2009オークス


嵐の後に咲く桜

 今年これまでのG1/Jpn1の勝ち馬を並べてみると……。

川崎記念カネヒキリノーザンファーム(早来)
フェブラリーSG1サクセスブロッケン谷川牧場(浦河)
高松宮記念G1ローレルゲレイロ村田牧場(新冠)
桜花賞ブエナビスタノーザンファーム(早来)
皐月賞アンライバルドノーザンファーム(安平)
天皇賞(春)G1マイネルキッツビッグレッドファーム(新冠)
かしわ記念エスポワールシチー幾千世牧場(門別)
NHKマイルCG1ジョーカプチーノハッピーネモファーム(浦河)
ヴィクトリアマイルG1ウオッカカントリー牧場(静内)

 地理的には日高の攻勢が質量ともに近年まれに見るものとなった。血統的には第一に9頭中6頭が父系母系いずれかでサンデーサイレンスUSAの孫となっており、しかも複数の勝ち馬を出した種牡馬はいない。サンデーサイレンスUSAの血の威力が拡散したといえる。第二にセレタGB系のローレルゲレイロ、フロリースカップGB系のウオッカ、上田けい子氏の“ジョー”の冠名が4代続いたジョーカプチーノなど、古い牝系の復興が目につく。この流れがいつまで続くのかは分からないが、変わるものは大きく変わり、残るものもそれなりに残った。サンデーサイレンスUSAという大嵐が過ぎた後の世界がいま目の前にあるというわけだ。

 そこで、日本に根付いた血脈で、なおかつうまくサンデーサイレンスUSAの血を取り入れたものがいないか探してみると、浮上したのがサクラローズマリー。“サクラ”の冠名でお馴染みさくらコマースの多くの重賞勝ち馬からG1級を抽出し、それを牝系別に並べると下表のようにシンプルにまとまる。子孫に複数の大レース勝ち馬を出した“特別な名牝”はアンジェリカ(1970年生、父ネヴァービートGB、祖母スターロッチ)、サクラセダン(1972年生、父セダンFR、母スワンズウッドグローヴGB)、サクラクレアー(1982年生、父ノーザンテーストCAN、母クレアーブリッジUSA)の3頭。血統表中にそれが全て出現するのがサクラローズマリーで、“サクラ”の良血を網羅したエリート血統ということになる。父サクラプレジデントは札幌2歳Sを快勝し、朝日杯、スプリングSと連続2着の後に臨んだ皐月賞でネオユニヴァースに痛恨のアタマ差負けを喫し、そのまま大レースには縁がなかったが、札幌記念と中山記念の2重賞を加えて引退。この3歳世代が初年度産駒となる。種牡馬としても同期のネオユニヴァースが既にアンライバルドの皐月賞制覇によってクラシックサイアーとなっているだけに、ここは発奮が待たれる。


“サクラ”のG1級勝ち馬〜母馬別一覧
産駒
シリネラGBサクラショウリ(牡、1975年生、父パーソロンIRE)日本ダービー
アンジェリカサクラスマイル  産駒にサクラスターオー(牡、1984、サクラショウリ)皐月賞、菊花賞
サクラユタカオー(牡、1982、テスコボーイGB)天皇賞(秋)
サクラセダンサクラチヨノオー(牡、1985、マルゼンスキー)日本ダービー、朝日杯
サクラホクトオー(牡、1986、トウショウボーイ)朝日杯
サクラハゴロモサクラバクシンオー(牡、1989、サクラユタカオー)スプリンターズS×2
サクラクレアーサクラチトセオー(牡、1990、トニービンIRE)天皇賞(秋)
サクラキャンドル(牝、1992、サクラユタカオー)エリザベス女王杯
ローラローラFRサクラローレル(牡、1991、Rainbow Quest)天皇賞(春)、有馬記念
太字はサクラローズマリーの血統表中に現れる馬名 


 ブエナビスタの父スペシャルウィークはサクラプレジデントと同じサンデーサイレンスUSA×マルゼンスキーの配合。こちらは日本ダービー、ジャパンCに春秋の天皇賞と堂々たる成績を収めた。カーリアン産駒の母は阪神3歳牝馬S勝ち馬。6代母シュヴァルツゴルトが独オークスと独ダービーに勝った名牝で、その後もザベラ、シェーンブリュン、シュレンダレラといった独オークス馬を出しつつ、じっくりと育てられたスタミナ豊かなドイツ牝系。そこに英米的スピードを注入して大きな成果を得るという同牝系の英ダービー馬スリップアンカー以来の手法で成功した配合。土台がしっかりしているところに、仏ダービー馬と日本ダービー馬を配し、英三冠馬ニジンスキー4×3の近交となる配合だから、むしろ似合うのは1600mより2400mとさえいえる。

 レッドディザイアの父マンハッタンカフェはブエナビスタと同じ牝系。同じサンデーサイレンスUSA系だし、母の父も同じ。こちらは祖母の父がサドラーズウェルズなので、母は日本ダービー馬フサイチコンコルドと同じパターンになり、3代母の産駒にキングジョージVI世&クイーンエリザベスSのベルメッツUSAが出る。ブエナビスタ以上に欧州色が濃いだけに、よりスタミナを要求される流れになるようなら逆転もある。ちなみに、4代母ヴァルドグラスの孫リファリタは仏オークス勝ち馬だから、こちらも“オークス”には縁のある牝系。

 ディアジーナは3代母シャダイターキンが1969年のオークス馬。その孫レッツゴーターキンが天皇賞(秋)を大穴勝ちしたのが1992年。もう17年前のことだから、古い牝系の復興という今年のテーマにも当てはまる。ビショップボブCAN×ハンターコムGBといういかにもマイラー然とした配合だけに、この父といえども2400mが歓迎とはならないだろうとは思うが、マイネルキッツの祖母の父クリムゾンサタンのように、血統的ひっかけ問題というのは往々にしてある。

 デリキットピースは母が1992年のオークス馬アドラーブルの半妹。父ホワイトマズルGBはオークス馬スマイルトゥモローを出した実績があるし、サンデーサイレンスUSA牝馬との組み合わせからはアサクサキングスやシャドウゲイトといった大物が現れた。祖母の父ビッグスプルースもエルバジェ直仔のアメリカのステイヤー。ただ、人気薄でこそ妙味のあるこの父の産駒だけに、無傷の2連勝でちょっと注目され過ぎかという懸念はなきにしもあらず。

 イナズマアマリリスは父系祖父コマンダーインチーフGB、母の父ラムタラUSAがともに英ダービー馬で、父の母スエヒロジョウオーは阪神3歳牝馬S勝ち馬、祖母イナズマクロスはクイーンSに勝ち、エリザベス女王杯でも4着となった活躍馬。祖父母の代の豪華さは、自家生産馬としてこれ以上望めないくらい。近走の成績を度外視してエイヤッと買う大穴ならこれ。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.5.24
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