、秋を迎えての成長は小さくないだろうし、距離延長も歓迎材料となる。

 チェレブリタの父ブラックホークUSAは安田記念を勝ったときが9番人気。母の父アンバーシャダイの娘の仔には東海Sを13番人気で勝ったヤマトマリオン(単勝102.2倍)、京都牝馬Sを8番人気で勝ったチアズメッセージ(25.1倍)、京阪杯を14番人気で勝ったチアズブライトリー(183倍!)がいて、突如大駆けすることがある。3代母ミスマンジュサンの孫には90年のこのレースの勝ち馬キョウエイタップ(これも8番人気だった)がいる。大穴ならこれ。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.11.15
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