2009天皇賞・春


継承される伝統

 天皇賞(春)や菊花賞のような超長距離戦は、その時期のトップクラスが出てこないと即レベルが低いとみなされる。しかし、どんなスポーツでも近代化につれてカテゴリーの分化も進むものなので、菊花賞や天皇賞(春)が昔のようなオールスター戦にならないのは当然といえば当然の流れ。よくいわれる長距離の斜陽化は本当なのか、ごく単純で最も客観的であろうと思われる走破時計を速度に換算してグラフにしてみた。青のドットが天皇賞(春)の時計、比較のために日本ダービーをピンクで示した。趨勢としてはダービーと変わらないか、むしろそれ以上のペースで着々と時計は短縮され速度は上がってきている。馬場管理の進歩があることを差し引いても、少なくともこの超長距離戦が衰退の途を辿っているということはありえない。今回の出走馬も父に天皇賞(春)出走歴がある馬は7頭を数え、他のカテゴリー以上にしっかりと能力の継承がなされているといえる。ちなみに薄い網かけの部分は大体サンデーサイレンスUSAの影響下にあった時期で、時計短縮に関しても、直仔のディープインパクトやスペシャルウィークが一定の貢献をした。

 そういった時計面でいうと、マーベラスサンデーは97年のこのレースを3:14.7で走った。ディープインパクトに破られるまで10年続いたマヤノトップガンの大レコード3:14.4の3着となったときのもの。その産駒ネヴァブションは3代母がピストルパッカー。3歳春にG3クロエ賞、G1サンタラリ賞、そしてG1仏オークスに勝ち、秋にはG3ノネット賞とG1ヴェルメーユ賞を制して5連勝で仏最強3歳牝馬の座に就いた。勢いに乗って凱旋門賞に挑むとそこでも2着に健闘。その3馬身前でゴールしたのが同い年の英国の名馬ミルリーフだった。68年の凱旋門賞馬ヴェイグリーノーブルを挟んで同期の名馬・名牝がつながったのがこの母で、凱旋門賞のエッセンスを集めた欧州型ステイヤー。現代の大レースに不可欠なノーザンダンサーとヘイルトゥリーズンの血は父から補われていて、遠い代にはハイペリオンが満遍なく潜む。古今東西の名血をバランス良く網羅した配合。種牡馬としてネオユニヴァースら新興勢力に押されがちな92年生まれのSS初年度組だが、去る4月25日にはジェニュイン産駒のポンペイルーラーが豪クイーンエリザベスSで2つ目のG1勝ちを果たしており、これで少しは風向きが変わるかもしれない。

 ジャングルポケットは02年に2着。勝ったのがマンハッタンカフェだからいわば相手の土俵。クビ差なら超長距離への適性は十分に示している。ヒカルカザブエは母の父がサンデーサイレンスUSAだから、オークス馬トールポピーと東スポ杯のフサイチホウオーの兄妹、函館記念のトーセンキャプテンと同じ成功パターン。00年のJRHAセレクトセールで3億2000万円で取り引きされたカームは母の全弟で、貴重な3000m戦・万葉Sに勝ったアドマイヤロードは母の全兄。祖母は仏準重賞勝ちの後、米国に渡ってG1フラワーボウルH2着など活躍した。その半兄フランクリーパーフェクトは仏G3に勝った後に米国に移籍し、G1ハリウッドターフC勝ちをはじめ芝戦線のトップで活躍した。祖母の父アルギュマンは米G1ワシントンDCインターナショナルや仏G1ガネー賞に勝った名馬だが、種牡馬としては活躍馬と呼べるのがこの祖母くらいしかいないマイナーな存在。そういった仏ローカル血統が母系に潜むことでスパイスとして効果を上げそうだ。

 種牡馬としてのラストタイクーンIREはマイラー主体、ときにステイヤーを出していたが、母系に回って活躍の場をより長い距離にまで広げている。これはもちろん配合相手の種牡馬の影響が第一とするにしても、自身の母のミルリーフ×サヤジラオというステイヤー血統がじんわりと影響力を強めている場合もある。日本でもダービー馬キングカメハメハが母の父ラストタイクーンIREだし、昨年のG1ドバイシーマクラシックを制したフジキセキ産駒サンクラシークも同じ母の父だ。モンテクリスエスの母ケイウーマンIREは輸入競走馬として京都4歳特別を逃げ切った活躍馬。牝系はG1仏2000ギニーのリヴァーマンやG1・7勝の名馬ロックオブジブラルタルIREらが出る名門で、ほかにNHK杯のアスワン、阪急杯のセンリョウヤクシャがいて日本との縁も深い。父シンボリクリスエスUSAの産駒サクセスブロッケンと同様、3歳春に素質を示し、しばらく足踏みをして再度上昇するという成長曲線を辿っているようで、伸びる勢いではこれが一番ではないだろうか。

 アサクサキングスは同じ父ホワイトマズルGBのイングランディーレがこのレースを逃げ切った当時と同じ5歳を迎えて本格化したよう。母クルーピアレディーは6勝の半分を1200mで挙げ、その全兄も皐月賞とマイルチャンピオンシップのジェニュインだから、そう長距離向きというイメージもわかないが、この父との配合なら後方一気か先行して力任せに押し切るかの二者択一とはなりそう。ダンシングブレーヴUSA系だけに、人気になると逆にアテにし辛い面もある。

 アルナスラインは祖母が伊G3・2着、その産駒に仏G2勝ち馬がいて、3代母が仏G3ミネルヴ賞勝ちだから、牝系のレベルは準A級といったところだが、配合されてきた種牡馬がレイズアネイティヴ、グロースターク、エルグランセニョールと豪華でしかも大レースでの一発が期待できる爆発力を秘めた血脈。父アドマイヤベガもこと決め手に関してはSS系随一。

 サンライズマックスはステイゴールド×ダンシングブレーヴUSAというムラだが何とも大変な破壊力を感じさせる配合。5代母の産駒ヒカルタカイは68年のこのレースを大差勝ちした。長距離の経験に乏しいだけに常識的には狙い辛いが、大穴ならこれではないか。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.5.3
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