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たとえば、昔の人のいうことに間違いはないという。また、昔の知恵が現代の科学に照らして合理的なのに驚かされたりもする。昔のひとはよほど賢かったのだろうかということになるが、恐らく昔もたくさん間違ったことをいったりやったりしてはいたのだろう。しかし、時間が経つにしたがって、間違いは淘汰され、たまたま正しいものだけが残った。ほとんど間違いと分かっていても気持ちの上で完全に否定できないものが迷信のたぐいとして正誤の境界線上に残っているということになる。いわゆる名門牝系にもそんな面がある。多くの子孫を出して、そのほとんどが走らなくても、中には優れた競走馬がいるし、成績は良くなくても血統がいいとか、どこか見どころのあるものが残る。そういった淘汰選択が延々と繰り返されて名門牝系は残る。名門だから残ったのではなく、結果として残ったから名門ということになる。◎エスポワールシチーにとって、9代母チップトップUSAの影響は血統表上で単純に考えると2の9乗で512分の1でしかないはずで、実際、自然の状態であれば1/512と考えるのが科学的なのだろう。しかし、サラブレッドの場合にはそこに人の手が入る。チップトップUSA系でいえば、米国産のチップトップUSAが札幌真駒内の種畜場の土を踏んで以来、そのような100年にわたる営みが馬そのもの(と血統書)に刻まれてきた。それが、牝系に備わる力が単なるx分の1に止まらないゆえん。下の牝系図は「サラブレッド血統大系Vol.5」(サラブレッド血統センター刊)でB4版10ページに及ぶチップトップUSA系をこの狭いスペースにまとめたので、大変な豪華名門牝系のように見えるが、各分枝でだいたい10年に1頭の割合で活躍馬が出るという程度。確率としては高くない。ただ、67年のダービー馬アサデンコウから87年のダービー馬メリーナイスまで、どれも突如現れた大物という風情がある。また、東京ダービーの前身である春の鞍を制したオートネから名牝ロジータとその子孫まで、ダートでの強さも在来牝系では出色といえる。エスポワールシチーは6代母ヒロイチがオークス馬。祖母の父ブレイヴェストローマンUSA、母の父ブライアンズタイムUSAに父がサンデーサイレンスUSA直仔というパターンは最新の菊花賞馬スリーロールスと同じ。父ゴールドアリュールはジャパンダートダービー、ダービーグランプリ、東京大賞典、フェブラリーSとダートの大レースをほとんど勝ったが、中山で行われたジャパンCダートだけはイーグルカフェUSAの大駆けに屈した。息子はこれまでかしわ記念、南部杯と父の勝っていないレースを穴埋めするように勝ってきているので、今回は勝つ順番ではないだろうか。余談だが、メリーナイスがダービーに勝ったときの2着がサニースワローで、シルクジャスティスのダービー2着時の勝ち馬がサニーブライアン。ま、この2例だけとはいえ、チップトップUSA系とサニーロマンの子孫には不思議なシンクロがある。この秋はサニーサンデーが福島記念を制して、“サニー一族”に12年ぶりの重賞勝ちをもたらした。これもチップトップUSA系に追い風となるかも。 |
| チップトップUSA系の繁栄 (抜粋) |
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チップトップUSA Tip Top (牝、黒鹿、1900年生、父Pirate of Penzance)米国産、1903年輸入、北海道庁種畜場 竹園(鹿、1908、ラピアスUSA) | 玉姫(鹿、1916、イボアGB) | ユーターピー(1926)─ユーターピーノ一(1936)─プリュー(1944)─ニューベッシー(1949)─ | | アサデンコウ(牡、鹿、1964、シーフュリューGB)東京優駿 | フェボリット(1927)─スヰフト(1944)─ヨシマサ(1953)─アサヒファイター(1966)─イエローフブキ(1976)─ | | ウインドミル(芦、1985、プレストウコウ)東京ダービー | ユングフラウ(1961)─キャラバン(1947)─ | オートネ(栗、1953、プリメロGB)春の鞍 第五チップトップ(黒鹿、1910、カルマGB) | チップノ二(1921)─レヴュートップ(1938)─ニューライト(1945)─ | | イチキヨサチ(鹿、1957、タカクラヤマ) | | | スピードパーシア(牡、栗、1971、パーシアGB)東京大賞典 | | イチシンヒカリ(鹿、1964、トサミドリ) | | スピードキヨフジ(1970)─メロウマダング(1981)─ | | | ロジータ(鹿、1986、ミルジョージUSA)東京大賞典、川崎記念、東京ダービー | | | シスターソノ(黒鹿、1991、ナスルエルアラブUSA) | | | | レギュラーメンバー(牡、黒鹿、1997、コマンダーインチーフGB)JBCクラシック、川崎記念、 | | | | ダービーグランプリ | | | カネツフルーヴ(牡、黒鹿、1997、パラダイスクリークUSA)帝王賞、川崎記念 | | ローズジャック(牡、鹿、1973、アポッスルGB)東京オリンピック記念、帝王賞 | チップノ四(鹿、1924、イボアGB)(競)タマチップ 帝室御賞典(阪神) | 徳運(1936)─オーミネ(1948)─ウラツキホマレ(1953)─コンチネンタル(1962)─メリーブラット(1969)─ | ピーチガール(鹿、1976、セダンFR) | | ユーワメルド(鹿、1983、サティンゴGB) | | シルクジャスティス(牡、栗、1994、ブライアンズタイムUSA)有馬記念 | ツキメリー(栗、1977、シャトーゲイUSA)東京3歳優駿牝馬 | メリーナイス(牡、栗、1984、コリムスキーUSA)東京優駿、朝日杯3歳S 第八チップトップ(鹿、1919、イボアGB) 名月(鹿、1939、月友) ヒロイチ(栗、1952、ヒロサクラ)優駿牝馬 | ジーゲリン(鹿、1961、カバーラップ二世USA) | リンネルンド(黒鹿、1970、テスコボーイGB)牝馬東京タイムズ杯 | | ヤングシチー(1977、アローエクスプレス) | | ヤンゲストシチー(1986、ミルジョージ)3着:優駿牝馬 | リンネス(鹿、1972、フィダルゴGB) | コンパルシチー(鹿、1978、トラフイックUSA) | | リンカーンシチー(牡、鹿、1986、カジュンIRE)クリスタルC | | ヘップバーンシチー(鹿、1990、ブレイヴェストローマンUSA) | | エミネントシチー(鹿、1998、ブライアンズタイムUSA) | | エスポワールシチー(牡、栗、2005、ゴールドアリュール)南部杯、かしわ記念、マーチS | イタリアンシチー(鹿、1979、テスコボーイGB) | ゴールドシチー(牡、栗、1984、ヴァイスリーガルCAN)阪神3歳S | クラウンシチー(牡、鹿、1990、マルゼンスキー)京王杯AH ダンサー(牡、鹿、1954、ヒロサクラ)秋の鞍 |
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○ティズウェイUSAは祖母ウィラメイの産駒にアッシュランドSG1のウィラオンザムーヴUSA、トラヴァーズSG1のウィルズウェイ、孫にBCジュヴェナイルG1・2着のアクセプタブルがいる良血。父のティズナウは00年にはジャイアンツコーズウェイ、01年にはサキーという強力欧州馬の侵攻に抗してBCクラシックG1のタイトルを守った。その牡駒は大きいせいかたいてい晩成型なので、仮想敵サマーバードとの前走の1秒0差は詰まると思う。 ▲ヴァーミアリアンの前走は絶体絶命の位置に押さえ込まれ、それでもアタマ差で勝ちをもぎ取った。力の衰えどころか、凄みさえ感じさせる内容。カンパニーでもそうだが、このような長期にわたるベテランの活躍を支えているのがノーザンテーストCAN血脈。8歳で重賞勝ちのある半兄サカラートの例を見ても、まだまだやれそうだ。 △マコトスパルビエロは3代母の孫が07年のフェブラリーSG1勝ち馬サンライズバッカス。タイムパラドックスやトーホウエンペラーのように、ゆっくりと力をつけてきたダート向きの父ブライアンズタイムUSAの産駒は息長く実績を積み上げやがて頂点に至る。消耗戦に強いのも特長。 ワンダー兄弟は母の父が一発のあるリボー直系。ワンダースピードはシリウスSで4.5キロ与えて0秒6差なら、今度は弟を逆転できる計算。配当的妙味は兄にある。 |
競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.12.6
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